「転職して、仕事は楽しいんです。
でも、なんか……もやもやするんですよね。」
そう言ったあと、彼は少し笑いました。
照れくさそうに。でも、目の奥は真剣で。
環境もいい。
仲間もいい。
仕事もやりがいがある。
それなのに、
心のどこかで、ぽっかり穴が空いてる気がする。
「この会社に転職して、本当にしたいことは、何ですか?」
少し考えて、彼は答えました。
「日本の映画を海外に広げたいです。」
立派な答え。
だけど、どこか“正解っぽい”響きがありました。
「それは、どうしてですか?」
「会社がまだ小さいので、売上を大きくして支えたいんです。」
真面目な言葉。
けれど、その声には、少しの“張りつめ”がありました。
だから、私は言葉を変えて聞きました。
「……もし、誰も見ていなくても、
誰も褒めてくれなくても、
それでも、本当に本当にやりたいと思えますか?」
一瞬、空気が止まりました。
彼は目線を落とし、少し考えて、ぽつりと口を開きました。
「そういえば……空き家をクリエイターの拠点にできたら面白いなって思ってて。
人が集まって、作品が生まれて、そこから新しいエンタメの波が広がっていくような。
そんな場所をつくりたいんです。」
その瞬間、声が変わりました。
柔らかくて、あたたかくて、
“ああ、これが本音なんだ”って、すぐにわかりました。
「やっぱりエンタメが好きなんです。
でも、“映画を売る”だけじゃ続かない。
自分たちの手で、エンタメを生み出し続けられる“土台”をつくりたいんです。」
その言葉には、もう理屈も肩書きもなく、
ただ“好き”がありました。
私たちはいつの間にか、
「正しいこと」を言えるようになります。
でも、
「心が震えること」を忘れていく。
本当に大事なのは、
誰かに認められることじゃなくて、
自分の中の熱を見つけ直すことなんじゃないかと思うんです。
「もし、誰も見ていなくても。
誰も褒めてくれなくても。
それでも、私はこれをやりたいか?」
その問いに、
小さくでも「うん」と言えたなら、
それが、あなたの“本当に本当にしたいこと”なのかもしれませんね。