コーチングをめぐる攻防
先日「令和の虎」を見ていて、印象的なシーンがありました。
ある50代の女性が、コーチングを事業として売り込んだのです。提案の内容は「離職率を下げる」「全員と1on1をする」「悩みを聞く」といった、人に寄り添う取り組みを実現するというもの。
すると女性の虎が、すぐに切り返しました。
「人に寄り添うなんて再現性がない。意味がない」
「私の会社は仕組みで動かしている。社員の意見なんて聞かない」
合理的で筋が通っているように聞こえます。仕組み化は効率を生み、短期的な成長を後押しします。人の感情に振り回されない経営は、一見すると強く見えるのです。
仕組みだけで未来は描けるのか
確かに仕組みは大切です。AIが進化する時代、仕組み化できる領域はますます広がるでしょう。
しかし仕組みはあくまで「型」。人を当てはめることはできても、気持ちや可能性までは扱えません。
社員が悩んでいるとき、「話を聞いてもらえた」ただそれだけで救われ、もう少し頑張ろうと思える瞬間があります。その積み重ねが、離職を防ぎ、組織を長く持続させる力になります。
そしてもう一つ忘れてはいけないのは、仕組みは予想外の事態には対応できないということ。
新しい競合が現れたとき。市場が急変したとき。
マニュアルにない事態に対応できるのは、人の判断や柔軟性です。
「寄り添う力」の価値
プレゼンをしていた女性は「実績がない」と繰り返し突っ込まれていました。普通なら押しつぶされてもおかしくない場面。
それでも彼女は相手を否定せず、丁寧に答え続けました。その姿勢が場を巻き込み、空気を変えていったのです。
「実績はないけれど、人に寄り添うことならできる」
その言葉に、コーチングの本質が表れていました。問いを投げかけ、人に考えさせ、相手の中から答えを引き出す。人が自分の意思で動けるようになることこそ、仕組みでは置き換えられない力です。
経営に残るものは人
仕組みで固める経営は間違いではありません。
けれど仕組みだけでは、人は続かないし、組織も変化に耐えられません。
長期的な成長やイノベーションは、仕組みではなく人の想いから生まれる。
予想外の競合や市場の変化を乗り越えるのも、結局は人です。
あの若い虎がそれに気づくのは何年後でしょうか。
「正しさ」だけで走る経営に、物足りなさを感じる瞬間は必ず訪れます。
最後に残るのは、やはり人。
問いの力、人の声に耳を傾ける力こそが、組織を続かせ、未来をつくるのだと思います。