旅行と偏見:「フランス人は10着しか服を持たない・・・」のか?

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何となく思い立って本棚を整理していると、「フランス人は10着しか服を持たない・・・」なる本を見つけました。

なんでもこの本は大変売れたそうです。

しかし、ざっと読み返してみると、やはり偏見に溢れています。

昔から旅行をすると見聞が広がると言われています。

だから「かわいい子には旅をさせよ」といった諺もあるのでしょう。

しかし、旅をすると却って勘違いを増大させてしまうこともあります。

かなり前に亡くなった映画監督 伊丹十三さんは「ヨーロッパ退屈日記」のなかで、「偏見を得ようとするなら、旅行をするにしくはない」と言っています。

まったくその通り。

旅といった短期間で、大したことが理解できるわけがない。

ただ、人間は大抵、自分の経験が特別だと考えたがるものです。

自分の目で見た、または見たと信じているほんの僅かなことから、新しい発見をしたと思い込む。

ところで、「フランス人は10着しか服を持たない・・・」の著者(ジェニファー・L・スコット)ですが、アメリカ人で15年前に交換留学生としてパリに半年滞在しました。

そう、たったの半年。

彼女は21歳だったとのことです。

それでフランス人はどうしたなんて言える勇気は凄い。

滞在期間の長さや年齢は関係ないと言うかも知れませんが(本人は身も心もパリジェンヌになったそうです)、もし、外国人の21歳やそこらの女の子が6カ月ほど日本に滞在して、日本人はどうこう言ったら、あなたは信じますか。

人それぞれですから、信じる人がいても別にいいですが。

そして、ホームステイした家族の生活に感銘を受けた。

まず驚いたのは洋服ダンスの小ささです。

アメリカ人の彼女にとっては考えられないことですが、ホームステイ先の家族にはこれで良かったんですね。

家族の一人ひとりが洋服を10着しか持っていないから。

これで生活の質を高めることができる。

しかし、生活の質うんぬんはひとまず置くとして、この10着というのが、春、夏、秋、冬の季節毎に10着ずつなんです。

しかも、ドレスやコート等は含まない。

ううむ、彼女はアメリカでどんな生活をしていたんでしょう。

日本人だったら当たり前でしょう。

しかし、コート等を含まないで1シーズン10着とすると、全体で50着くらいになりますよね。

私は日本の女性のことも良く知っているとは言えませんが、これは結構多いような気がします。

アメリカではどうか知りませんが、日本では、住宅事情を考えるとよほど経済的に余裕がないとこれだけの洋服をしまえるようなワードローブを持てないでしょう。

要するにこの本は日本人にとっては別に目新しいことを提唱しているわけではないんですが、なぜか沢山の女性(多分)が飛びついた。

結局、題名の付け方が上手かったんでしょうね。。

「Lessons from Madame Chic: 20 Stylish Secrets I Learned While Living in Paris」を直訳してもこんなにヒットしなかったはずです。

「カリフォルニアガールがフランスの貴族の家にホームステイをして学んだ上質に暮らす秘訣」といった惹句もなかなか効果を上げています。

日本の若い女性は貴族が大好きですから。

一応書いておくと、フランスの貴族制度はずいぶん前に廃止されています。

ですから貴族は存在しないんですね。

当然、伯爵、侯爵といった爵位もありません。

名前の一部にそうした家系の名残はありますが。

この著者の主張は、大体以下の通りです。

間食はせず、食事を存分に楽しむ。

上質なものを少しだけ持ち、大切に使う。

日常の中に、ささやかな喜びを見つける。

別に驚くようなことではありませんね。

当たり前と言うか、似たようなことは何度も聞いたことがあります。

それに、特にフランス人から教わらなければいけないことではないんじゃないかな。

著者にとって、フランス留学は単なるきっかけだったのでしょう。

前から漠然と感じていたことが、フランス留学をきっかけに形になった。

結局、個人的な狭い経験に基づいた単なる思い込みなんですが、それでいいんですね。

ところで、日本人は昔からフランス人には多くの幻想を抱いています。

フランス人はグルメだとか、おしゃれだとか、あと、恋愛体質なんてのもあるかな。

しかし、少なくとも私の知る限り、これらは現実のフランス人の姿とはかなり違います。

まず、グルメ云々ですが、私の知っている限り、彼らはろくなものを食べていません。

朝はバゲットを4分の1に切って、更に半分に割り、バターを塗ったものを1〜2枚にカフェオレ程度。

クロワッサンは値段が高いので普通の家庭ではまず食べません。

昼食は、パリ市内では、社員食堂がある企業が少ないため、たいていの人は近くのカフェや安いレストランで軽食を取ります(サンドイッチ、オムレツ等)。

そして、夕食ですが、共稼ぎが多く、手の込んだ料理を作る暇がないために、出来合いの惣菜を買ってくるか、簡単に料理できるもので済ませます。

最近では冷凍食品が大人気。

伝統的なフランス料理は、料理自体をする人がどんどん少なくなっていることや、若い世代の嗜好の変化からかなり衰退していると言われています。

そう云えば、フランスの若者の料理への嗜好に関する調査によれば、上位4位すべてを外国料理が占めるとの結果が出ていました(パエリア、スパゲッティ、ピザ、クスクス-北アフリカ料理)。

また、手頃な価格のレストランも日本に比べると種類も数も少ないですし、味もかなり落ちます。

こうして見るとフランス人がグルメだなんてとても言えないでしょう。

ついでに言うと、味覚自体もそれほどではありません。

これを科学的に証明したデータを見たことがありますが、時間がかかるので、その話はまた別の機会に。

私もフランスに住んでいた時に、何度か招待されて家庭料理をご馳走になったことがあります。

しかし、それほど美味しいと感じるものに出会ったことはないですね。

出てくるのは、大抵、肉か鶏、または魚を焼いたものと野菜の付け合わせ。

この野菜が特にひどい。

ぐたぐたに煮たもので味がついていない。

どの家でも、また、日本で言えば定食屋のような街のレストランでも同じですから、多分、これがフランスの一般的な味なんでしょう。

あまり知られていないようですが、フランスで最もポピュラーな料理といえば、ステック・フリットです(大抵のフランス人は、週1回は食べます)。

要するにビーフステーキにフライドポテトを添えたものですが、大抵、ものすごく固い肉で、味もろくについていない。

フライドポテトは日本と同じですが。

多分、フランス人の味覚が繊細だというのは、味音痴で有名なアメリカ人やイギリス人と比べればということなのでしょう。

高級フランス料理は確かに素晴らしいですが、一般的なフランス人には縁がないものですし、もっと手頃な値段のレストランにはあまり美味しいところがない。

だから適当な値段で満足できる外国料理が流行るのでしょう。

イタリア料理、アラブ料理、インド料理、そして日本料理ですね。

フランス人がお洒落だというのも思い込みでしょう。

特に若い人たちは汚い格好をしています。

みんなお金がないので、ブランド物はもちろん、ろくに洋服を買えないんですね。

少しずれますが、実はフランスは欧州では美人・美男国とは考えられていません。

一般的に男性も女性もぱっとしない。

女の子なんか日本の方が絶対可愛いと思います。

確かに日本で紹介されるいわゆるパリジャンやパリジェンヌは悪くはありませんが、雑誌やテレビは本当のことは見せませんからね。

読者や視聴者の期待に合わせているだけです。

それからフランス人は恋愛至上主義だというのも嘘ですね。

ただ、婚外恋愛については日本よりも寛大かな。

それでもいつもいつも恋愛のことばかり考えているわけではないですが。

ことほどさように日本人(多分、アメリカ人も)は、フランス人に多大な幻想を抱いていますが、そのほとんどがマスコミがタメにするためにわざと誇張したイメージでしょう。

結局のところ、「フランス人は10着しか服を持たない・・・」も同じことで(ようやく最初のテーマに戻りました)、フランス人の現実像には関係がないと思ってください。

では。
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