今日を終わらせたくない。
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コラム
雨は、家の近くまで来る頃には、
ほとんど止んでいた。
ぽたん。
傘の先から、
最後の雫が落ちる。
「じゃあね」
陽菜が笑う。
いつも通りの笑顔。
でも、
凪にはいつも通りじゃなかった。
「まだ悠真のこと好きなの?」
「わかんない」
「今の凪の方が好きだけどね」
何度も頭の中で繰り返される。
陽菜はもう歩き出している。
なのに、
凪だけがそこに残されているみたいだった。
家に帰る。
玄関を開ける。
「ただいま」
返事はない。
静かな家。
自分の部屋へ入る。
鞄を置く。
ベッドに座る。
そして、気づく。
今日一日、
何度も陽菜のことを考えていた。
朝も。
昼も。
放課後も。
帰り道も。
でも、悠真のことは。
ほとんど考えていない。
凪は天井を見る。
胸の奥が少しざわつく。
これは何なんだろう。
その時、スマホが震えた。
メッセージだった。
送り主を見て、心臓が跳ねる。
陽菜。
『ちゃんと家着いた?』
たったそれだけ。
たったそれだけなのに。
凪は気づいてしまう。
嬉しい。
すごく嬉しい。
返信を打とうとして、
手が止まる。
なんて返そう。
大丈夫。
着いたよ。
それだけでいいはずなのに。
なぜか、
もっと話したいと思ってしまう。
もっと。
もう少しだけ。
今日を終わらせたくない。
凪はスマホを見つめる。
その時だった。
不意に、悠真の顔が浮かぶ。
もし。
今、このメッセージが悠真からだったら。
私は同じように嬉しかっただろうか。
答えは、すぐには出なかった。
でも、その問いを考えた瞬間、
胸の奥で何かが静かに動いた。
初めてだった。
悠真と陽菜を、
比べてしまったのは。
そして凪は、
まだ知らない。
その答えが、
思っているより近くまで来ていることを。