なのに、凪だけが妙に落ち着かない。
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風が、ふたりのあいだを通り抜ける。
「今のほうが好きかも」
陽菜の言葉は、
もうとっくに終わったはずなのに、
凪の胸の中ではまだ続いていた。
今のほうが好き。
それは、どういう意味なんだろう。
陽菜は特別な顔をしていない。
卵焼きを食べて、
いつもみたいに笑っている。
なのに、凪だけが妙に落ち着かない。
"私は、陽菜に好きだと思われたいのかな"
さっき浮かんだ問いが、
まだ胸の奥に残っている。
その時だった。
「おーい」
遠くから声がした。
振り向く。
悠真だった。
中庭を横切りながら、
誰かに手を振っている。
クラスの男子たちも笑っている。
いつもの光景。
少し前までなら、
凪は自然に目で追っていた。
でも今日は違った。
悠真を見たあと、
凪は無意識に陽菜を見る。
陽菜は気づいていない。
普通にお茶を飲んでいる。
その横顔を見た瞬間、
胸の奥がまた揺れる。
凪は思う。
悠真を見た時と、
陽菜を見た時。
何が違うんだろう。
悠真を見ていると、
"素敵だな"と思う。
でも、陽菜を見ていると。
"離れたくないな"と思う。
その違いに気づいた瞬間、
心臓が大きく鳴った。
離れたくない。
その言葉は、
凪自身が思っていたより重かった。
慌てて否定する。
違う。
ただ、一緒にいて楽だから。
話しやすいから。
安心するから。
それだけ。
でも、心のどこかでわかっていた。
それだけじゃないことを。
陽菜がふとこちらを見る。
「どうしたの?」
凪は慌てて首を振る。
「なんでもない」
陽菜は少し笑う。
「最近、なんか変だよね」
その言葉に、凪の心臓が止まりそうになる。
まさか。気づかれた。
そう思った瞬間、陽菜は続けた。
「なんか考えごとしてる」
凪は小さく息を吐く。
違った。
でも、少し残念な気もした。
その感情に気づいて、自分自身が一番驚く。
どうして私は、気づいてほしいと思ったんだろう。
その問いに答えられないまま、
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
そして凪はまだ知らない。
この気持ちが、
これからもっと大きな問いになっていくことを。