私は、陽菜といる時の自分が好きなのかもしれない

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コラム
昼休みのチャイムが鳴った。
教室の空気が、一気にほどける。

椅子の音。
笑い声。
購買へ向かう足音。

いつもの昼休み。
凪は、ぼんやり窓の外を見ていた。

"私は、陽菜といる時の自分が好きなのかもしれない"

さっき浮かんだ言葉が、まだ胸の奥に残っている。

その時だった。

「凪」
聞き慣れた声。

顔を上げる。

陽菜だった。

「お昼、一緒に食べない?」

ただそれだけ。
ただそれだけなのに、胸が少しだけ跳ねる。

凪は慌てて立ち上がる。

「う、うん」

陽菜が笑う。

その笑顔を見ると、なぜだか少し安心する。

二人は中庭へ向かった。

春の風。
柔らかな日差し。
木陰のベンチに並んで座る。

しばらく、特別な話はしなかった。

授業のこと。
先生のこと。
クラスメイトのこと。
どこにでもある会話。

なのに、凪は不思議だった。
こんな普通の時間なのに、
どうしてこんなに心地いいんだろう。

陽菜が、お弁当の卵焼きを見ながら言う。

「それ美味しそう」
「交換する?」
「する」

小さな笑い声。
その瞬間、凪は思い出す。

人生の意味は、遠くにあるものじゃない。
そんな言葉を、どこかで聞いたことがある。

大きな夢。
大きな成功。
特別な何か。

そういうものじゃなくて、
誰かがかけてくれた言葉。
誰かがくれた安心。
誰かが隣で笑ってくれた時間。

そういうものの中に、
静かにあるのかもしれない。

凪は陽菜を見る。
陽菜は気づかない。

普通に卵焼きを食べている。

でも、凪の胸の奥では、
何かが少しずつ形になり始めていた。

昨日、陽菜が言った言葉。
"凪が楽なほうが、見てて安心する"

あの言葉は、ただ優しかっただけじゃない。
あの言葉があったから、
凪は昨日、少しだけ自分を許せた。

"今日はこれで十分"そう思えた。
そのことに気づいた瞬間、凪の胸が静かに揺れる。

もしかしたら私は、
陽菜そのものに惹かれているだけじゃない。

陽菜が見つけてくれる、
"私"に惹かれているのかもしれない。

その考えが浮かんだ瞬間、胸が少しだけ熱くなる。
でも、まだ答えにはしたくなかった。

答えにしてしまったら、
何かが変わってしまう気がした。

だから凪は、その気持ちを胸の奥にそっと置く。
そして、陽菜が差し出した卵焼きを受け取って、
少しだけ笑った。
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