朝のホームルームが始まる。
先生の声が教室に響く。
でも、凪の頭にはほとんど入ってこなかった。
"私は陽菜の何に惹かれているんだろう"
その問いが、ずっと胸の奥に残っている。
窓の外では、春の風が木の葉を揺らしていた。
陽菜は数列前の席で、普通にノートを開いている。
本当に普通だった。
昨日の夜、あんな話をした人とは思えないくらい。
それなのに私は・・・。
凪は気づく。
気づくと、陽菜を探している自分に。
視線が勝手に向いてしまう。
笑っているかな。
今、何を考えているんだろう。
そんなことばかり。
「……おかしい」
小さくつぶやく。
悠真の時は違った。
悠真を好きだった時、
こんなふうに一日中考えていたわけじゃない。
会えたら嬉しい。
話せたら嬉しい。
それはあった。
でも今は違う。
陽菜のことを考えるたび、
胸の奥のどこかが揺れる。
そして、少し安心する。
それが余計にわからない。
恋って、こんな感じだっただろうか。
先生が黒板に問題を書く。
「じゃあ、この問題」
教室が少しざわつく。
凪は慌てて教科書を開いた。
でも、ページをめくった瞬間、
ふと昨日の夜を思い出す。
"今日はもう十分なんじゃない?"
陽菜の声。
胸が少しだけ温かくなる。
その時、凪はあることに気づく。
陽菜を思い出すと、安心する。
でもそれだけじゃない。
頑張らなくていい気がする。
ちゃんとしていなくても、
大丈夫な気がする。
それは今まで、
誰かに感じたことのない感覚だった。
悠真といる時は、
もっと素敵な自分でいたかった。
でも陽菜といる時は、逆だった。
頑張らない自分でも、
そこにいていい気がする。
凪は、その違いに気づいた瞬間、
胸が静かに鳴る。
"私は……"
言葉にならない。
まだ早い気がする。
でも、何かが少しずつ変わっている。
ずっと続けてきた問い。
"どうしたら嫌われない?"
"どうしたら期待に応えられる?"
その代わりに、最近は別の問いが増えていた。
"私は何を感じているんだろう"
"私はどうしたいんだろう"
そして、もう一つ。
"私は、陽菜といる時の自分が好きなのかもしれない"
その考えが浮かんだ瞬間、
凪は慌てて教科書に視線を落とした。
まだ、答えを出したくなかった。
でも、問いだけは、確実に変わり始めていた。