私は、陽菜に好きだと思われたいのかな

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コラム
陽菜の言葉が、凪の胸の奥に残っていた。
「最近、前より笑うよね」

その一言。
たぶん、何気なく言っただけ。

でも、凪にとっては違った。
今まで、いろんな人に言われてきた。

優しいね。
真面目だね。
しっかりしてるね。

でも、"笑うようになった"
と言われたことは、あまりなかった。

それはつまり、陽菜が見ていたのは、
"頑張っている私"じゃなくて、
もっと別の私だったのかもしれない。

風が吹く。
木々が揺れる。

陽菜は、お弁当箱を閉じながら言った。

「ねえ」

凪が顔を上げる。

「凪ってさ」

また心臓が少し跳ねる。

陽菜は少し考える。
「昔からそうだったの?」

「え?」

「なんか」
陽菜が笑う。
「人のことばっかり気にするの」

凪は言葉に詰まる。
図星だった。

気づけば、いつもそうだった。
誰かが怒っていないか。
誰かが傷ついていないか。
誰かが困っていないか。
そればかり見ていた。

そして、自分のことは後回しだった。

「……たぶん」
小さく答える。

陽菜は頷く。
否定しない。
笑わない。
ただ聞いている。

昔なら、
ここで何か説明していたかもしれない。

大丈夫だよ。
そんなことないよ。
そう言われるのを待っていたかもしれない。

陽菜は、凪を変えようとしない。
ただ、見ている。

その静けさが、なぜか心地いい。

しばらく沈黙。
でも、もう苦しくない。

陽菜が空を見上げる。
「私ね」
ぽつりと言う。
「凪が無理してる時、なんとなくわかる」

凪の胸が揺れる。

「だから」
少しだけ笑う。
「今のほうが好きかも」

風が止まる。
世界の音が、少し遠くなる。

凪は返事ができなかった。

"今のほうが好き"
その言葉が、胸の奥で何度も繰り返される。

嬉しい。
なぜだろう。
陽菜にそう言われることが、
こんなに嬉しい理由をまだ説明できない。

そして凪は、また新しい問いを見つけてしまう。
"私は、陽菜に好きだと思われたいのかな"

その問いに、自分自身が一番驚いていた。
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