安心と恋は、何が違うんだろう。
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コラム
午後の授業が始まった。
教室には、チョークの音だけが響いている。
先生が何かを説明している。
でも、凪の頭にはほとんど入ってこなかった。
窓から差し込む午後の日差し。
机の上に落ちる光。
教室の静けさ。
凪はふと、数列前の席を見る。
陽菜がいる。
普通にノートを取っている。
さっきまで一緒にいたのに。
ほんの数分前まで、
隣で話していたのに。
それなのに、なぜか少し遠く感じる。
その感覚に、凪は戸惑った。
離れたくない。
その言葉が、まだ胸の奥に残っている。
どうしてなんだろう。
悠真といる時には、感じたことがなかった。
悠真を見ていると、胸が高鳴ることはあった。
でも、陽菜を見ている時は違う。
胸が落ち着く。
安心する。
まるで、ずっと力を入れていた肩が、
少しだけ軽くなるみたいに。
その時、先生の声が聞こえた。
「休むことも大事だぞ」
授業とは関係ない雑談だった。
教室に小さな笑いが起こる。
でも、その言葉だけが凪の耳に残った。
休むことも大事。
凪はふと思う。
私は、いつからこんなに頑張っていたんだろう。
嫌われないように。
迷惑をかけないように。
期待に応えられるように。
ちゃんとして見えるように。
気づけば、ずっと緊張していた。
でも、陽菜といる時だけは違う。
無理に笑わなくてもいい。
頑張らなくてもいい。
ちゃんとしていなくても、
そこにいていい気がする。
凪は窓の外を見る。
白い雲が、ゆっくり流れている。
ふと、思う。
もしかしたら、
私が陽菜に惹かれているのは、
優しいからでも、可愛いからでも、
話しやすいからでもなくて、
陽菜といる時の私は、
安心できるからなのかもしれない。
その考えが浮かんだ瞬間、
胸が少し熱くなる。
でも同時に、新しい問いも生まれる。
安心と恋は、何が違うんだろう。
私は、陽菜に安心しているだけ?
それとも——
その続きを考えた瞬間、
授業終了のチャイムが鳴った。
凪は小さく息を吐く。
答えはまだ出ない。
でも、問いだけは、
確実に深くなっていた。