ちゃんとしていれば大丈夫。優しくしていれば嫌われない。
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コラム
ブランコは、ゆっくり揺れていた。
きい、と小さく鳴る音が、
夜の静けさに溶けていく。
凪と陽菜は、並んで座ったまま、
しばらく何も話さなかった。
でも、
その沈黙は、不思議と苦しくなかった。
夜風が、二人の髪を揺らす。
街灯の光が、
足元にやわらかい影を落としている。
凪は、鎖を軽く握ったまま、
前を見ていた。
“理解される価値がある”
そんな言葉を、
昔の自分は信じられなかった気がする。
ちゃんとしていれば大丈夫。
優しくしていれば嫌われない。
空気を読めば、ちゃんとここにいられる。
そう思っていた。
でも、今こうして陽菜の隣にいると、
それだけじゃなかったのかもしれないと思う。
「……静かだね」
凪が、小さく言う。
陽菜が、少しだけ笑う。
「うん」
短い返事。
でも、その声の温度が、やさしい。
また沈黙が落ちる。
普通なら、何か話さなきゃと思う時間。
でも今日は、それがない。
凪は、少しだけ不思議だった。
誰かと一緒にいるのに、
頑張って空気を作らなくていい。
ちゃんと笑わなくていい。
何か話題を探さなくていい。
ただ、ここにいる。
それだけでいい。
その感覚に胸の奥が、少しだけ熱くなる。
「……陽菜といると」
凪が、ぽつりと言う。
言葉を選ぶみたいに、少し間を空ける。
「なんか」
ブランコが、きい、と鳴る。
「呼吸、楽」
言ったあとで、
凪は少しだけ視線を落とす。
恥ずかしくなったみたいに。
でも、陽菜は笑わなかった。
からかいもしない。
ただ、少しだけ目を細める。
「そっか」
小さな声。
その一言だけで、
凪の胸の奥が、また静かにほどける。
陽菜が、足で少しだけ地面を蹴る。
ブランコが、ゆっくり前に揺れる。
「凪ってさ」
夜風の中で、陽菜が言う。
「ずっと息止めて生きてた感じする」
凪の心が、静かに揺れる。
図星だった。
頑張ること。
合わせること。
嫌われないこと。
そればかり考えて、気づけば、
“自分が楽かどうか”を考えなくなっていた。
「……かも」
凪が、小さく笑う。
その笑い方は、前より少しだけ自然だった。
陽菜は、その横顔を見る。
街灯の光が、やわらかく頬を照らしている。
「じゃあさ」
陽菜が、静かに言う。
「少しずつ、息してけばいいじゃん」
風が吹く。
カーテンみたいに、夜の空気が揺れる。
凪は、返事をしなかった。
でも、その言葉を、
ちゃんと胸の奥に置いた。
ブランコが、また小さく揺れる。
夜は静かだった。
でも、凪の中では、
ずっと固く閉じていた場所に、
少しずつ空気が流れ始めていた。