ずるい、じゃない。怖いんだと思う。
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コラム
校門を出た瞬間、
空気が少しだけ軽くなった。
でも、それは
安心とは、違う。
凪は、夕焼けに染まる道を歩きながら、
胸の奥に残るざらつきを感じていた。
——学校では、終わった。
けれど。
(終わらないものも、ある)
スマホが震える。
グループ通知。
知らない名前が、いくつか並んでいる。
《ねえ、聞いた?》
《先生には、ああ言ったらしいよ》
《結局、どっちが本当なんだろ》
凪は、画面を伏せた。
——始まった。
悠真も、坂本も、
同じようにスマホを見ているのがわかる。
凪は、歩みを止める。
「ね」
「私、ちゃんと話したよね」
声は、小さい。
でも、確かめるような響きがあった。
悠真は、すぐに答える。
「話した」
「逃げなかった」
坂本も、少し遅れて続ける。
「だから、これ以上は」
「凪の責任じゃない」
その言葉に、
胸が、少しだけ楽になる。
でも。
(それでも、噂は回る)
そのとき。
道の向こうに、
三條輝の姿が見えた。
友達数人に囲まれて、
楽しそうに笑っている。
一瞬、視線が合う。
三條は、軽く手を挙げた。
——何も知らない、という顔で。
凪は、目を逸らす。
(学校の中では、動けない)
だから。
(外で、形を変える)
そのことを、
はっきり理解した。
坂本が、歯を食いしばる。
「……ずるいな」
凪は、首を振る。
「ずるい、じゃない」
「怖いんだと思う」
坂本は、驚いた顔をする。
「主導権が、戻らないのが」
三條は、
学校の中では、もう動けなかった。
だから今、
“空気”を使おうとしている。
——でも。
凪は、立ち止まった。
「ね」
「私、もう黙らない」
悠真と坂本が、振り返る。
「全部を説明するわけじゃない」
「でも、歪んだ話を」
「放ってはおかない」
悠真は、静かにうなずく。
「俺も、横にいる」
坂本は、少し笑って言う。
「じゃあ、俺は後ろだな」
「逃げ道、塞ぐ役」
三人は、
夕暮れの道を、再び歩き出す。
校門の外で、
物語は歪み始めた。
でも。
それに、
飲み込まれるつもりはなかった。
凪は、そう決めていた。
——次は、
——自分から、踏み出す番だ。