誰かの味方になるということは、 同時に、誰かの視界に入るということ

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コラム
坂本が席に戻ったあと、
教室は、いつも通りの音に戻った。

椅子を引く音。
ノートを閉じる音。
誰かの笑い声。

でも、凪にはわかっていた。

——さっきまでとは、違う。

坂本が話し掛けたことで、
この出来事は、
ただの空気の揺れじゃなくなった。

(戻っていいのかな……)

凪がそう思った瞬間。

「坂本」

静かな声が、教室の後ろから落ちた。

三條輝だった。

呼び方は、いつも通り。
声も、穏やか。

でも。

その場にいる全員が、
無意識に耳を澄ませたのがわかった。

「さっき、凪と話してたよね」

坂本は、一瞬だけ動きを止めてから、
振り向く。

「ああ、うん」

軽く返したつもりだった。
でも、声が少し硬い。

「何の話?」

三條は、首をかしげる。

「別に、
 詮索したいわけじゃないんだけどさ」

そう前置きしてから、続ける。

「最近、みんなピリピリしてるでしょ」
「変に誤解が広がるの、よくないなって」

凪の胸が、ざわつく。

——来た。

三條は、坂本を責めていない。
でも、
場を三條のペースに戻そうとしている。

坂本は、少し考えてから言った。

「誤解、っていうか」

一拍。

「俺は、凪さんが
 ちゃんと話してたって思っただけ」

教室の空気が、きしむ。

三條の目が、ほんのわずかに細くなる。

「ちゃんと、って?」

坂本は、視線を逸らさない。

「自分の言葉で、って意味」

それは、三條の論理に、
真っ直ぐ当たる言葉だった。

「ふうん」

三條は、笑う。

「でもさ」
「一部しか話してないのも、
 事実だよね」

凪の心臓が、跳ねる。

(坂本くん……)

坂本は、少しだけ言葉に詰まる。

その“間”を、三條は逃さない。

「ほら」
「だから、みんな迷ってる」

「誰を信じればいいか」

その言葉は、
坂本に向けたもののようで、
実は教室全体に向けられていた。

——空気を、引き戻す声。

坂本は、拳を握る。

「……迷ってるなら」
「決めつけなきゃいいじゃん」

静かな声。

でも、はっきりしている。

「少なくとも」
「本人が拒否したのに」
「代わりに説明しようとするのは、
 違うと思う」

三條の笑みが、消える。

ほんの一瞬。
でも、確かに。

「坂本」

名前を、ゆっくり呼ぶ。

「それ、凪に頼まれた?」

坂本は、首を振る。

「頼まれてない」

「じゃあ、なんで?」

その問いは、
“善意”を試す問いだった。

坂本は、息を吸う。

「……黙ってるのが、
 嫌だったから」

その答えに、
教室が静まる。

凪は、思わず立ち上がりかけて、
悠真の視線に気づいて、止まる。

——今は、坂本の番だ。

三條は、数秒、何も言わなかった。

やがて、いつもの声に戻る。

「そっか」

「正義感だね」

軽い言葉。
でも、その裏にあるものを、
坂本は感じ取っていた。

——ここから、立場が変わる。

三條は、席に戻りながら、
ぽつりと残す。

「気をつけたほうがいいよ」
「目立つと、疲れるから」

それは、忠告の形をした、
線引きだった。

坂本は、何も返さない。

ただ、前を向く。

凪は、その背中を見て、
胸が締めつけられる。

——名乗るって、
こういうことなんだ。

誰かの味方になるということは、
同時に、
誰かの視界に入るということ。

放課後。

凪は、坂本の机の前に立つ。

「……さっきの」
「ありがとう」

坂本は、少し困ったように笑う。

「いや」
「俺も、言いたかっただけ」

一拍置いて。

「でもさ」
「ちょっと、怖くなった」

正直な声だった。

凪は、うなずく。

「……私も」

二人は、同時に小さく笑った。

完全に安心なんて、できない。
でも。

——一人じゃない。

それだけで、
足元が、少しだけ強くなる。

そして、廊下の向こうで。

三條輝は、
二人の様子を、静かに見ていた。

——次は、
——もう少し、
はっきり動く必要がある。

盤面は、
確実に変わり始めていた。
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