試すみたいなやり方は、もう、通じない

試すみたいなやり方は、もう、通じない

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コラム
教室の空気は、張りつめたままだった。

三條と坂本のあいだに落ちた沈黙は、
誰かが咳をするまで、解けなかった。

坂本は、
何事もなかったようにノートを開く。
でも、ペン先が、わずかに震えている。

——怖い。

それでも、引かない。

凪は、
その横顔を見て、胸が痛くなる。

(……私のせいだ)

そう思った瞬間だった。

「ちょっといい?」

低い声。

悠真が、立ち上がっていた。

教室中の視線が、
一斉にそちらへ集まる。

悠真は、三條を見る。

真正面から。

「さっきのやり方さ」

声は荒れていない。
怒鳴ってもいない。

でも、逃げ道もない。

「坂本に言う必要、あった?」

三條は、驚いたように目を瞬かせる。

「必要、って?」

「“目立つと疲れる”ってやつ」

悠真は、一歩だけ前に出る。

「それ、忠告じゃない」
「圧だよ」

教室が、静まり返る。

——ついに、言葉にした。

三條は、すぐに反論しなかった。

しばらくして、
口元に薄い笑みを浮かべる。

「守ってるつもり?」

その問いは、
悠真に向けられているようで、
実は凪に突き刺さる。

悠真は、視線を逸らさない。

「うん」
「守ってる」

即答だった。

「坂本も」
「凪も」

一瞬、空気が止まる。

「でも」

悠真は、続ける。

「前に立つのは、凪だ」
「俺は、横にいるだけ」

その言葉で、
凪の胸が、熱くなる。

——奪わない。
——代わらない。

「空気を回したいなら」
「ちゃんと話そう」

悠真は、三條を見る。

「試すみたいなやり方は」
「もう、通じない」

三條は、数秒、黙ったままだった。

やがて、肩をすくめる。

「……強くなったね」

それは、褒め言葉にも、
皮肉にも聞こえた。

「いいよ」
「今回は、引く」

三條は、席に戻る。

引いたように見える。
でも、凪にはわかる。

——これは、撤退じゃない。

ただの、間。

放課後。

坂本が、ぽつりとつぶやく。

「……助かった」

悠真は、首を振る。

「助けたんじゃない」
「一緒に立っただけ」

坂本は、小さく笑う。

凪は、その光景を見て、
胸の奥が、静かに満たされていく。

拒絶した。
名乗った。
そして今、守られすぎず、孤立もしない。

——こういう形も、あるんだ。

教室の窓から差し込む夕方の光が、
三人を、同じ色に染めていた。

でも。

廊下の向こうで、
三條輝が振り返った一瞬の視線を、
凪は、見逃さなかった。

次は、
もっとはっきりした波が来る。

それでも。

もう、一人じゃない。

凪は、そう確信していた。
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