先生から、話があるって
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コラム
放課後の教室。
人が減ったはずなのに、
空気は、昼より重かった。
三條輝は、窓際の席に座ったまま、
スマホを伏せて置いている。
画面は、見ていない。
もう、打ち終えていた。
——送信。
それだけで、
いくつかの歯車が、同時に回り始める。
「ねえ、聞いた?」
教室の入り口で、女子の声がした。
「今日、職員室に呼ばれた人いるらしいよ」
「例の件で」
凪の肩が、わずかに強張る。
(……来た)
坂本も、顔を上げる。
悠真は、何も言わず、凪の様子を見る。
三條は、立ち上がった。
「凪」
名前を呼ぶ声は、
相変わらず穏やかだ。
「先生から、話があるって」
「一緒に行こうか」
一瞬、
教室の視線が凪に集中する。
——善意の顔をした、公開の場。
凪は、すぐには答えなかった。
代わりに、
深く息を吸う。
「……いい」
短い言葉。
でも、はっきりしている。
「一人で、行く」
ざわり、と空気が揺れる。
三條の眉が、ほんのわずかに動く。
「そう?」
「でも、誤解されたままだと——」
「誤解なら」
凪は、言葉を重ねる。
声は震えていない。
「先生に、話す」
「クラスの前で話す必要は、ない」
その一言で、
悠真が静かに立ち上がる。
「俺も、付き添う」
前に出すぎない位置。
でも、確実に“横”。
坂本も、椅子から半分立ち上がって、
迷ってから、言う。
「……必要なら」
「俺も、行く」
三條は、三人を見る。
——これは、想定外だ。
「ふうん」
小さく笑う。
「団結、ってやつ?」
凪は、三條をまっすぐ見る。
「違う」
「選んだだけ」
「誰に、何を話すかを」
一瞬。
三條の笑顔が、
ほんの少しだけ、硬くなる。
「……わかった」
そう言って、道を譲る。
引いたように見える。
でも、凪は感じていた。
——これは、別の場所で切るつもりだ。
廊下に出ると、
夕方の光が、やけに眩しかった。
悠真が、小さく言う。
「大丈夫か」
凪は、うなずく。
「……怖い」
「でも、逃げない」
坂本が、苦笑する。
「俺も、ちょっと震えてる」
三人は、並んで歩く。
誰かの後ろでも、
誰かの前でもない。
同じ速さで。
その背中を、
教室の奥から、三條は見ていた。
——なるほど。
盤面は、
もう一人を狙えば済む形じゃない。
「なら」
三條は、静かにスマホを取り上げる。
「次は、もう少し大きく動かそうか」
笑顔のまま。
静かな刃を、
別の方向へ向けながら。
物語は、
ついに“表と裏”が交差する地点へ進んでいく。