私の話を勝手に“分かりやすく”しないで

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コラム
昼休みの終わり。

教室に戻る途中の廊下で、
凪は、呼び止められた。

「凪」

三條輝だった。

人通りは、そこそこある。
でも、聞き耳を立てなければ、
会話の中身までは届かない距離。

——逃げられない、ちょうどいい場所。

「さっきの休み時間さ」
「また少し、話題になってた」

三條の声は、いつも通り穏やかだ。

凪は、立ち止まる。

「心配してる人、多いよ」
「凪が無理してるんじゃないかって」

“心配”。

その言葉に、
胸が、わずかにざわつく。

「だからさ」

三條は、少しだけ身を屈める。

「俺が、説明しようか?」
「凪の代わりに」

凪は、はっと顔を上げる。

——来た。

これまで、
何度も示されてきた選択肢。

黙るか
誰かに語らせるか。

「それなら」
「クラスも落ち着くと思う」

三條の目は、
凪の反応を、静かに待っている。

凪は、深く息を吸う。

(ここだ)

ここで、
また流されたら、
全部が元に戻る。

凪は、ゆっくりと首を振った。

「……いらない」

三條の眉が、ほんのわずかに動く。

「私のことを」
「私の代わりに話さないで」

声は震えている。
でも、逃げていない。

「でも、それだと——」

三條が何か言いかける。

凪は、遮った。

「それは」
「三條くんの話でしょ」

その一言で、
空気が、はっきり変わった。

「私は」
「誰かに守られてる話でも」
「誰かに利用されてる話でもない」

凪は、まっすぐ見る。

「私の話を」
「勝手に“分かりやすく”しないで」

——拒絶。

はっきりと、
逃げ道を残さない拒絶。

三條は、しばらく黙っていた。

やがて、
小さく息を吐く。

「……そっか」

声の温度が、少し下がる。

「強くなったね」

褒めているのか、
測っているのか、
判断できない声。

「でも」

三條は、最後に言った。

「強く出ると」
「それなりに、反動もあるよ」

凪は、うなずいた。

「……うん」
「わかってる」

それでも。

「それでも、言わないよりいい」

三條は、何も言わず、
廊下を離れていった。

背中が、
いつもより少しだけ、遠く見える。

そのとき。

少し離れた場所にいた悠真と、
目が合う。

悠真は、何も聞かない。
ただ、静かにうなずいた。

——ちゃんと、立ったな。

そう言われた気がして、
凪の胸が、じんわり熱くなる。

教室に戻ると、
視線が、前よりもはっきり集まった。

でも。

凪は、俯かない。

怖い。
でも、逃げない。

拒絶は、
戦いじゃない。

自分の場所を、守る行為だ。

凪は、そう理解していた。

そして——
物語は、
次の衝突を、静かに待っている。
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