私…… “いい子”じゃなくても、一緒にいてくれる?

記事
コラム
週の真ん中、水曜日。

いつもより早く起きたはずなのに、
凪の胸の奥には重たい石のような沈みがあった。

原因は、昨夜の家での出来事だ。

夕飯のあと、母の何気ないひと言が刺さった。

「凪って、なんか最近“いい子じゃない”よね」

言われた瞬間、心の奥で小さな音がした。
――パキッ、と何かが割れたような。

(いい子、じゃないといけないの?)
(優しくいないと、誰かをがっかりさせる?)

それは、誰にも見せたくない傷だった。

放課後。

図書室の窓際に座ってみても、
ページをめくる気になれない。

光は柔らかいのに、心は重いまま。

そこへ、そっと影が差した。

「凪」
悠真だった。

「今日は…なんか違うね」

凪は笑おうとした。
でも、うまく笑えなかった。

「……ちょっと、元気ないだけ」

嘘ではない。
でも本当でもない。

悠真は何も言わず、
鞄を椅子に置くと、
すっと図書室を出ていった。

(あ…嫌だったかな)
(話せって思われた?
   ちゃんと話さないと、心配かけちゃう?)

不安が静かに胸に広がる。

でも数分後、

戻ってきた悠真の両手には――
温かい缶ココアが二つあった。

「これ」
凪の前に、そっと置く。

「話したくないときってさ」
「……うん」

「言葉より、
   あったかいものの方が
   役に立つんじゃないかな」

悠真は目を合わせず、
缶をコツンと机に置いた。

凪の胸の奥で、
何かがゆっくりほどける。

「……話したくないの、わかったの?」

「わかってないよ」
即答だった。

「でも、
   “無理して話そうとしてる感じ”はわかった」

凪は、たまらず俯いた。

(どうして…そんなふうに見えるんだろう)

缶を両手で包むように持つ。

じわっと広がる温かさが、
凪が押し込めていた感情を
ゆっくり溶かしていく。

「……昨日ね」
凪はようやく声を出した。

「お母さんに、
  “最近いい子じゃない”って言われて」

「そっか」

「なんか……ずっと、
   いい子じゃなきゃって思ってきたんだと思う。
 優しくないと、人に嫌われるって。
 だからね……
   最近、優しくできない
   自分がすごく嫌になった」

缶を持つ手が震える。
凪は顔を上げられない。

でも、
悠真は責める言葉を言わなかった。

「……俺はさ」
静かな声。

「優しく“できない”人より、
   優しく“したいのにできない”って
   苦しんでる人の方が、
   ずっと優しいと思う」

凪は、ゆっくり顔を上げた。

「…どういうこと?」

悠真は傘を持つような手つきで宙を示した。

「優しさってさ、
  “性格”じゃなくて“選ぶこと”なんだと思う。
 でも、
   自分が疲れてたら選べない日もある。
 それは、優しくないんじゃなくて――
 ちゃんと人を大事にしてる証拠
   なんじゃないかな」

凪の胸に、静かな衝撃が走った。

(選べない日があるからこそ、
   私は優しい……?)

そんな考え、
したこともなかった。

「だからさ」
悠真は言う。

「言葉が出ない日は、
   無理に出さなくていいと思う。
 俺は今日、
   言葉よりココアの方がいい気がした」

凪は、ふっと笑った。

涙がこぼれそうで、
けれど“泣くのも悪くない”と思えた。

「ありがとう。……
   なんか、やっと呼吸できる」

「よかった」

やわらかい沈黙が、ふたりの間に降りた。

それは、
あの日の“雨の日の沈黙”とも、
前の“安心の沈黙”とも違う――

まるで、包まれるような沈黙。

凪はココアをひと口飲んだ。

甘さが喉を通った瞬間、
胸の奥の冷たかった部分が
ゆっくり溶けていく。

「ねぇ、悠真」

「ん?」

「私……
  “いい子”じゃなくても、
   一緒にいてくれる?」

悠真は迷わず言った。

「うん。
   “いい子”じゃない凪の方が、
   たぶん俺は好き」

凪の頬が一気に熱くなる。

(好き…?)

でも悠真の表情は、
特別なものではなく、
ただ素直で真っ直ぐな目をしていた。

凪は照れ隠しのように
缶を握りしめて言った。

「じゃあ今度は……
   私も好きに選んでみようかな。
 “いい子でいる”じゃなくて、
   “いたい自分でいる”っていう選び方」

悠真はゆっくり笑った。

「うん。そっちの方が、いいと思う」

夕暮れが図書室の窓を淡く染めていた。

その光は、白でも黒でもなく、
凪自身の色のように見えた。

――ことばを持たないやさしさは、
  ときに、どんな言葉より人を救う。

それが今日、凪が受け取った“贈りもの”。
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