……聞かせてよ、ちゃんと。その続きを。何度でも

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コラム
風が吹いた。
制服の裾が揺れ、彼女の髪がやわらかく宙を舞う。

なにも言わずに立っていた僕の前で、
彼女は夕陽を背に、ふっと息を吸った。

「……ありがとうの続き、聞いてくれる?」

その声は、風と一緒に届いた。

触れられないくらい小さくて、
だけど、耳じゃなく胸の奥に落ちた。

何を返せばいいかわからなかった。
うなずこうとしたのに、喉がうまく動かなかった。

「ねぇ――」
彼女は空を見たまま続けた。

「昨日ね、傘を貸したの、私じゃないんだ。
 本当は……助けられてたの、私のほうだったのに」

僕は息を呑んだ。

「雨、好きじゃなかった。
 でも昨日、あなたが “ちゃんと濡れて” くれたから……
 ――少しだけ、好きになれそうだって思ったんだよ」

夕陽のせいにできないくらい、
彼女の横顔は、泣き出しそうな笑顔だった。

ありがとうって
過去の言葉じゃなかった。

これからも、一緒に続いていく言葉だった。

僕は、ただひとことを絞り出した。

「……聞かせてよ、ちゃんと。
 その続きを。何度でも」

彼女は目を伏せて、そして――
小さく、小さく、うなずいた。

「……じゃあ、終わらせないでね」

風が、強くなった。

傘はもう、返せないと思った。
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