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……聞かせてよ、ちゃんと。その続きを。何度でも

風が吹いた。制服の裾が揺れ、彼女の髪がやわらかく宙を舞う。なにも言わずに立っていた僕の前で、彼女は夕陽を背に、ふっと息を吸った。「……ありがとうの続き、聞いてくれる?」その声は、風と一緒に届いた。触れられないくらい小さくて、だけど、耳じゃなく胸の奥に落ちた。何を返せばいいかわからなかった。うなずこうとしたのに、喉がうまく動かなかった。「ねぇ――」彼女は空を見たまま続けた。「昨日ね、傘を貸したの、私じゃないんだ。 本当は……助けられてたの、私のほうだったのに」僕は息を呑んだ。「雨、好きじゃなかった。 でも昨日、あなたが “ちゃんと濡れて” くれたから…… ――少しだけ、好きになれそうだって思ったんだよ」夕陽のせいにできないくらい、彼女の横顔は、泣き出しそうな笑顔だった。ありがとうって過去の言葉じゃなかった。これからも、一緒に続いていく言葉だった。僕は、ただひとことを絞り出した。「……聞かせてよ、ちゃんと。 その続きを。何度でも」彼女は目を伏せて、そして――小さく、小さく、うなずいた。「……じゃあ、終わらせないでね」風が、強くなった。傘はもう、返せないと思った。
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飛ばしてみろよ。夢も、こんくらいでいいんだよ

 卒業式の朝、体育館にはまだ人の気配がまばらで、 冷えた空気だけが静かに漂っていた。 三月の光はやわらかいのに、 胸の奥はどこか落ち着かずざわついていた。 「陽太、来ないのかな……」 そうつぶやくと、自分でも驚くほど声が小さく震えていた。 佐伯陽太――二年の春、誰とも話せなかった僕に、 最初に「弁当、交換しねえ?」と笑いかけてきたやつ。  授業中に居眠りして先生に怒られたのに、 「夢の続き見てた」と平然と言うような、不器用で、まっすぐなやつ。 あいつがいなければ、僕は高校を途中で辞めていたかもしれない。 放課後の空き教室。   進路調査票を前に、どうしても「将来の夢」が書けなかった僕は、   俯いて机をにらんでいた。    書けない理由も、言葉にならなかった。   夢なんて、思い浮かべるだけで「笑われそうだ」と怖かったからだ。 そんな僕の 進路調査票を、陽太はふいに丸めて紙飛行機にした。 「飛ばしてみろよ。夢も、こんくらいでいいんだよ」 僕は泣きながら、それを窓から投げた。 紙飛行機は、夕焼けの風にあおられ、校舎の向こうに消えていった。 だが三年の秋だった。   突然、陽太は学校に来なくなった。    詳しい事情は誰も知らなかった。   家庭のことらしい、とだけ聞いた。 僕は怖くて、会いに行けなかった。 「いつでも連絡してこいよ」 その言葉すら、送れなかった。 そして卒業式。 結局、陽太は来なかった。 閉会後、教室に戻ると、   担任の桐原先生がひとりで窓辺に立っていた。   先生は僕にだけ、小さな封筒を渡した。 「佐伯から預かっている。お前に渡してくれってさ。」 僕は息をのん
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