みなさん、こんにちわ。私は、今年の司法試験の選択科目で環境法を選択しました。司法試験受験生ではかなりマイナーな科目であると思います。ただ、その内容の多くは、行政法や不法行為といった通常科目の知識がフルに役立つ科目であり、非常にコスパがよいと思います。
たしか、予備試験も来年から選択科目が導入されると耳にしました。選択科目をどれにするか、悩んでおられる方、ぜひ見てみてください。
なので、軽く自分の理解が甘かったところを中心に紹介していきたいと思います。
第1問
設問1 公害防止協定
これは行政法で耳にしたことのある、協定(公害防止協定)の法的性質とその民事的請求の可否です。
公害防止協定は、個人的にはマイナーの論点だと思っていたのですが、去年(R2)の予備試験でも問われており、侮ってはいけません。
公害防止協定については、ざっと以下のことを押さえておけば、基本的にどの問題にも対応できます。
①法的性質について
かつては、「『規制行政の契約への逃避』により、法律による行政の原理が崩壊するとして、その法的拘束力を否定し、紳士協定にとどまるとする説が有力で』(中原茂樹 「基本行政法(第3版)」2018年 日本評論社 P178) した。しかし、現在では、契約説、すなわち「事業者が自己の計算に基づいて、経済的自由を放棄することに任意に合意したものであれば、行政主体と事業者とが対等の立場に立って締結した契約として、法的拘束力が認められる」(中原・前掲P179)とされています。
しかし、「契約説においても、協定の法的性格の判断は、全体を対象にするのではなく、個別の条項ごとに、契約内容の有効要件などの観点から法的拘束力の有無を判断すべきであると考えられるようになってい」(大塚直・北村喜宣編 南川和宜 「別冊ジュリスト 環境法判例百選(第3版)」(2018年 有斐閣 P129) るとされています。
そして、この個別の条項ごとに考える際には、義務の内容が具体的に特定されているか、任意の合意によるか、法令の趣旨及び比例原則、平等原則等の一般原則に反しないか、検討する必要があります(中原・前掲P178~179)。
つまり、契約説を基本に、個別の条項、具体的には上記3つの要素を加味して問題を解けば足ります。
本問では、法令よりも2割厳しい内容の協定を結びましたが、それが比例原則の観点から、許容されうるのか、検討することになります。
※なお、公害防止協定の義務履行を求める訴訟については、宝塚市条例事件(最判H14.7.9)との関係が問題になります。この点、福津市最終処分場事件の原審(福岡高判H19・3・22)のロジックが参考になります。
「旧協定は行政契約の性格を有するものであるところ,一般論としては,行政契約に基づく義務の履行請求も行政上の義務の履行を求めるものにほかならないという場合もないとはいえない。しかし,産廃条例15条は,この種の協定が,産業廃棄物処理施設を設置しようとする者と関係住民との間で締結される場合もあることをも予定しているのであり,その場合においては,協定締結の当事者がともに私人であること,協定締結の目的とされる関係住民の生命・健康の保持と生活環境の保全も,まさに協定締結の当事者である関係住民自身の権利そのものであること等からして,同協定は民事契約としての性格を有することは疑問の余地がない。そうであれば,旧協定が行政契約の性格を有するといっても,同種の協定が関係住民と設置者との間で締結された場合と対比しても,その差はまさに紙一重といった微妙なものにすぎないというべきである。したがって,Z町(X)のYに対する本件請求をもって,直ちに行政上の義務の履行を求めるものであると解することはできない。」
つまり、協定締結の相手が住民なら履行請求できるのに、行政になった途端にできなくなる、しかもその性質も変わるというのは、大げさだろう、というロジックです。
設問2 直罰制の導入
環境法では、他の法律科目ではあまりない、改正の趣旨を問う問題がでます。これはある程度問題意識をもって普段から勉強していないと、まったくわからない、という事態になりかねないので、要注意です。
なお、直罰制とは命令前置制と対比されまして、義務違反があれば、行政命令などを踏まえることなく、いきなり刑罰を科すことができるという制度です。命令前置制をとると、「違反への対応が遅れる、政治的圧力が介入する余地がある、行政リソースの制約ゆえに違反に対応できないケースが多い、前提となる不利益処分がなかなかされない、といった問題があ」(北村喜宣 「環境法(第4版) 2017年 弘文堂 P183)ります。
もちろん、命令前置制にも行政がマイルドに対応でき、事業者の協力が得やすいという側面はあると思います。
設問3(1)環境法規制の根底にある考え⇒性善説
(1)では、環境法規制の根底にある考えを問う問題でした。簡単に言うと、環境法は性善説つまり事業者はきちんと法令順守をしてくれるのであり、例外的に守らない者がいる、と考えていたのです。しかし、環境規制を考える場合には、早期の対応が必須であり、性悪説とまではいかなくても、怪しい場合には、情報を開示させたりして、迅速な対応をできるようにしなければならない、ということが聞かれていました。
設問3(2)大気汚染防止法違反の場合の刑罰適用
詳しいことは、書きませんが、環境法では、両罰規定(行為者だけでなくその法人も罰せられる規定)の指摘、時系列との関係でどの範囲の行為に刑罰が適用されるか、つまり遡求処罰の禁止を意識した論述が求められることもあります。
これらは、刑法の総論の知識が重要となるでしょう。
第2問
設問1(1) 国賠1条1項請求
これも、行政法で習いますね。国賠も手薄になりがちですが、論文で出ない保証はないですし、環境法の勉強をしながら行政法の勉強もできるのはかなり強みです。
設問1(2) (1)の国賠1条1項請求の可否
景観利益が問題になりました。民法の不法行為分野でも出てくる国立訴訟(最判H18.3.30)が参考になります。
国立訴訟は、景観権という権利を認めることができなくとも、景観利益というのは認めることができるとしました(民法709条は「権利または法律上保護される利益」と規定されている点がポイント)。具体的に、①良好な景観を、②近接居住して、③日常的に享受していれば、景観利益を認めることができます。
しかし、それだけでは、不法行為責任を問うことはできません。民法709条の不法行為の場合、違法性という要件がいるかどうかは議論の余地がありますが、国賠の場合、条文上に「違法に」と明記されている以上、違法性を検討しなければなりません。
その際には、前記H18判決に従い、①侵害される景観利益の性質と内容、②当該景観の所在地の景観利益、③侵害行為の態様程度(社会的相当性を欠くか)、④侵害の経過等を総合的に考察して判断すべきとされています。この③がくせ者で、行政法規や刑罰法規に反している場合や法の一般原則に反しない限りは、社会的相当性があるとされており、「高いハードルであり、容易には認められない」(越智敏裕 「環境訴訟法(第2版)」 2020年 日本評論社
P169)ため、批判もあります。
要するに、景観利益として法律上保護される利益に当たるか、というのと、保護されるとしてもそれが違法に侵害されたか、という点を考えなければならない、ということです。
本問では、社会的相当性をどう逸脱したか、論じにくいですが、瀬戸内海環境保全特別措置法の存在を存分にアピールし、法令違反ないし、権利濫用であるから相当性を欠く、としてもいいですし、そもそもA県の事業をA県知事が判断する時点で、ズブズブの関係であり、法令違反があるかなどの規範は妥当しない、とするのでも構わないと思います。
設問2 国賠2条1項の供用関連瑕疵と受忍限度
これも行政法の問題ですね(あまりなじみがないかもしれませんが)。
供用関連瑕疵とは、大阪国際空港事件でも問題になったもので、利用者との関係では瑕疵がなかったとしても、第三者に被害が発生した場合は、「瑕疵」となりうる、という理論です。
その際には、受忍限度について判示した43号線事件(最判H7・7・7)が参考になります。
同判例は、①侵害行為の態様・程度、②被侵害利益の性質・内容、③侵害行為の公共性、④被害防止措置の有無、⑤彼此相補性を考慮すべきとしています。特に、③~⑤は特徴的なものであるので、覚えておくとよいでしょう。
いかがでしたか?大きく5つ設問がありましたが、3つは行政法、民法の知識が聞かれていたと思います。とはいっても、景観利益の利益性や国賠関係の部分は勉強の優先度は低いと思います。しかし、選択科目として、勉強し弱い部分を補強できるというのは非常に強みと言えるでしょう。
選択科目の選び方はいろいろあると思います。コスパや興味関心がある、将来自分が携わりたい法分野がある、など選ぶきっかけは何でもいいと思います。よかったら一度環境法も視野に入れてみてください。