"Excuse me. Do you consider yourself as creative?"
「ちょっといいですか。あなたは自分のことをクリエイティブだと思いますか。」
2024年7月3日、初めて訪れたロンドンでそう声をかけられた。
振り向いて見てみると、そこにはメガネのアジア系の男性。みすぼらしい格好をしていたので、ホームレスなのかもしれないと直感的に思った。
「またナンパか...めんどくさいな。」
というのが、正直最初に思ったこと。俗にいう「イケメン」に好かれるより、私のタイプでない人や歳のかなり離れたおじさんから好かれることの方が多く、イギリスに来てまでナンパの被害に遭うのかと心底がっかりしているところだった。丁度Fortnum & Masonの、三階にわたる香ばしい紅茶の茶葉や、宝石みたいにキラキラ光るフルーツを砂糖で固めた茶菓子、お花や蝶のモチーフで彩られた美しい茶器などを見て、心踊らされていた。それをいきなり台無しにされた気分だった。
ナンパでないなら、宗教勧誘か物乞いだろうという考えが頭をよぎった。現に、私の住むオランダ・アムステルダムでキリスト教の勧誘に遭ったことが数回ある。今回は「あなたの歩いているところを見て、クリエイティブな人だというオーラを感じた」と言われたのでちょっと怪しいなと思っていた。今まで、道端で他人に話しかけられるということは、私から何かを得ようとしているか(例:ナンパで電話番号やLINEを入手しようとする)、私を騙そうとしている(例:スリ)、または身に着けているものを褒められるというパターンであった。日本とは異なり、オランダでは全く面識のない人に身に着けているものを褒められるということは珍しくなかった。ファッション好きの私としてはとても嬉しかった。
でもほとんどの場合、赤の他人から突然話しかけられるということは、私にとって警戒せざるを得ないものだった。「あなたは自分のことをクリエイティブだと思いますか。」と今回聞かれた時も、しかめ面で「I don't know. (そんなのわかりませんよ。)」と答えていた。
予想外なことに、そのおじさんは何も要求することなく去って行った。多少警戒心がほぐれ、「自分は創作活動が前から好きだ」と言うと「どんなタイプのクリエイティビティーが好きか」と聞いてくれた。そして「最近は文を書くこととファッションデザインが好きだが、高校時代は絵を描くことにハマり、小中学生時代は部活でずっと楽器をやっていた」と答えると、「折角ロンドンにいてファッションが好きなら、〇〇美術館の展示を見に行ってみたほうがいい」などの情報もくれた。
普段、他人とクリエイティビティーに関する話をする機会があまりなかったので、新鮮且つ刺激的でとても楽しかった。始め自分がぶっきらぼうに「そんなのわかりませんよ。」と答えてしまったのが恥ずかしくなるくらいだった。帰りは笑顔で地下鉄に乗った。ロンドンはクリエイティビティーの街なのかもしれない。