「うわっ!ダマされた大賞」を観て愛情とはなにかに気づいた話

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コラム
録画していた「うわっ!ダマされた大賞」を観た。

ウッチャン司会のドッキリ番組で、出川や小峠、ロッチ中岡などリアクションが面白い芸能人がドッキリに仕掛けられるという番組だ。

今回は、小峠と中岡が日光江戸村の施設で方向感覚がわからなくなりチョコチョコ走る様子や、子役に逆ドッキリを仕掛けられるあばれる君の様子が面白かった。

そのなかで番組スタッフの思惑とは逆にドキュメンタリーになった企画を紹介したい。

話の大まかな流れはこうだ。
仕掛け人の女優木村多江がモラハラでわがままで感情を制御できない人を演じ、マネージャー役を罵倒している声が隣の控室に聞こえていることに気づく。他言しないように隣室のターゲットの芸人じゅんいちダビッドソンに一筆書かせ、そのとき使うペンがビリビリして、ドッキリでした~というオチ。

これから先はネタバレになるので、録画してまだ観ていない方は先に見て欲しい。
※Youtubeに動画はなかった。

さてここから先は見ていない人のためにこの企画の詳細と、私の感想を書く。

このドッキリを番組スタッフが考えたとき、芸人は先輩女優に歯向かわないことを前提にしていたのだと思う。だがじゅんいちダビッドソンは違った。

じゅんいちは、マネージャー役の男性が木村多江から理不尽なことで怒られているときも慌てない。隣の楽屋の声が筒抜けだと木村多江が気づく演出で、じゅんいちの控室の電話が鳴ったときもオロオロしない。さらに木村多江がじゅんいちの部屋に一筆書かせるために乗り込みに来た時には、木村多江の気持ちを静めるべく共感する態度を示した。

木村多江はさらなる激高の演出のために机に置いてあった灰皿を音を立てなぎはらい、「女優のイメージを守るために一筆書け」と詰め寄る。

番組スタッフの台本としては、隣の部屋から罵声が聞こえたときも、じゅんいちの控室の電話がなったときも、木村多江が楽屋に乗り込んできたときも焦ることを想定していたと思う。
その一連の流れがあり、じゅんいちがペンを取りビリビリして「ドッキリでした~」という流れを想定していたのだろう。

だが木村多江の演技力が素晴らしかったのと、じゅんいちの性格が男前過ぎたため結果は違った。

声を荒げ激高しながら一筆書けと詰め寄る木村多江にじゅんいちは「申し訳ないですけど、言う・言わないの前に初対面の人間の楽屋に入ってきて灰皿を投げるって、失礼極まりないっすよ」と注意し、口外しないことを伝えた上で一筆書くことを拒否し、木村多江に退室を促した。じゅんいちの表情やしぐさ、方言の出方から、やらせではないことが予想される。

最終的に退室を促された木村多江はじゅんいちの楽屋に置かれていたホイッスルを拭き、ドッキリ終了の合図をスタッフにしてネタバレという流れだ。

ネットの反応は、嫌な人の役をやらされ木村多江がかわいそうという意見や、こういうドッキリは好きじゃないという意見もあるが、私はネットの多数派の意見と同じく、じゅんいちの行動を讃えたい。

私はじゅんいちの行動も含め、この企画で3つ感動した。

1つ目はじゅんいちダビットソンの男前さ。先輩であっても理不尽な意見をはねのけ注意ができること。
彼がそれをできるのには3つの理由があると推測する。
課題の分離ができていること、変な人とは距離を置くこと、どんな状況であれできないことはつっぱねること。
もちろんそのためには勇気も必要だし、これまで修羅場をくぐってきたことがあるなどの経験もあるし、とっさのことに対応できる頭の回転の速さもあると思う。
それらすべてを兼ね備えているからできたことだと思う。
またネタバレ後は楽屋での出来事から一転、テレビの収録と理解した途端、笑いに変えられる瞬発力と機転がすごかった。

次に木村多江。
演技がすごかった。彼女はこれまで怒りの演技をしたことがなく、この企画のために5時間自主練したと言っていた。
怒りの演技が未経験と思えないほど、普段のおとなしく透明感のある女性とは真逆の、しょうもないことで怒るヤバい女性像を作り上げていて、表出されるキャラクターによってこんなにも表情が変わるものかと驚いた。
じゅんいちにドッキリを仕掛ける直前までスタジオで他の演者と共に収録して
いたとき手が震えていたと言っていた。
大役を務めることに不安もあっただろうし、ターゲットの言動が台本通りにならずドッキリにかからないときはかなり焦っただろうが、それを隠して演じきった度胸がすごいと思った。

最後にウッチャン。
ネタバレ後、ドッキリだと理解しつつも戸惑いの感情で冷静になれてないじゅんいちのために、穏やかでにこやかな声掛けをして、テレビの企画だと理解させたコミュニケーション能力の高さ、場の雰囲気を明るくする能力が素晴らしいと思った。
お金も人もたくさん動いていて、ゲストに来てくれた木村多江に恥をかかせないため、じゅんいちと木村多江に遺恨を残さないため、企画をお蔵入りさせないために修羅場を笑いに変えた能力が素晴らしかった。
この役を、他の誰ができただろうか。
松本人志・東野幸治にも遺恨を残さず笑いに変えることはできるだろうが、ウッチャンはこの二人とはまた違う後輩愛があったのではないか。

ウッチャンのことを調べていると興味深い記事を見つけた。なぜウッチャンと「ズブズブ」なテレビ関係者はいないのか?というタイトルのAERA dot.の記事だ。2021年に5年連続で「理想の上司ランキング」を受賞したウッチャンをリーダー像の視点から分析した連載のようだ。
内村監督作『ボクたちの交換日記』『金メダル男』でプロデューサーを務めた松本整氏は、「内村さんは、他人の人生への敬意を人並み外れて持っている人」と表現しながら、「他人には他人の人生があるから、そこに土足で踏み込むようなことは絶対にしない」と重ねる。

この文章を受け、もしかしたら、愛情とは適度な距離を保ち相手を尊重することなのではと思った。

家族・友人・恋人・仕事仲間、すべての人間関係での失敗の要因は、近すぎる距離感なのかもしれない。
相手のことを理解できていると勘違いし、相手の踏み込んで欲しくない領域に踏み込むから人間関係が壊れる。
相手のことを思って行動しているつもりが自分本位になる。
相手のしてくれることを過度に期待し、期待にそわないと怒りだす。

どんなに長い時間一緒にいても、どんなに理解しあえたと思っていても、肉親であっても越えてはいけない領域がある。

それを理解し行動すれば、真の愛情深さを手に入れることができるのではないだろうか。

じゅんいちダビットソンの毅然とした態度、木村多江の度胸、ウッチャンの人との距離感をたった10分で教えて貰った。
多くの学びを与えてくれた番組に感謝したい。
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