こんな状況では、「空気」を読めない人、「常識」を知らない人が、かくも迫害され、疎外されるのも当然。
無垢であろうとすること、それは無知であることと同様、罪深いものなのだと、しみじみ実感したわけです。
ただでさえ、外国に住んで心細い思いをしているのに、自分がここにいていいのかどうかすら不透明な状態に置かれ、Aさんがどんなに不安だったか・・・
ドイツだったからまだ身の危険は少なかったかもしれない。
日本で同じような立場に置かれ、さらに不法滞在で逮捕される不安・・・そんな目にあってる外国人がいると思うと、なんか他人事じゃありません。
最近では、日本人が外国でスパイ容疑で拘束されるなんて事件がよくあります。
常識が通用しない、自分がどんな容疑で拘束されているのか分からない、いつ解放されるのかも分からない、そしてその後、どうなってしまうのかもまったく不明・・・という状態で軟禁される、なんてことだってある。
外交のイロハも知らなければ、そっちの筋の知り合いやツテもない。大手企業に所属していればそっち方面から弁護士とか派遣してもらえるかもしれないけど、まったくの個人だったら?
訳も分からないまま、訳の分からない裁判にかけられてしまうではないか・・・。下手に抵抗すればもっと状況が悪くなるだけ、何もするな、何も考えるな、流されとけ!
やってもいない罪で裁かれる方が楽で簡単だし早く終わる、いったん、その流れに乗ってしまったら、ベルトコンベアのようにノンストップ。そこから抜け出すのは至難の業。抜け出すためには、余計な時間とお金をかけなきゃいけなくなる。
長いものに巻かれるのが賢いやり方。正しくあろうとする人間が馬鹿を見る。
素直に事実を話した人が罪に問われ、ウソをついたり誤魔化したり、警察の空気を読んでストーリー通りに合わせられる人は上手く切り抜ける・・・刑事ドラマみたいなことが、実は日常レベルでも普通に起こっているのでした。
外交スキルがなくても、法律知識が不十分でも、真面目に生きてたらなんとかなる世界がいいのですが・・・現実では、ちょっとしたこと、外交の悪魔に気づく・気づかないだけで、大きな違いが出てきてしまう。
今回は、日常的に誰にでも起こりえる大したことのない「奥様事件簿」で済みましたが、よくよく考えると、非常に危ない橋を渡っていたのではないか?と思えるのです。
根性論、力技、強行突破、女子体育会系メンタルでうまくいくことばかりじゃない。最初から知らん顔して「6か月以上外国に滞在したことはないでーす」としれっとサインできちゃう図太い神経なんて持ちあわせてない場合、法律知識・外交能力もない場合、有力なコネもない、協力してくれる友人・家族もいない場合、どうやって生きていけばいいんでしょうか・・・?
私の性格上、相手の心理まで見抜いて上手に立ち回るという能力を今から身に着けるのはほぼ不可能です。日本ですら、無理だというのに外国で、ドイツ語でドイツ人相手に、なんてもっと無理です。
人の、この世を支配する「集団の空気」が、ルールを「暗黙の了解」と書き換えているのです。違法じゃないけど、人には大っぴらに言えないグレーに塗り替えられている。正しさや公平・公正さの軸が、ずらされている。
そういう根本的な歪みの上にこの世は成り立っている。そのズレに対応できない方が「どんくさい奴」「黒い羊」「悪」とされ、生贄になるのです。
誰が悪いのでもない、ただ責任回避や面倒ごとを避けたいという個人の無意識の集合が、生贄を必要としているのです。生贄は芸能人や政治家だけではありません。
ただ普通に日常を生きる人の誰かが何かのタイミングで生贄にされるのです。
上司のミスを押し付けられたり、ちょっとした不正に手を貸さざるをえなかったり、本心隠しておべんちゃらを言ったり、悪いと思っていないのに頭下げたり、違和感があるのに気づかないフリしたり、ウソだと知っているのに話合わせたり・・・集団の同調圧力に屈するしかない個人。
日常の中に潜んでいる悪魔のような無責任、責任回避、面倒ごとを避ける姿勢、「空気を読む」という罪のない行為が、根本の歪みを覆い隠し、日常までも歪ませる。その歪みやズレがいつしか生贄を必要とするまで膨張するのです。
一つ一つは小さな問題だけど、鬱屈した小さな問題が溜まり溜まって「生贄」という形で処理されるという仕組み。表面上はなんの問題もない、ということにしておくためです。歪みやズレ、スキマは塞いでしまわないといけません。そのために生贄が必要なのです。
世界を牛耳る悪の組織、ロスチャイルドがー、ロックフェラーがー、いやいや表に出ない黒幕がーなんてやってる場合じゃないです。
そんな目くらましの陰謀論に惑わされて、日常の、根本の歪みを見て見ぬふりして、そのまま身の回りの歪みを受け入れ、それを膨張させているのは、フツーに空気読んでスルーして無実ヅラして生きている私たちなんです。
知らず知らずのうちに、私たちは陰謀に巻き込まれ、陰謀に加担し、そして自分が生贄になって初めてそのズレたルールに気が付く。気づいた時にはもう手遅れです。ベルトコンベアに乗せられた時点でカウントダウンは始まっている。
だって、私たち・・・すでに「王様はハダカだよ」と言っちゃった子どもの口をふさぎ、殺して、その死体の隠ぺいに加担してしまっているのですから。
別に、資本主義がどうだとか、大企業がなんだとか、政治家が、アメリカだ、CIAとか、中国だとかロシアがどうとか、JAL墜落事件がどうとか、戦後の政策がとか、環境問題とかLGBTとか、、、そういう大きい話じゃないんです。
個人レベルの話なんです。個人として、こういう世界の中でどう生きていけばいいのかって話なんです。
同意できない人の方が多いだろうけど、それにも関わらず、それでもなお、それだからこそあえて・・・「日常を丁寧に、正直に送ること」なのではないかと思うわけです。
少なくとも自分の中だけは歪みやズレを最小限にしておく、そしてその隠ぺいをしなければいい。
関わる人たちと、まっすぐで正直な関係を作っていけばいい。
自分の家族と、友人と、職場や趣味の人間関係、そしてその前に自分自身と。
少なくとも自分の手に届く範囲、自分の身の回りだけは、誤魔化しやズルや不正直を作らないこと。ウソや歪みを見て見ぬふりをしないこと。
大きな歪みやズレは、個人ではどうすることもできないけど、自分の中だけ、自分でコントロールできる範囲内ならどうにでもなる。自分のできる範囲内で、歪みもズレもズルもない状態にしておけばいいだけの話。個人としてでき
るのはそれが限界でしょう。
真っ正直に生きて、損を被るならそれでいい。素っ裸で生きている人間に対して皮まで脱げという方が、悪魔なんです。そんな悪魔に屈してはいけない。
そう信じて、諦めて、自分なりに自分の身の回りだけでも、誠実に生きていくことしか個人でできることってできないんです・・・。
どうしたって人間社会で生きていれば、今回みたいに役人とか、公的機関など、そういう歪みやズルが横行しているようなところに関わらざるを得ないのです。そのズルに加担せざるを得ない、相手の責任回避に付き合ってやらなければいけない。だって、そうでないとスムーズに物事が進まないからです。
しぶしぶながら、相手のズルに付き合う。歪みを見て見ぬふりをする。
それで罰を受けるなら、しょうがない。
そんな仕組みで世の中が回っているなら、もうしょうがないよ。
私も十分汚れています。だから、いつか私が生贄になったとしても、私は自分が無垢で無実だとは口が裂けても言えない。「もっと悪い奴がいる」「知らん顔してズルしている奴が他にもいる」と言ったって、五十歩百歩、同じ穴のムジナなんですから。
だからせめて、ごく小さい自分の身の回りだけは、正直でいたいし、ウソがない状態でいたいし・・・歪みを見て見ぬふりをしないで済む状態にしておきたいのです。
面倒ごとを避けるため、空気を読んで、他人に気を使って、嫌なことも我慢して・・・それをやり続けるだけで、生贄システムはどんどん膨張し、そしていずれ自分もまた生贄となるのです。
その弊害は、すでにもうあらゆるところに出てきている、歪みは日常レベルまで浸食してきている。そしてまた日常レベルから歪みが膨張しているんです。
明日、誰がそれに巻き込まれたっておかしくはない。
・・・私たち、もしかしたらものすごく、思っている以上にカフカな世界で生きているのかもしれません。
正面が開かないなら、鍵が違っているか、裏口に回れということじゃないですかねぇ」、外交官Kは、まるで理解の悪い子どもに向けて話しているような口調で言った。そのまなざしには、下等生物に対して一抹の憐れみを持つ、そんな人間らしい傲慢さがあった・・・(bo即興創作、架空スパイ小説「渡り鳥」より抜粋)
※このお話はフィクションです。実際の人物・団体とはあんまり関係ありません。