ご覧いただき、ありがとうございます。
精神保健福祉士『一教』と申します。
早速ですが、「成年後見」は聞いたことがありますでしょうか。
「認知症になって、ワケ分からなくなったら、面倒みてくれるんでしょ?」
…ほんのちょっとだけ、合っています。ほんのちょっとだけ。
でも、ほとんどの方は、これくらいの認識なのではないでしょうか。
実は、現役の相談員でさえ制度をきちんと活用できるかと問われたら、「ん〜…苦手〜…」と答える方もけっこういるんです。
スマホで検索すれば、何でも調べられる時代です。制度の概要や、後見とは何ぞや、みたいなことは、検索していただくのが、一番分かりやすいかも知れません。
ですので、「成年後見とは」のような解説は、ここでは行いません。
検索してもなかなか出てこないような、でも何気にすごく重要なことを、お伝えしていきたいと思います。
言葉が分かりにくかったり、もう少し解説が必要であれば、ご連絡頂ければと思います。
ちなみに、私は成年後見利用支援に2年ほど携わったことがありますので、他の方より少しだけ馴染みがあります。
※ここでお伝えするのは、あくまで概要です。制度上の細かなところまで解説が行き届いていない部分もありますが、大枠をつかんでいただくことを思って記事にしていますので、その点はご了承ください。
■親亡き後の「転ばぬ先の杖」
いきなりシビアな話をします。
職業柄、患者様のご家族と話す機会が多くあります。ご家族は、兄弟姉妹の方もいらっしゃいますが、ほとんどは親御さんです。
(精神障害を想定していますが、患者様を高齢者、親御さんをご親族と読み替えていただいてかまいません。)
親御さんの心配はただ1つ。「私らが死んだあと、この子はどうなるんだろう。他の子たちに迷惑もかけたくないし…」です。
成年後見はよく、「認知症になった時の備え、転ばぬ先の杖として」と表現されます。また、財産分与、相続トラブルを避けるため、なんてことも言われます。
ですが、多くの患者様の親御さんは「ウチはそんなに財産ないし、後見人をつけなきゃいけないほど裕福でもない」と、制度を利用する発想さえないように感じます。
成年後見は、裕福な方だけの制度ではありません。確かに、財産管理は後見人業務の1つですが、財産には高齢者や障害者の年金、日々の生活費、お小遣いまでも含まれます。日常生活を営むのに必要なお金の管理であり、金額の多い少ないではないのです。
では、親亡き後の転ばぬ先には、何があるのでしょう。
・日々の生活費のこと。
・詐欺にあったらどうしよう。 …だけではありません。
・入院したり施設に入ったりする時の契約、署名。
時には「施設は後見人さんが探してください」なんて言われることも。ということは、後見人が付いてなければ、施設を探すことさえ難しい、とも言えるんです。
他にも、銀行の入出金。行政の手続き。
かつては病院のソーシャルワーカーが代行していました。今でも、書類上の手続きは代行することもあります。ですが、基本的に銀行の入出金は不可ですし、個人情報保護の観点から、以前ほどスムーズにはいかなくなりつつあります。
そうなると、困るのは誰か?
障害をお持ちの、ご本人様です。
■後見は亡くなったら終わり
またまたシビアな話をします。
後見はいつまでか。つまり、いつまで面倒見てくれるか。
それは、ご本人様が亡くなるまでです。
つまり、葬儀や納骨は後見人の仕事ではないんです。
文字通り、亡くなったら終わり。
任意後見なら、亡くなった後のことまで契約に盛り込むこと(死後事務契約といいます)もできますが、法定後見はそうはいきません。
「えっ?身寄りがなくて後見人を付けたのに、葬儀や納骨はしてくれないの?」
その通りです。
葬儀屋さんによっては、やってくれるところもあるかも知れません。
ですが、後見人の仕事ではなくなっています。
じゃあ、どうすればいいのか?
後見人によっては、納骨までは携わる旨を家裁に申し出て、了解を得ている方もいると聞いたことがあります。
後見人さん次第というところでしょうか。
後見人を付けるなら任意後見の方がいいというのも、この辺の事情もあります(もちろんそれだけではありませんが)。
■後見人は、医療行為の同意が出来ない
手術や輸血、延命措置、または治療の中止。
後見人は、こういった医療行為に対して、いくら緊急事態だからといっても同意することはできません。
ご家族にしてみたら「全て後見人に任せてあるから、そちらと協議してください」と思われるでしょう。
また、「後見人からサインをもらえば大丈夫」と思っている病院も、中には見受けられます。
いくら後見人でも、できないものはできない。
ただし、入院申込書にサインすることはできます。
医療行為の同意のほか、下記のようなことも、後見人の権限としては認められていません。
・結婚
・離婚
・養子縁組
・遺言 など。
■銀行にさえ、浸透していない成年後見
後見人は、本人の財産管理を担っています。
後見人として登記され、本人に代わって預貯金の入出金や支払いができる。
ですが、銀行によっては、後見人であっても手続きに応じてくれないところもありました。
任意後見だったのですが、後見人の身分証明と任意後見の公正証書をもっても、書類の不備を理由になかなか口座解約の手続きが進まず、施設入居費の支払いが滞ったことがあります。
その時は、担当者不在にて問い合わせも受け付けてくれないこともありました。
その時から多少時間は経っているので、改善しているとは思うのですが、「後見人だからOK」とはいかないのだな…と思った出来事でした。
■後見人を付けないという選択肢
以上のようなことをふまえると、果たして後見人を付ける意味はあるのかと疑問に思われるでしょう。
実際、後見人による詐欺まがいの事件は後を絶ちません。
ですが、私の見解はこうです。
「後見人は、つけるべき」
私にとっては、後見人を付けないという選択肢はありません。
後見人ができること、できないことを含め、どんなことを後見に望むのかを明らかにするなど、我々側も制度のことを良く知らなければなりません。
その上で、後見人をつけること、つけないことのメリット/デメリットを考えると、後見人がいることのメリットが断然大きい。
■後見は、任意で。
「後見は、転ばぬ先の杖」と前述しました。
転ばない内に対策を取っておく、ということです。
法定後見は、認知症を発症し、支援が必要になってはじめて手続きを取ります。つまり、転んでからどうにかしようとしているのです。
転ばぬ先の杖として制度を利用するのであれば、任意後見の一択です(あくまで私見です)。
以下、私が任意後見が良いと思う事がらです。
①どこの誰か分からない人に、通帳を握られることはない。
②自分の意思を示すことができる。
③自分の死後のことも、決めておくことができる。
④残された家族に迷惑をかけない。
割合としては、④が一番大きいように思います。
大まかなことは遺言で残すのも一つとは思いますが、「私」という個人の権限をあらかじめ委譲しておくことで、こまごまとした手続きも支障なく行えるのではないかと思っています。
成年後見は、「認知症になったら」を想定して語られることも少なくありません。また、裕福な方に向けた制度でもありません。
私もそうですが、現役として働いている世代も、自分の将来のため、残された家族のためにしっかりと学んで、転ばぬ先の杖を手にする必要があります。
精神科で医療相談に従事していると、自分も「ある時突然、自らの判断能力を失う事態に遭遇するかも」と思うこともあります。関わっている患者様と同じく、私にも精神疾患を発症するリスクはあります。
それこそ、コロナやインフルエンザ同様、精神疾患だって「自分は大丈夫」とは決して言えないのですから。
お読みいただき、ありがとうございました。