ご覧いただき、ありがとうございます。
精神保健福祉士『一教』と申します。
相談員として、精神科に勤務しております。
どのように医療につなげるべきかという受診相談を、ご家族からお受けすることがあります。
そのような時は、ご本人様にとっては一番症状が強く出ているとき(一番辛いとき)であることがほとんどです。
そして、ご家族にとっても辛い決断を迫られるときでもあります。
そこで、治療過程での「決断」という点から、ご家族の思いや葛藤について考えたいと思います。
ご本人様の気持ちが受診に向いているときと、向いていないときとでは、受診や入院に至る展開が異なります。
受診に気持ちが向いているかどうかは、
◆自分が病気である、または病気かも知れない、という意識(病識といいます)があるかどうか。
◆医療が必要なほど困っているかどうか。
この2点である程度判断可能です。
病識があって、困っている方であれば、受診に抵抗されることはないでしょう。
大変なのは、言動はメチャクチャなのに病識がなく、困ってもおらず、受診を断固拒否している場合です。
こういった時、ご家族は最初の決断を下されます。
「精神科に電話しよう。」
治療が必要と思っていない方を、病院に連れて行こうとしているのですから、その葛藤や悩み、迷いには凄まじいものがあるといつも感じます。
ご家族が決断を下すきっかけとして多く見られることをご紹介します。
■明らかに言動が支離滅裂な場とき(幻覚や妄想を伴うと分かりやすいのかも知れません)
■興奮が激しいとき
■無気力で全く動かないとき
■興奮・無気力の両方を繰り返しているとき
■浪費、過食、拒食、大声、などの問題・迷惑行為が見られたとき
いくら周りから「いつもと違う」と見えても、ご本人様が「何でもない」と感じていれば、それらは病院に行く動機にはなりません。
そうなると、実力行使も持さなくなります。
実力行使は、警察やレスキューの出動要請をすること、または、ご家族自身が強引にドアを破り突入することもあるでしょう。目的は、病院に連れて行く、というだけではありません。ご本人様の症状により周囲が迷惑を被ることへの対処もありますが、まずは諸症状からご本人様を保護することと、身の安全を確保すること。もちろん、実力行使は避けるに越したことはありませんが、ここでもご家族は決断を迫られます。
「実力行使をするか否か。」
紆余曲折ありながらも、何とか診察室まで辿り着きました。
医師(精神保健指定医)が診察をし、入院が必要と判断しました。ここでも決断を下さなければなりません。
「入院に同意するかどうか。」
医師とご家族が入院必要と認め、医療保護入院が成立したら、ご本人様が何と言おうと帰れません。そして、ほぼ全ての場合において、閉鎖病棟に入ります。
ここでご家族は、入院に同意すること以外にも決断を迫られることがあります。
★閉鎖病棟に入ること
★状態によっては、鍵付き個室(保護室や隔離室など、名称は様々です。)に入ること
★興奮が激しい、自傷のリスクが高い、拒薬などの場合は、身体拘束の可能性もあること
一連の決断は、全てご本人様のためを思って下したものです。
ですが、ご本人様にとっては、
➽入院させられた
➽隔離室に入れられた
➽クスリ盛られた
➽縛られた
➽トイレ中も監視され、屈辱を受けた(常に監視していることはありませんが…)
と、ご家族や医療者に対して、被害感情を抱くことも少なくありません。
ご家族にしてみれば、良くなることを願って辛い決断を重ねてきた結果、恨まれる、という何とも言い表せない事態です。
恨まれ、憎まれるために入院させてしまったのだろうかと、ご自身の決断を悔いる発言をされる方も中にはいらっしゃいます。相談員は、ご本人様だけでなくご家族にも何らかの支援が必要かどうか、検討します。
・個別の時間を設けてご家族の思いを表出してもらうのか
・家族会のような場所で気持ちを共有してもらうのか
・ピアカウンセリング的にアドバイスしてもらうか などなど。
そのような支援を利用するかどうかも、一つの決断と言えます。
たくさんの決断を迫られた入院も、月日がたつと退院を考える時期になります。
本来、退院は嬉しいことです。怪我や病気が良くなったということですから。稀に、不治の病で、必ずしも軽快して退院する、という訳ではない方もいらっしゃいますが、無機質な病室よりは自宅の方がまだ気分は和らぐかと思います。
しかし、いくら治療が進展したと説明され、症状が落ち着いたとしても、手放しでは喜べないという方もいらっしゃいます。
なぜなら、入院の時の辛い記憶があるから。
また症状が活発になったら、あの決断の数々を繰り返さなければならないのかという思いが、頭をよぎるようです。これらを踏まえ、ご家族は決断を迫られます。
「退院を受け入れるか。」
「どうしたら退院を受け入れられるのか。」
この決断をするとき、多くのご家族が心配されることがあります。
「具合が悪くなったとき、また入院させてもらえるだろうか。」
各病院の事情もあり、ここで一概に申し上げることはできませんので、あくまで一般的な相談員の動きとして、を前提に可能な範囲でお伝えします。
その時々のベッド状況にもよりますが、大抵の方はなるべくスムーズに入院できるよう、入院調整をします。“大抵の方は”としたのは、やはり中には環境になじめなかったり、治療上の約束事を守っていただけなかったりして、入院継続や再入院が適当ではない、と判断される方もいらっしゃるからです。
▼受診や入院を決断する際の葛藤
▼決断したことは正しかっただろうかという疑念
▼決断したことへの後悔
件数としては1件の入院ですが、そこにはたくさんの思いや感情、葛藤が複雑に絡み合っています。そして不安も。
相談員はご家族のお話を伺う機会が多いので、このような思いを抱えている方がいらっしゃるという知識はあります。しかし、当事者ではないので「分かります」などとは言えません。まして、「他の方もそうですよ」とは、決して言えません。
それぞれのご家庭には、それぞれの悩みや困りごとがあるのですから。
「嫌がる本人を無理矢理入院させたのは、やはりいけなかったのかも知れない。本人がかわいそうで…。」というお話も伺います。
お伝えしたいのは、悩みや葛藤、後悔、不安といった感情が生じるのは自然なことだということ。
それらの感情により、自責の念を抱くこともあるでしょう。
それも含めて、自然なこと。そう理解していただきたいのです。
そこから、ご家庭自身も回復に向かっていくのです。
ご本人様は、入院して精神療法、薬物療法、リハビリテーションなどを通して、病気や症状からの回復を図ります。
その間ご家庭も、決断を積み重ねた辛さからの回復を図ります。
ご家庭自身の気持ちが落ち着き、日々生活する姿をご本人様に示すことで、ご本人様にとっても回復のモデルとなることが多いようです。
入院におけるご家族の辛さやネガティブな感情に焦点を当ててきました。そのようなネガティブな感情に囚われて、視野や思考が狭くなってしまうのは自然なこと。
各家庭やご家族個々人によっても受け入れ方や取り組み方はそれぞれ様々ですが、大事なのはその先にある生活であり、そのために今の感情からの回復プロセスを辿ること、です。
お読みいただき、ありがとうございました。
ご家族の回復プロセスや、ご本人様との関わり方については、改めてお伝えせていただければと思います。
よろしくお願い致します。