シナリオサンプル②恋愛ゲーム(ノベル向け、モノローグ多め)

記事
小説

※主要イベントのみ抜き出し
※メインルート

[共通/1]
モノローグ
幼稚園に通っていた頃の私は、有り余る元気で大人を困らせる典型的なお転婆幼女だった。
小学生だった私は、クラスの真ん中で恋バナに夢中だった。
中学生。このへんからちょっと雲行きが怪しくなる。
そして今。高校生になって3度目の冬。
私が落ち着いたポジションは、可もなく不可もない『そこそこ』の女。なんとなく存在する、教室のオプションだ。
絵に描いたような凋落。
  昔の私を知る人の目には、この現状はとても惨めに映るだろう。
  だけど残念ながら……非常に困ったことに、今の生活に不満らしい不満はない。
私という人間そのままに、可も不可もない、つまり特段不可ではない毎日は退屈ながらも穏やかで、平和だ。
そんな高校生活も残りあとわずか。
「終わる」というよりは、日常が「変わる」
それが私の、卒業に対するスタンスだった。
//教室(放課後)//
未来 「あー終わった……ようやく帰れる……」
ともか 「……6時間目、見事に爆睡してたね、あんた」
未来 「古賀先生の後輩が科警研にいるっていうのは理解した」
ともか 「それ最初の雑談じゃん! ったく……進路が決まってるからいいようなものを……」
1月。それまで比較的穏やかだった空気がガラリと変わった。
大学入試を目前に控え、それまで余裕ぶってたヤツも露骨に焦りを見せはじめ、あとはもう不安と焦りの伝播だ。
私は早々に、地元大学への推薦入学が決まっている。
皆が必死になって目指している学校の、下の下のレベル。
進路の決め手は、無理なく無難であること。だ。
未来 「ふふ……高望みをしないのが穏やかでいられる秘訣よ」
ともか 「……なにそれ。勿体無い」
未来 「そう?」
ともか 「あんた、やればできるタイプの典型じゃん。……私があんただったら、ランク一個上げてもっと頑張る」
未来 「……びっくり」
ともか 「は?」
未来 「いや……意外な高評価をありがとう」
ともか 「褒めてない! やればできるのにやらないのは怠け者っていうのよ!」
未来 「そこまで言う……?!」
ともか 「あんたこそ言わせないでよ……」
ひどい言われようだ。
そりゃあ努力とは無縁かもしれないけれど、私は決して怠けているわけではない。
……多分。
未来 「まあ、仮定の話をしても仕方ないし。……帰ろーよ」
ともか 「私予備校行くし。時間まで図書室で勉強してく」
未来 「そっか。……無理はしないでね」
ともか 「……うん。ありがと」
クラスメイト 「あれ、未来帰んの? ばいばーい」
クラスメイト 「また明日ー」
同じく進路決定済みの子も、記念受験とやらの為に勉強をしている。
この状況に何も思わないわけではないけれど、特別に勉強が出来るわけでも熱心でもない私が無意味とわかっている試験を受ける理由はない。
未来 「ばいばい」
あら、何かしらこの疎外感。
//廊下//
教室を出てようやく、息苦しさから解放された。
(ふう……)
(早く終わらないかな、受験)
(ああでも、受験が終わったら、もう……)
拓未先生 「お。今帰りか?」
未来 「手伝いませんよ」
拓未先生 「……出会い頭に予防線張るのはやめなさい。気をつけて帰れよー? 最近物騒だから」
未来 「はーい。さようなら、先生」
拓未先生 「はい。さようなら」
//通学路//
未来 「……さっむ」
教室が暖かいから忘れていたけれど、そういえば今日はこの冬一番の冷え込みになると言われていた。
はあと息を吐き出して、その白さを確かめる。
(……なんだか淋しい人みたい。……いや、実際そうなんだけど)
二学期に入ったあたりから、一人で帰ることが増えた。
単独行動は嫌いじゃない、むしろ一人の方が落ち着くタイプだと思っていたのに
いざ一人で放り出されると違った。
空いた隙間が淋しい。
返事をもらえない言葉が空回るのが虚しい。(人はそれを独り言というのです)
サッカー部員 「ラスト一周ー!」
サッカー部員 「ういーっす!」
未来 (……運動部は元気ね)
ポケットに手を入れ、小さくなって歩く私の横をサッカー部の集団がすり抜けていく。
時生 「ペース上げろー! 力振り絞れ!」
未来 「あ……」
――時生だ。
サッカー部 「先輩なんでそんな元気なんすか!」
時生 「引退した分パワー有り余ってんだよ!」
集団の最後尾に、時生がいる。
それを確認した私は、うつむき、マフラーに顔を埋めた。
(……何で普通に部活してんの……)
サッカー部のキャプテンで、学校のアイドル的存在。
あいつの周りだけ少女漫画みたいな世界だと、いつかともかが言っていた。
私もそう思う。
いつも人に囲まれていて。囲んでいる人も目立つ人ばかりで。
幼馴染の私をおいて、すっかり遠くにいってしまった。
時生 「俺スピード上げるからなー。俺より遅いヤツ罰走ー!」
サッカー部 「はあ!? ちょっと!」
サッカー部 「ひでえ!」
宣言通り加速した時生が、ぐん、と風を切るようにして私を追い抜いた。
時生 「……」
すれ違い様、時生の視線を感じた気もするけれど。
顔を上げる勇気はなかった。
-------------------------------------------------------------------------
選択肢、行動、パラメータによりルート分岐
ここから時生(メイン)ルート
-------------------------------------------------------------------------
[時生ルート/1]
//教室(放課後)//
未来 (よーし……さくっと帰ろうさくっと)
ともか 「未来、今日どっか寄っていこうか」
未来 「えっ何、どうしたの」
ともか 「息抜きよ息抜き! なんか煮詰まっちゃってさ。あんた見てるといい感じに気ぃ抜けるのよねえ」
未来 「……それは褒めてます?」
ともか 「褒めてはないけど、悪い意味ではないよ。……それに最近、ほったらかしにしてたでしょ。
そろそろ淋しくて死んじゃうんじゃないかと思って」
未来 「まっさかあー!」
ともか 「……帰るわ」
未来 「ああっうそうそ! 嬉しいですすごく! 遊んで! ともか!」
ともか 「最初っからそう言いなさい。ったくもー」
(ひょっとして、ずっと気にしてたのかな。この前のあれ)
//廊下//
ともか 「あ、拓未君だー!」
未来 「手伝いません」
拓未先生 「先生って呼びなさい。あとこっち。出会い頭はやめろって言ってるだろ」
未来 「すみません……先生を見ると反射的に」
拓未先生 「一度雑用頼んだだけでこんなに引っ張られるとはな……」
ともか 「……あれ? もしかして仲良し?」
未来 「ううん。いいように使われたことがあるだけで別に……」
拓未先生 「待て、人聞きが悪過ぎる。暇そうにしてたから手伝ってもらったことがあるだけだ」
ともか 「なんだ。どんどん使っちゃってよ、実際暇してるんだし」
未来 「待て? 待て待て?」
ともか 「今日はダメだけどね! 私が先にとっちゃったから」
拓未先生 「……はあ。心配しなくても、今頼むような用事はありません。寄り道もいいけど、暗くなる前に帰れよ」
ともか 「はーい」
未来 「はーい」
拓未先生 「じゃあなー」
//自宅リビング(夜)//
未来 「ただいまー」
母 「お帰りー。遅かったのねえ」
未来 「ともかとお茶してきた」
母 「あら、久しぶりじゃない」
未来 「うん」
久しぶりの寄り道はすごく楽しかった。
息抜きなのだからと勉強の話は控えめに。受験が終わったらあれをしよう、これをしようと殆ど妄想に近い無茶な目標を立てて遊んだ。
幾つ叶えられるだろう。
思い返すだけで、口元が緩む。
母 「ごきげんなのはいいけど、お夕飯、ちゃんと食べれるんでしょうね」
未来 「大丈夫、多分。今日のご飯なに?」
母 「しゃぶしゃぶよー。ふふ、ちょっといいお肉買っちゃった」
未来 「何でまた。何かのお祝い?」
母 「今日はお客様がいるから」
未来 「……おきゃく?」
――バタバタバタバタ!  ドン!
お客って誰。
私の疑問に応えるかのように、2階から激しい物音が聞こえた。
小学生の男の子がいるわりに、このテの騒音は我が家ではとても珍しい。
どんなモンスターがいるんだろうと、ちょっと不安になる。
未来 「……お母さん」
母 「あらあら、虎太郎ったら大はしゃぎね。珍しい。お兄ちゃんがきてくれて嬉しくてたまらないんだわ」
未来 「おにいちゃん?」
だから、お兄ちゃんって誰よ。
虎太郎 「おかあさーん! 俺のゲームどこ置いたー? あ、お姉ちゃんお帰り」
未来 「……ただいま」
時生 「虎太郎! ゲームは宿題終わってからって言っ……」
未来 「え」
時生 「あ」
……モンスターの方がよかったかもしれない。
何故。どうして時生が家に居るの!?
母 「スーパーで偶然会ったのよ。ねー?」
時生 「……うち今日親なくて、それで」
母 「そんなもの食べるならうちにいらっしゃいよ! って連れてきちゃった」
未来 「……」
なるほど。無理やりつれてきたわけか。
幼馴染の親という存在は実はとても厄介だ。
小さい頃から知っているせいか、他の友達に対するそれとは明らかに違う気安さ、強引さで
NOという言葉を封じてしまう。
私も逆の立場なら間違いなく連行されていただろう。
未来 「……私着替えてくるね」
時生に同情を抱きながら、そそくさと、逃げるようにリビングを出た。
冷静を装ったけれど、頭の中は大パニックだ。
未来 「……なにこれ」
どうしよう。
どうしようどうしようどうしよう。
大きくなった時生が、今、私の家に居る。
//自宅リビング(夜)//
虎太郎 「兄ちゃん、どうやったら兄ちゃんみたいに背ぇ伸びる?」
時生 「そうだなー……とりあえず腹いっぱい、好き嫌いなく食うこと」
母 「お野菜もちゃんと食べなさいってことね」
虎太郎 「えー……」
湯気をたてる鍋を囲んで、家族団らん……+1の夕食タイムが始まった。
せっかくいいお肉を使っているのに、違和感と緊張感のおかげでなかなか箸が進まない。
父 「しっかし……育ったなあ……ホントにあの時生君か?」
母 「アナタの娘も同じだけ育ってますよ。……でもほんとに久しぶりよね。すっかりイケメン君になっちゃって」
父 「モテるだろう。今付き合ってる子とかいないの?」
時生 「いないっすよ。周りも受験でそれどころじゃないし」
父 「そうかー……勿体ないなー」
母 「うちの娘とかどう? 時間も余裕も有り余ってるし」
父 「おい!」
未来 「お母さん!」
母 「やあねえ、冗談よ冗談」
何を言い出すんだこの人は。
親にとっては気軽な冗談かもしれないけれど、ネタにされてしまった子供の方は気まずさ4割増しだ。
時生 「大学決まってるんだ?」
未来 「あ……うん。○▲大」
時生、見事なスルー!
……ちょっとは慌てるとか戸惑うかしてくれてもいいような気もする。
時生 「ふうん……どうりで」
未来 「何よ……」
時生 「よく一人でぷらぷら歩いてるの見掛けるから。暇なんだな、と」
母 「時生君は?」
時生 「俺も決まってます。サッカーで推薦もらえたんで」
母 「あらすごいじゃない!」
父 「昔からサッカー強いもんな。君らの高校は」
未来 「……どうりで」
時生 「何だよ」
未来 「サッカー部に混じって遊んでるの見たから。暇なんだなーって」
時生 「お前と一緒にすんな。俺は後輩の指導と体力維持という目的があるの。暇じゃないの」
未来 「う……」
(ぐうの音もでない……)
母 「あら、二人とも学校で話したりしないの?」
時生 「あー……クラスも違うし、大体男は男で固まってるんで」
母 「淋しいわねえ。せっかく同じ学校にいるのに」
父 「まあ、そんなもんだよ。異性同士は」
未来 「……」
よくもまあつらつらと当たり障りのない言葉が出てくるものだ。素直に感心した。
時生の言っていることは嘘ではない。全部事実だ。
だけどそれはあくまでも『原因』の表面部であって、全てではない。
サスケ(犬) 「ワンワン!」
父 「ん? サスケが何か言ってるぞ。飯は?」
虎太郎 「あげた!」
母 「お散歩かしら……今日朝の散歩しか行けてないのよね……」
父 「ああ、じゃあ後で俺が……」
母 「未来ちゃん、食べ終わったらでいいからお願いできる?」
未来 「うん」
母 「ありがとう。……でも一人じゃ危ないし、時生君、一緒に行ってあげてくれないかしら」
未来 「えっ」
(また何か言い出した!)
何かを察知したのか、何も考えてないのか。
お母さんの笑顔の鉄化面は一切思考を読ませてくれない。
時生 「……いいですよ」
お腹の中に大量の肉を詰め込んだ後だ。これでNOと言える人なら、そもそもここにはいないだろう。
母 「よかったあ。ありがとう。お願いね、二人とも」
ここで、意味ありげなウインク。
未来 (……おかあさんっ)
……お母さんには多分一生勝てない。
//夜道//
時生 「あー食ったー……」
未来 「……なんか、ごめん。ほんっとごめん!」
時生 「何がだよ。俺こそいきなりごめん。断れなくて」
未来 「それも含めての謝罪です……」
時生 「その謝罪は受け取れないな。飯旨かった。ごちそうさま」
未来 「……くううう」
サスケ 「ワン!」
時生 「リード俺が持つよ。こいつ結構パワーありそうだし」
未来 「あ……ありがとう」
時生 「うん」
(……紳士だ)
サスケの散歩なんて慣れっこだし、この体に引き摺られるほどか弱くはないけれど。
あまりに自然な『女の子扱い』にこちらも思わず素直に甘えてしまった。
時生 「決まりのコースとかあるの?」
未来 「あるようなないような……何パターンかをランダム……サスケの気分次第」
時生 「じゃあこいつに付いていけばいい?」
未来 「うん」
サスケに引っ張られるがまま、時生が一歩前に出る。
時生 「……あー……寒ぃ」
未来 「……うん」
普通に話せていたけれど、やっぱりこれが自然な距離感なのだろう。
隣に並ばれていた時よりも、ずっと呼吸が楽だ。
心地の良い静寂に響くのは、嬉しそうなサスケの息遣いと二人分の足音だけ。
足音が増えただけなのに、なんだか今日は別世界を歩いているような気がする。
時生 「……すげえ久々だよな。話すの。どれくらいぶり? 中学か?」
未来 「かなあ……」
時生 「随分変わったよな。お前。同小の連中が今のお前みたらびびるぞ。確実に」
未来 「……そんなこと」
そんなこと……ある。あるなあ、確実に。
それも決していい意味の変化ではない。
未来 「……変わったっていうなら、そっちだって」
いい意味で変わったのは時生だ。
時生 「俺は変わらないよ。成長はしたかもしれないけどさ」
未来 「そんなことない。……私から見たら、すっかり別世界の人って感じだよ」
時生 「はあ……?」
未来 「遠くに行っちゃったなあってこと」
近くにいるのが当たり前。いつも隣に並んでいたのに。
……今の時生は、誰よりも遠い。
時生 「……お前なあ。確かに距離は出来たよ。だけどそれは、お前が俺を近づけなかったからだろ」
未来 「それは時生が」
時生が、凄いから。
隣にいるのが怖くて、恥ずかしくて、申し訳なくて。
だから、距離を。
時生 「少なくとも、俺がお前から逃げたことは一度も無いね」
――ああ、そうか
時生 「俺はやるべきこととやりたいことを全力でやった。高校三年間の『結果』を変化なんて軽い言葉で片付けられると正直気分よくない。
俺がどうこう言う前に、お前は三年間何やったの? 避けたのはそっちなのに、なんで俺のせいになるんだよ」
変わったのは私。
足を止めたのも、私。
追いかけるより諦めた方が楽だから。
それが『自分らしさ』なのだと、言い訳までして。
未来 「……ごめん」
時生 「……俺も言い方きつくなった。ごめん。だけど結構傷ついてたんだからな、これでも」
未来 「……ほんと、ごめん」
子供じみた自己防衛。
それで誰かが傷つくだなんて考えたこともなかった。
……私が時生を傷つけるだなんて。そんなこと、全く。
時生 「……うん。許した」
未来 「そんなあっさり……」
時生 「恨み言ばっかり言っててもしょうがない。時間が勿体無いだろ。卒業まであとちょっとしかないのに」
卒業まであと少し。
高校生活が終わるのと同時に、私達の距離は本当の意味で広がってしまう。
時生 「ちゃんと話せてよかった。……もう無視すんじゃねえぞ」
今からでも間に合うだろうか。
追いつくことはできなくても、声が届くくらいの距離には近づくことができるだろうか。
未来 「……がんばる」
時生 「……頑張らなきゃいけないほど嫌われてんの? 俺」
未来 「いや、そうじゃなくて……その」
時生 「仲直りって、元に戻るだけじゃん。特別なことじゃないだろ」
元に戻る。……簡単に言ってくれるけれど、一度形作られてしまった性格や思考を矯正はそう簡単なものではないだろう。
それに今目の前にいる時生も、あの頃とは違う、『成長』した時生だ。
戻れるものなら戻りたい。
出来ることなら……あの頃みたいに。
それにはやっぱり、今のままの私じゃダメだ。
時生 「……贅沢は言わねえよ」
未来 「え?」
時生 「……や、なんでも」
----------------------------------------------------------------------------
選択肢による好感度度、規定達成時のみ
-----------------------------------------------------------------------------
//教室(昼休み)//
自由登校の期間が終わって、淋しかった教室も久しぶりの満員御礼。
懐かしさすら感じる活気を取り戻した。
山場を越えたのか、開き直りが入ってきたのか、休みの前よりは皆の表情も明るい。
チャイムと同時に教室を飛び出したともかの分の椅子を動かし、昼ごはんの準備に取り掛かった。
今日のお弁当は鶏そぼろご飯だ。
卒業前のラストスパートのつもりなのか、いつもよりおかずも多い。
ともか 「……ちょっと見ない間に」
未来 「お帰りー。パンちゃんと買えた?」
ともか 「ねえ、正直に答えて?」
未来 「え……何、質問による」
ともか 「今廊下で聞いたんだけど……
あんた、時生君と付き合ってんの?」
未来 「……は?!」
ともか帰還とともに齎されたそのセンセーショナルなニュースは、見事、当事者である私の度肝を抜いた。
ともか 「噂になってるっぽいよ」
未来 「付き合ってない! ないない!」
私と、時生が、お付き合い。
どうして、どこからそういう噂が生まれたのだろう。
そりゃあ接触の機会は増えたかもしれないけれど、あくまでもゼロが10になっただけで特別なことはなにもない。
……淋しいくらいに、何も。
ともか 「……だよねえ? あんたそんな素振り全然なかったし」
未来 「時生は……その」
ともか 「呼び捨て?!」
未来 「や、だからね。幼馴染なんだ、私達」
ともか 「……」
未来 「あ、あの、ともかさん」
ともか 「……ああ、うん。ごめん。三年目の終盤に知った驚きの事実にちょっと反応出来なかったわ」
未来 「ごめん……なんか言い出せなくて」
ともか 「いや、いいけど……わかんないなあ。私だったら、あんなすごい幼馴染がいたら自慢しまくるけど」
未来 「……すごいのは時生であって私の自慢にはならないと思う」
ともか 「そうだけどっそんな凄い人とちょっと特別な関係の私! みたいになんない?」
未来 「その後の展開を考えただけでぞっとする」
ともか 「……それもそうね」
未来 「……でも……なんでいきなり噂になんか……」
ともか 「心当たりは?」
未来 「無いよ。ただちょっと……その、気まずい状態が終わったというか。仲直りしたというか。また話すようになっただけで……」
ともか 「それよ!」
未来 「どれ?!」
ともか 「今までなーんの接触もなかった休み明けたらいきなり接近してんのよ? そりゃ勘繰るでしょ普通」
未来 「あ……」
成程納得。
確かに、他の人からみれば唐突な展開だったかもしれない。
しかも噂の相手は私だ。
表舞台とは一切無縁の自他共に認める「そこそこ」系女子と学校のアイドルじゃあ接点が無さ過ぎる。
ともか 「最後の最後にこんなでっかい爆弾落とすなんて……やるじゃん、あんた」
未来 「……はは……」
噂って、どういう噂?
どこまで広がってるの?
まさか、時生の耳にも――
ともか 「……で、どうなのよ」
未来 「……だから、付き合ってないってば」
ともか 「そうじゃなくて。……好きなの? 時生君のこと」
未来 「……」
好きかと聞かれたら。
答えは考えるまでもない。
時生という存在が『当たり前』だった頃と今では、同じことをしても、違う。
仲直りしてからは、なんでもないこと、普通であることが嬉しかった。
特別なものではない、幼馴染としてのやりとりが、自分にとっては『特別』だった。
昔みたいに。そう願っていたけれど。
今私が欲しいのは、過去ではなく未来だ。
クラスメイトA 「ちょっと未来! あの噂ホントなの?!」
クラスメイトB 「違うよね?! 未来とか完全ノーマークだし!」
ともか 「ちょっと……っ」
好き。
好き。
大好き。
だけど、それを認めてしまうのは。
誰かに知られてしまうのは
(……コワイ)
未来 「……ホントなわけないじゃん。私と『あの人』じゃつりあわないし」
クラスメイトB 「だよねだよね?! もー驚かせないでよー!」
クラスメイトA 「でも、仲良いのは良いんでしょ? 噂になるくらいだし」
クラスメイトB 「えー? 接点なくない?」
クラスメイトA 「意外ではあるよね」
クラスメイトB 「ま、付き合ってないならいっか。じゃあさあ、ちょっと協力してよ未来ー」
ともか 「あんたさっきからちょっと飛ばし過ぎ」
クラスメイトB 「いいじゃん。営業はコネが大事なのよ、コネが」
クラスメイトA 「うわあ引くわー。未来、コイツは相手しなくていいからね。大して本気もでないし」」
クラスメイトB 「ちょっとやめてよ勝手に。せっかく協力してくれるっていってるのにさ」
クラスメイトA 「んなこと一言もいってないし」
ああ、いやだ。
はやくあっち行ってくれないかな。
クラスメイトB 「だって別に、好きってわけでもないんでしょ?」
好きだよ。
未来 「……うん」
……好きなのに。
時生 「盛り上がってるとこ悪いんだけど、ちょっと割り込ませてもらっていい?」
クラスメイトB 「時生君……っ」
ともか 「うわあ……」
(うそ……?!)
いつからそこにいたんだろう。
……聞かれた?  どこから、どこまで?
時生 「未来、これ昨日言ってたCD」
未来 「あ……」
時生 「ありがとうは?」
未来 「……ありがとうゴザイマス」
時生 「よし。……貸し出し期限は卒業式の日でよろしく。……じゃな」
表情も声もいつも通りだけれど。
何気なく、だけどはっきりと引かれたラインに、全身の血の気が引いた。
ともか 「……空気とタイミングも読めないでアイドル気取ってんじゃねえっつの。これだから体育会系は……」
クラスメイトA 「……あ、やっぱ今のバッド?」
ともか 「……未来見りゃわかるじゃん」
クラスメイトB 「え、え、え?」
卒業式の日。それが私達の、現在と未来の境界線。
その日を越えたら終わり。……終わらせるつもりなのだ。
未来 「……どう、しよ……」
もうすぐ、現在が過去へと変わる。
-------------------------------------------------------------------------------------------
卒業式の二日前。
いつかと全く同じ展開で、時生と食卓を囲うことに。今度は母親の手をかりず、自ら犬の散歩に時生を誘う。
-------------------------------------------------------------------------------------------
[時生ルート/告白]
//夜の公園//
サスケに引っ張られ辿り着いたのは、いつもの、お気に入りの公園だった。
前に一緒に来た時は、前後に並んでいた足が、今は横一列に並んでいる。
時生 「信じらんねえよなあ」
未来 「え……?」
時生 「卒業。三年間何してたっけ、俺」
(頑張ってたよ)
(すごく……誰よりも頑張ってた)
三年間。感情を共有することはなかったけど。過ごした時間は同じだ。
時生 「まあ、全力で生きたことは間違いないけど」
未来 「……やっぱ凄いね、時生は」
時生 「何がだよ。俺なんか、ぜんっぜん凄くない。
凄いヤツっていうのは、努力してその結果を残せるヤツのことを言うんだ。
負けりゃあ悔いも残るよ。……一生モノののな」
(私なんて、努力した思い出すらない)
時生 「……でも、悪くない三年間だったかなあ。最後の最後で、お前とこうやって話せるようにもなったし」
最後。
ああ、終わるんだ。本当に。
時生 「俺さ、お前のこと好きだった」
未来 「……っ」
時生 「ずっと、ずっと好きだった。……気持ち悪いって思うかもれないけど。小学校ん時から、今まで」
終わらせたくない。何か言わなきゃいけないのに。
過去形でその言葉を綴った時生に、『今』の私が何が言えるだろう。
未来 「時生、私」
時生 「言うな。……お願いだから。もう揺さぶるのはやめてくれ」
時生 「期待して、裏切られて、また期待して……そんなんばっか。俺だけ浮かれてバカみたいじゃん」
時生 「……俺の自惚れじゃなければ、ちょっとは気持ちも近づけてたよな、俺ら。
だけど……ダメなんだ。ああいう場面で咄嗟に否定する気持ちはわかるけど、でも」
時生 「……ああまたかって思っちゃったんだよ、俺」
時生 「お前のその癖、多分治らない。たとえ俺らが付き合えたとしても、きっと同じ事を繰り返す」
時生 「気持ちが対等じゃないんだよ」
堂々と『好き』だと言えないのは、自分に自信がないからだ。
私と時生じゃ釣り合わない。
そのコンプレックスが、他人の目や言葉に敏感に反応してしまう。
自分の気持ちを否定されるのが怖くて。
……時生に置いていかれるのが、怖くて。
時生 「……またいきなり居なくなるかもしれない。そんな不安抱えたまま好きでいるのは、正直キツイ」
私はあの時、自分の保身の為に時生からの信用を失ってしまったのだ。
時生 「……お前さ、もうちょっと自信もてよ。何がどうしてそんなにこじれたんだ」
未来 「……近くにスーパーマンがいたからよ」
(あ、やばい)
(……泣きそう)
時生 「ほらまた人のせいにする。自信なんて他人から貰えるもんじゃないだろーが」
時生 「自信をつけたないなら、自発的にやれるだけのことをやれよ。自信も不安も、結局は自分の中から生まれてくるもんなんだからさ」
時生の右手がふわりと浮いて、私の頭をポンポンと優しく叩いた。
時生 「……我慢すんな」
未来 「……やだ」
泣くのはダメだ。絶対に。
今泣いたら時生が悪者になる。……なろうとしてくれる。
時生 「今は泣いていいタイミングだぞ。家帰って一人で泣くくらいなら今ここで泣けよ」
未来 「……」
時生 「……今なら俺が拭ってやれるから」
――泣きたくないのに。
どうしてこんなに優しいのかな、この人。
未来 「……ごめ……」
時生 「うん」
未来 「……ごめんなさい……っ」
(泣いちゃってごめん)
(……いっぱい傷つけて、ごめん)
時生 「……うん。許した」
嫌いにさせてくれないなんて。
許されないほうがマシだ。
-------------------------------------------------------------------------------------------
ともかに励まされ、自分の気持ちを伝える為に、もう一度信じてもらう為にCDを人質にメールで時生を呼び出すことに。
-------------------------------------------------------------------------------------------
[卒業の日/時生ルート ED]
特に感動も感慨もない卒業式というイベントをこなして、クラスごとの解散式も担任の涙でそれらしく美しく終わった。
メインイベントはこれからだ。
緊張のあまりはやくも心臓がウォーミングアップを開始している。
クラスメイトA 「未来、この後カラオケ行くっしょ?」
未来 「行く……けどちょっと先に用事済ませてくる。先行ってて」
ともか 「なんかあったらすぐ電話しなさいよ」
未来 「ありがといってきます!」
//昇降口//
拓未先生 「よお、卒業おめでとさん」
未来 「急いでるので手伝えませんごめんなさい」
拓未先生 「急いでなくても手伝わないだろ。ったく最後までそれかお前は」
未来 「すみません。つい」
拓未先生 「……安心した」
未来 「はい?」
拓未先生 「や、俺お前のことクラゲみたいなヤツだなって思ってたんだけど」
未来 「最後の最後にクラゲ呼ばわりですか」
拓未先生 「最後の最後だから言うんだよ。……化けたな、お前」
未来 「……そうですか?」
拓未先生 「うん。ちゃんと芯が通った感じがする」
拓未先生 「恋でもしたのかな?」
未来 「セクハラです」
拓未先生 「ははっ厳しいな。まあ要因は何であれ、これで安心して送り出せるよ」
未来 「先生……」
拓未先生 「急いでるんだろ? 行きなさい。転ばないようにな」
未来 「……はい。気が向いたら手伝いにきてあげますね」
拓未先生 「ああ、期待しないで待ってるよ」
拓未先生 「じゃあな」
//駅前//
クラスが解散次第、駅前広場の大時計前で。
そんなアバウトな待ち合わせをしたせいで、気と足が急いた。
担任からのプレゼント、アカペラ歌唱はそりゃあもう素晴らしいものだったけれど、タイムロス、という失礼極まりない単語が頭の中ををちらつく。
(……ちゃんと話せますように)
言葉はしっかり用意してある。
あとは途中で泣かないこと。噛まないこと。パニックにならないこと。
何度も復唱した言葉をもう一度頭の中で再生しながら、人をかきわけ時計台へと走る。
(ちゃんと言わなきゃ)
(私まだ、一度も)
(好きって……
//暗転//
【時生ルート/ED】交通事故。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す