敷金精算担当が考える「AIの嘘(ハルシネーション)」と自分を守るための理論武装

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賃貸不動産管理会社に勤めている私の業務の一つの「退去立会い(敷金精算業務)」は、入居者負担分・オーナー(大家さん)負担分を分けるとてもシビアな業務です。このシビアな世界に、最近話題のAI、特にChatGPTのような生成AIをどう取り扱うか、プロとしての意見を述べさせていただきます。

この業務で一番大事にしている事は、「入居者でもなく、オーナーでもなく、会社でもなく、とにかく自分を守る」事です。そして、AIが作り出すハルシネーション(Hallucination:事実ではない情報)は、この「自分を守る」という鉄則を簡単に崩壊させる危険性をはらんでいます。

AIが作る「もっともらしい嘘」の怖さ
AIが事実ではない情報を、自信満々に作り出すことを「ハルシネーション」と呼びます。専門用語を並べ、法律の条文らしきものを引用し、さもそれが真実であるかのように出力してくる。これが一番怖いところです。

ここで、ちょっと余談ですが。

退去立会いの現場では、入居者さんやオーナーさんと、敷金精算の根拠について議論になることが何百回とあります。その際、客観的根拠に基づき、理論武装という名の鎧を身に着けている私でも、説明に1時間近くかかる場合もあります。

もし、このシビアな現場で、AIが生成した「もっともらしい嘘」を根拠として提示してしまったら、どうなるでしょうか?相手から「その判例は存在しない」「ガイドラインの解釈が間違っている」と論破された瞬間、私の築き上げてきた理論武装は崩れ去り、信頼を失い、最悪の場合、自分が全責任を負わされることになります。自分自身を「平常」に保つことが出来なくなってしまうのです。

なぜAIのハルシネーションに頼ってはいけないのか
私がこんな神経をすり減らす仕事を19年以上も長く続けられてきた理由は、自分自身を守ってきたからだと客観的に分析してます。そして、その「自分を守る」って結局何をしてきたかというと、自分がジャッジした内容に、客観的根拠を持つ事です。それだけです。

賃貸不動産の敷金精算業務は、以下の特性から、AIのハルシネーションに非常に弱いです。

「グレーゾーン」の判断が多い:

「通常損耗か、故意・過失か」の線引きは非常に曖昧で、個別の状況(居住年数、破損の部位、入居者さんの言い分)をヒアリングして総合的に判断します。AIが出す一般論や架空の判例は、この個別具体的な「話し合いを経て」の精算結果には使えません。

地域や時代の慣習が絡む:

過去の判例や、ガイドライン等を何度も熟読していても、地域の慣習や裁判所のトレンドによって解釈が変わる場合があります。AIの学習データがいつの時点のものか不明確な以上、それを最新かつ正確な根拠とするのは危険すぎます。

モチベーションの問題:

私のゴールは、敷金精算業務の次のステップの、お部屋のリフォームにあります。リフォームでどんなお部屋にしようか考える事が楽しくてこの仕事を続けています。でも、精算業務でトラブルを起こしてしまっては、その次のステップに進む気力さえなくなってしまいます。ハルシネーションによるトラブルは、両ひざを床につけて顔を覆いたくなるほど、モチベーションを奪います。

実務家としてのAIとの向き合い方
なので、この業務に関しては、私はどちらにも忖度せずにやってます。そして、AIに対しても忖度せず、情報源として使うことを避け、あくまで効率化のためのツールとして使っています。

AIは、例えば「入居者さんに送る精算結果の通知書の文案作成」や、「リフォーム後のコンセプトのブレスト」など、アイデア出しや文章作成の効率化には役立ちます。

しかし、「客観的根拠」となるべき法律解釈や判例検索は、必ず自分で過去の判例やガイドライン等を何度も熟読し、理論武装を盤石にする。これこそが、AI時代においても、自分自身を「平常」に保つ唯一の方法だと考えています。

あなたの業務でも、AIの出力する情報が「論破できる程の根拠」を持っているか、シビアに見極めてください。
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