話してよかった、と思えないとき
勇気を出して話した。
職場がつらくて、もう限界で——それを、信頼している人に打ち明けた。
「でも前を向かないと」「みんな同じだよ」「それくらい乗り越えられる」
返ってきた言葉が、なんか違った。悪意はないのはわかる。それでも、話したあとの方が、なぜか一人になった気がした。
「私が弱いのか」「こんなことで相談するべきじゃなかったのか」——そう思って、次からは誰にも話さなくなった。
こういう経験を持つ人が、実はかなり多い。
「相談したら余計しんどくなった」「アドバイスが邪魔だった」「共感しているふうなのに、なんか薄かった」——言葉にするのが難しいけど、確かにある感覚だ。
これは、相手が意地悪だったのではない。相手も、善意だった。では何が起きていたのか。
実は、かなりシンプルな構造がある。ただ、自分一人ではなかなか気づきにくい。心理学の研究者たちが、これを長年調べてきた。
第1章:「役に立たないサポート」とは何か:ある調査が明らかにしたこと
ある研究がある。
配偶者や子どもを交通事故で亡くした人たちに、「他者からのサポートで救われたこと」と「役に立たなかったこと」を聞いた調査だ。
「役に立った」と最も多く答えられたのは——ただそばにいてくれたこと、気にかけてくれていると伝えてくれたこと、気持ちを表現する機会を与えてくれたこと、だった。
「役に立たなかった」と最も多く答えられたのは——アドバイスを受けたとき、回復するように励まされたとき、無理に陽気にふるまわれたとき、「あなたの気持ちわかる」と言われたとき、だった。
ここで興味深いことがある。
同じ調査で、「もし身近な人を亡くした人を支えるとしたら、あなたは何をするか?」とも聞いている。その回答は——そばにいる、気にかけていると伝える、気持ちをぶつけたいときに機会をつくる——つまり、実際に「役に立った」と答えられたことと、ほぼ一致した。
言い方を変えると、みんな「何が助けになるか」は知っている。でも、実際にはそれができていない。
なぜか? 話を聞く側が、相手の状況に直面することでストレスを受けてしまうからだと、研究者たちは考えている。その不安から逃げるように、アドバイスや励ましが出てくる。
これは意地悪じゃない。ただ、聞き手自身が怖くなってしまう、ということだ。
僕が製造業でどん底にいたとき、同じような経験をした。体重が10キロ近く落ちて、夜はお粥しか食べられない時期があった。職場の先輩に「なんかしんどくて」と話したことがある。返ってきたのは「酒飲めば治る」だった。(そのあと、その先輩はメンタルの問題で長期休職した…。)
悪意じゃなかったと、今は思う。ただ、先輩自身がしんどさに直面する方法を知らなかった。
「役に立つ言葉」と「役に立たない言葉」の違いは、どちらが賢いかじゃない。どちらが相手の前に、その瞬間ちゃんといられるか——それだけの話なのかもしれない。
じゃあ、どうすればいいのか——これについて、ここからが大事な話になる。
第2章:「ただそこにいた」だけで変わった人たちの話
カオリさん(40代、複数事例の合成)は、休職中だった。
どこに相談しても「休んでいて大丈夫」「焦らないで」と言われた。言葉自体は正しいと思う。でも、なんかズレていた。自分が感じているのは「焦り」じゃなかった。もっと言葉にならない何かだった。
それを言語化できないままでいたことが、一番しんどかった。
あることをきっかけに、「自分が何を感じているのか」を整理する機会を得た。アドバイスはなかった。「それは大変でしたね」でもなかった。ただ、話した内容を一緒に眺めてくれる人がいた。眺めていると、自分でも気づいていなかったパターンが見えてきた。
3ヶ月後、カオリさんは「相談に行った日から、少しずつ眠れるようになった」と話してくれた。問題が解決したわけじゃない。ただ、自分の状態が「見える」ようになった。見えると、少しだけ落ち着いた。
別の話もある。
ショウさん(30代、複数事例の合成)は、退職を迷って1年以上そのままにしていた。退職の話を誰かにするたびに、「もう少し続けてみれば」か「さっさと辞めれば」のどちらかだった。どちらも違った。
自分でも「辞めたいのか、辞めたくないのかわからない」という状態だった。あることで、その「わからない」の中身を細かく分解できた。辞めたくない理由が「恐怖」からだとわかった瞬間、少し軽くなった。恐怖は恐怖として向き合えばいい。
その後6ヶ月で、ショウさんは転職した。年収は変わらなかったが、「自分で決めた感覚」があると話してくれた。
ただ、正直に言っておくと、この人たちはたまたまそのきっかけに出会えただけだ。一人でこれに気づくのは、かなり難しい。話せる場所があるかどうか、それだけで全然違う。
第3章:「吐き出せばラクになる」が逆効果になるとき
ここで、一つ注意しておきたいことがある。
「つらい気持ちを話せばいい」——これは正しいが、条件がある。
心理学の研究では、同じような不安を持つ人同士が感情を共有すると、かえってネガティブな感情が強まることがある、という結果も出ている。「圧力鍋」と表現される現象だ。同じ心配を持つ友人同士で話していると、不安が増幅される。
また、話す内容が「ネガティブな感情そのもの」だけだと、その感情にさらに注意が向いて、悪化するケースもある。
では何が違うか。
相手が「その感情の中にいない人」かどうか、そして、感情を「整理」できる場かどうか——この2つが、効果のある「話す」と、逆効果になる「話す」を分ける、一つの鍵になっている。
ただ愚痴を聞いてもらうことと、自分のパターンを整理することは、全然別のことだ。
僕自身、何年も「話す」ことを試みてきたけど、ほとんど的外れだった。友人に話しても、話せていたけど整理はできていなかった。
つらい話をしたのに、余計しんどくなったことがある人——あの経験は、あなたが弱かったからじゃない。聞いてくれた人も悪意はなかった。ただ、「話す場所」の質が違っていた。
正直に言うと、僕はカウンセラーの資格を持っているけど、全員がうまくいったわけじゃない。途中でやめた人もいる。深刻な精神疾患には対応できないし、医療機関が必要なケースの場合もある。
ただ、「退職するかどうか迷っている」「休職中で先が見えない」「メンタルが崩れてキャリアが見えなくなった」——この辺の話なら、整理の手伝いくらいはできる。
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ただ一つだけ言っておく。
一人で抱えている時間は、思っているより長くなる。僕は5年近く、方向が違ったまま頑張っていた。早く気づいていれば、と今は思う。
おわりに
「役に立たないサポート」は、意地悪から来るのではない。
聞く側が、相手のしんどさに直面する方法を知らなかった——それだけのことが多い。
だから、あのとき余計しんどくなったのは、あなたのせいでも、相手のせいでもない。
ただ、話せる場所の「質」は、確かに違う。
この記事を読んで何か引っかかるものがあったなら、それはたぶん、本当のことだからだと思う。
🙋 このブログを書いている人についてだいき|産業カウンセラー・キャリアコンサルタント会社員時代、職場の人間関係でメンタルが限界に。「このままではまずい」と一念発起し、コミュニケーションを学び直した経験が、産業カウンセラー・キャリアコンサルタントの資格取得につながりました。恋愛・婚活でも7年間で88人とデートを重ねながら、うまくいかない時期が長く続きました。その苦しさを知っているからこそ、脳科学・進化心理学・愛着理論といった知識を「自分ごと」として学び続けてきました。キャリアブレイクコミュニティでは160回以上のワークショップを主催。さまざまな悩みや状況を持つ方と向き合い続けてきた経験が、相談の土台になっています。「記事を読んで、もう少し深く話してみたい」と感じたら、ぜひココナラのサービスをのぞいてみてください。