「今あるもの」を組み合わせたら、何かが見えてくる

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何も持っていない自分


カウンセリングルームに入ってきたクライエントは、少し疲れた表情だった。椅子に座ると、小さく息を吐いた。

「すみません、なんだか最近ずっとモヤモヤしていて...」

ダイキ「大丈夫ですよ。今日はゆっくりお話しましょう。どんなことでモヤモヤしているんですか?」

クライエントは少し考えてから、ゆっくりと話し始めた。

「転職活動をしているんですけど、全然うまくいかなくて。書類は通るんですけど、面接で落ちちゃうんです。3社くらい受けて、全部ダメで...」

ダイキ「それは辛いですね。面接ではどんなことを聞かれるんですか?」

「やっぱり、『あなたの強みは何ですか』とか『これまでのキャリアで何を学びましたか』とか...そういうのです」

クライエントは視線を落とした。

「でも、私、何も答えられないんです。転職を3回もして、派遣で働いて...何も積み上げてこなかったなって」

市場価値という呪縛


ダイキ「何も積み上げてこなかった、ですか」

「はい。周りの友達は、専門職についてたり、マネジメント経験があったり...私と同じ年なのに、すごくキラキラして見えるんです」

クライエントの声は少しずつ小さくなっていった。

「この前、転職エージェントの人に『あなたの市場価値は正直言って高くない』って言われて...ああ、やっぱりって思いました」

ダイキ「市場価値が高くない、と言われたんですね。それを聞いてどう感じましたか?」

「ショックでした。でも、やっぱりなって。私、何もできないですから」

少し間があった。クライエントは手元のハンカチをぎゅっと握りしめていた。

ダイキ「『何もできない』...本当にそうでしょうか?」

「え...?」

ダイキ「市場価値って、誰が決めるんでしょうね」

クライエントは少し戸惑ったような表情を見せた。

外側の基準に縛られて


ダイキ「市場価値っていう言葉、よく聞きますよね。でも、それって誰かが決めた基準じゃないですか?」

「まあ...そうかもしれません」

ダイキ「転職エージェントの人は、企業が求めるスキルや経験と照らし合わせて、あなたを評価したんだと思います。それは一つの見方ではありますよね」

「はい...」

ダイキ「でも、それはあくまで『今の求人市場』での話です。もしかしたら、別の基準で見たら、全然違う評価になるかもしれません」

クライエントは少し顔を上げた。

「別の基準...ですか?」

ダイキ「例えば、あなたがこれまでやってきたこと、今できること、知っている人たち...そういうものを、一度棚卸ししてみませんか?」

手元にあるものを見つめる


ダイキ「まず、あなたがこれまでやってきた仕事って、どんなものですか?」

クライエントは少し考えた。

「最初は、営業事務でした。小さな会社で、電話応対とか、見積書作ったり...」

ダイキ「営業事務。じゃあ、ExcelとかWordは使えますか?」

「はい、一通りは...」

ダイキ「電話応対もできる。書類も作れる。それって、立派なスキルですよね」

「でも、それって普通じゃないですか...」

ダイキ「普通かもしれません。でも、できることには変わりないですよね」

クライエントは少し黙った。

ダイキ「次はどんな仕事をしたんですか?」

「その後、カスタマーサポートに転職しました。お客さんからの問い合わせに答える仕事です」

ダイキ「それは大変そうですね。クレーム対応とかもありましたか?」

「はい...結構ありました。最初は泣きそうになることもあったんですけど、だんだん慣れてきて...」

ダイキ「慣れてきた、ということは、対応の仕方を学んだってことですよね?」

クライエントは少し考えて、小さく頷いた。

「まあ、そうですね...怒っているお客さんにも、落ち着いて話を聞くとか、そういうのは学びました」

ダイキ「それ、すごく大事なスキルですよ。人の話を聞く力、感情をコントロールする力」

「でも...そんな大したことじゃ...」

クライエントの声はまだ自信がなさそうだった。

知っている人たち


ダイキ「じゃあ、もう一つ聞いてもいいですか。あなたが困ったとき、相談できる人っていますか?」

「相談...ですか?」

ダイキ「例えば、仕事のことでも、プライベートのことでも。話を聞いてくれる人」

クライエントは少し考えた。

「前の職場の先輩が一人...今でもたまに連絡取り合っています」

ダイキ「それはいいですね。その先輩とは、どんな関係なんですか?」

「優しい人で...私が落ち込んでいると、励ましてくれたり、アドバイスくれたり...」

ダイキ「その人は、あなたのことを信頼してくれているんでしょうね」

「信頼...かな。どうなんでしょう」

ダイキ「少なくとも、関係が続いているってことは、何かしらの価値をお互いに感じているってことですよね」

クライエントは少し表情が柔らかくなった。

「そうかもしれません...」

何かを失う恐怖


ダイキ「ところで、今転職活動をしているとのことですが、どんな仕事を探しているんですか?」

クライエントは少し考えた。

「正直、よくわからなくて...とりあえず、正社員になれればいいかなって」

ダイキ「正社員になりたい理由は何ですか?」

「やっぱり、安定ですかね。派遣だといつ契約が切れるかわからないし...」

ダイキ「安定を求めているんですね。それは大事なことです」

少し間があった。

ダイキ「でも、もし転職がうまくいかなかったら、どうなると思いますか?」

クライエントは少し戸惑った表情を見せた。

「どうなるって...どういうことですか?」

ダイキ「例えば、転職活動を半年続けて、どこにも決まらなかったとします。その時、あなたは何を失いますか?」

クライエントは少し考えた。

「失うもの...時間とか、お金とか...」

ダイキ「具体的にどのくらいですか?」

「時間は...半年ですよね。お金は、派遣で働きながらなら、そんなに減らないかもしれません...」

ダイキ「じゃあ、最悪の場合を考えてみましょう。半年後、どこにも決まらなかった。その時、あなたの生活はどうなっていますか?」

クライエントは少し不安そうな表情になった。

「派遣の仕事は続いているので...生活はできます。でも、気持ち的には...落ち込むと思います」

ダイキ「落ち込むけど、生活はできる」

「はい...」

ダイキ「じゃあ、本当に失うものって、そんなに大きくないかもしれませんね」

クライエントは少しハッとした表情を見せた。

小さく始める勇気


ダイキ「市場価値って、よく使われる言葉ですけど、ちょっと呪いみたいなものかもしれませんね」

「呪い...ですか?」

ダイキ「そう。『こうあるべき』『これができないとダメ』って、外側の基準に縛られて、自分で自分を縛ってしまう」

クライエントは黙って聞いていた。

ダイキ「でも、本当に大事なのは、今あなたが持っているものを使って、何ができるかってことじゃないですか?」

「今、持っているもの...」

ダイキ「そうです。事務のスキル、電話応対の経験、人の話を聞く力、信頼できる人とのつながり...それって、全部あなたの『手段』ですよね」

クライエントは少し考えた。

「でも、それで何ができるんですか...?」

ダイキ「それは、あなた次第です。例えば、その先輩に相談してみるとか、派遣の仕事を続けながら、小さく何かを試してみるとか」

「小さく...ですか?」

ダイキ「そう。いきなり大きなことをする必要はないんです。今できることから始めてみる」

クライエントは少し表情が明るくなった。

「確かに...いきなり正社員になろうとか、大きな会社に入ろうとか、そういうことばかり考えていました」

ダイキ「それも悪くないですけど、まずは今あるものを使って、小さく動いてみることから始めてもいいかもしれませんね」

失敗してもいい範囲で


ダイキ「もう一つ聞いてもいいですか。あなたが転職活動で一番怖いことって何ですか?」

クライエントは少し考えた。

「失敗することです。また落ちて、自信をなくすのが怖いです」

ダイキ「失敗が怖い。それは自然な感情ですよね」

少し間があった。

ダイキ「でも、さっき話したように、失敗しても失うものってそんなに大きくないですよね?」

「そうですね...生活はできるし...」

ダイキ「じゃあ、『このくらいなら失敗してもいい』って思える範囲で、動いてみるのはどうですか?」

「失敗してもいい範囲...?」

ダイキ「例えば、『3社受けてダメだったら一旦休む』とか、『派遣の仕事を続けながら、月に1社だけ応募してみる』とか」

クライエントは少し考えた。

「それなら...できるかもしれません」

ダイキ「大事なのは、『どうなるか』を予測することじゃなくて、『これならコントロールできる』って思える範囲で動くことです」

クライエントは少しずつ表情が明るくなっていった。

「なんだか、ちょっと気持ちが楽になった気がします」

組み合わせて作る未来


ダイキ「あなたが持っているもの、できることを組み合わせたら、どんなことができそうですか?」

クライエントは少し考えた。

「組み合わせる...電話応対と、人の話を聞く力と...」

「もしかしたら、カスタマーサポートとか、相談窓口みたいな仕事なら、私にもできるかもしれません」

ダイキ「いいですね。それって、あなたが今持っているスキルを活かせる仕事ですよね」

「はい...そういえば、前の先輩が、『あなた、人の話を聞くの上手いよね』って言ってくれたことがありました」

ダイキ「それ、すごく大事な言葉ですね。他人から見たあなたの強みって、自分では気づきにくいものです」

クライエントは少し照れたように笑った。

「市場価値とか、そういうのばかり気にしていて...自分が今できることを見ていなかったかもしれません」

ダイキ「気づけて良かったですね」

一歩ずつ


カウンセリングの終わりが近づいてきた。

ダイキ「今日話してみて、どうでしたか?」

クライエントは少し考えてから答えた。

「最初は、『何もできない自分』のことばかり考えていたんですけど...今できることって、意外とあるんだなって思いました」

ダイキ「そうですね。市場価値っていう外側の基準じゃなくて、あなたが今持っているものを見つめてみたら、違う景色が見えてきましたね」

「はい。なんだか、ちょっと前向きになれた気がします」

ダイキ「これからどうしていきたいですか?」

クライエントは少し考えた。

「まずは、今の派遣の仕事を大事にしながら、焦らずに転職活動を続けてみようと思います。それと、先輩に連絡して、ちょっと相談してみようかな」

ダイキ「いいですね。小さく、でも確実に一歩ずつ」

「はい。ありがとうございました」

クライエントは笑顔で部屋を後にした。

市場価値という言葉に縛られて、自分を見失ってしまうことは誰にでもある。でも、本当に大切なのは、今ある手段を使って、どう動いていくかだ。

失敗を恐れるのではなく、「これなら失敗してもいい」と思える範囲で動いてみる。そうやって、少しずつ、自分の未来を作っていく。

それが、エフェクチュエーション──今あるものから始める生き方だ。



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