計画通りにいかない不安
カウンセリングルームに入ってきたタケシは、少し疲れた表情をしていた。
タケシ「最近、何をやってもうまくいかなくて...。前の会社を辞めてから半年経つんですけど、転職活動もあまり進んでないんです」
ダイキ「半年ですか。今はどんな気持ちでいますか?」
タケシ「正直、焦ってます。周りの友達はみんな順調に仕事してるし、自分だけ取り残されてる感じがして」
少し間があいた。タケシは視線を落としながら、ゆっくりと続けた。
タケシ「前の会社では、計画を立ててその通りに進めることが評価されてたんです。でも、今は...何も計画通りにいかなくて。自分が何をしたいのかもよくわからなくなってきました」
ダイキ「計画通りにいかないことが、つらいんですね」
タケシ「はい。いつも『次はこうしよう』って決めるんですけど、結局行動できなくて。で、自分を責めちゃうんです」
「偶然」を否定してきた
ダイキ「タケシさんは、物事を計画的に進めることが得意だったんですね」
タケシ「そうだと思ってました。学生の時から、目標を立ててコツコツやるタイプで。でも...」
タケシはそこで言葉を切った。
ダイキ「でも?」
タケシ「でも、人生って計画通りにいかないじゃないですか。むしろ、予想外のことばっかり起きて。そういうのって、ただの『運』ですよね」
その言葉には、どこか諦めたような響きがあった。
ダイキ「『運』だと思うと、どんな気持ちになりますか?」
タケシ「...無力、ですかね。自分がどれだけ頑張っても、結局運次第なら、何をやっても意味がないような気がして」
タケシは少し苦笑いを浮かべた。
小さな出来事から始まった気づき
ダイキ「タケシさん、これまでの人生で、予想外の出来事がきっかけで良いことが起きた経験はありますか?」
タケシは少し考え込んだ。
タケシ「うーん...そう言われると、ありますね。前の会社に入ったのも、実は第一志望じゃなかったんです」
ダイキ「そうなんですね」
タケシ「はい。でも、たまたま配属された部署の先輩がすごく良い人で、いろいろ教えてもらって。その経験が今でも役立ってます」
話しながら、タケシの表情が少し和らいだ。
ダイキ「それは、計画には入ってなかったことですか?」
タケシ「全然。むしろ、『こんなはずじゃなかった』って最初は思ってました。でも、今考えると...あの経験があって良かったなって」
ダイキ「予想外だったけど、結果的には意味があったんですね」
「計画的偶発性」という考え方
ダイキ「タケシさん、『計画的偶発性』という言葉を聞いたことはありますか?」
タケシ「いえ、初めて聞きます」
ダイキ「これは、キャリアに関する研究から生まれた考え方なんです。実は、人のキャリアの8割は予想外の出来事によって決まっているという研究結果があるんです」
タケシの目が少し大きくなった。
タケシ「8割も?」
ダイキ「はい。でも、その『予想外』は、ただ運を待つだけじゃないんです。自分から行動することで、偶然を引き寄せることができる、という考え方なんです」
タケシ「自分から...偶然を?」
ダイキ「そうです。例えば、新しい場所に行ってみる、興味のあることに手を出してみる、人と会う機会を作る。そういう小さな行動が、予想外の良い出来事につながることが多いんです」
完璧主義が行動を止めていた
タケシは少し考え込んでから、口を開いた。
タケシ「でも...何をしたらいいかわからないんです。計画もないのに、行動するって、なんだか怖くて」
ダイキ「怖い、というのは?」
タケシ「失敗したらどうしようって。無駄なことをして、時間を浪費したらって」
その言葉には、切実さがにじんでいた。
ダイキ「タケシさんは、『無駄』になることが怖いんですね」
タケシ「...はい。だから、確実に成功する計画を立ててから動きたいんです。でも、そんな計画は立てられなくて」
ダイキ「確実に成功する計画がないと、動けないんですね」
タケシは黙って頷いた。
ダイキ「...もしかして、『完璧じゃないとダメ』って思っていませんか?」
その言葉に、タケシはハッとした表情を見せた。
タケシ「......そうかもしれません」
行動を起こすための5つの要素
ダイキ「実は、偶然を味方にするために大切な要素があるんです。それは、完璧な計画ではなくて、5つの心の持ち方なんです」
タケシ「5つの心の持ち方?」
ダイキ「はい。好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心です」
タケシはメモを取り始めた。
ダイキ「好奇心は、新しいことに興味を持つこと。持続性は、すぐに結果が出なくても続けること。柔軟性は、予定が変わっても対応できること。楽観性は、うまくいくと信じること。冒険心は、リスクを恐れずチャレンジすることです」
タケシ「...全部、自分にないものばかりです」
ダイキ「そうでしょうか? タケシさん、さっき前の会社の話をしてくれましたよね。第一志望じゃなかったけど、新しい環境に飛び込んで、そこで学んだ。それって、すごく柔軟で、冒険心があったんじゃないですか?」
タケシは少し驚いた顔をした。
タケシ「...そう言われれば、確かに」
完璧を目指さない勇気
ダイキ「タケシさんは、完璧な計画を立てようとして、動けなくなっているように見えます。でも、計画的偶発性の考え方は、『完璧じゃなくていい』って教えてくれるんです」
タケシ「完璧じゃなくても、いいんですか?」
ダイキ「はい。むしろ、完璧を目指しすぎると、チャンスを逃してしまうこともあります。大切なのは、小さくてもいいから、まず一歩踏み出すことなんです」
タケシはじっと考え込んでいた。
ダイキ「例えば、今週1つだけ、『ちょっと気になること』をやってみる。それだけでも十分なんです」
タケシ「...1つだけでいいんですか?」
ダイキ「はい。10個も20個もやる必要はありません。1つでいいんです」
タケシの肩の力が、少しだけ抜けたように見えた。
小さな一歩を踏み出してみる
タケシ「実は...ずっと気になってることがあるんです」
ダイキ「どんなことですか?」
タケシ「地域の異業種交流会があって。行ってみようかなって思ってたんですけど、『何の目的で行くんだ』って自分に問いただしちゃって」
ダイキ「目的がないと、行っちゃいけないと思っていたんですね」
タケシ「はい。でも...今の話を聞いて思ったんですけど、目的がなくても、行ってみてもいいのかなって」
ダイキ「いいと思いますよ。むしろ、『何が起きるかわからない』から行ってみる、というのが、計画的偶発性の考え方に近いです」
タケシは少し笑顔を見せた。
タケシ「なんか...気が楽になりました」
対話の最後に
カウンセリングの終わりに、タケシはこう言った。
タケシ「ダイキさん、今日来て良かったです。これまで、『計画通りにいかない自分はダメだ』って思ってたんですけど、そうじゃないかもしれないって思えました」
ダイキ「タケシさん自身が、気づいたんですね」
タケシ「はい。完璧じゃなくていい。小さくてもいいから、まず一歩。それを忘れないようにします」
ダイキ「その一歩が、どんな偶然を連れてくるか、楽しみにしていてくださいね」
タケシは頷いて、少し軽やかな足取りで部屋を出ていった。