「サード・プレイス」としての図書館

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コラム
今日は、読み終えたばかりの小説、相沢沙呼さんの
「教室に並んだ背表紙」から感じた事を私の経験と合わせて
書いてみようと思います。

本業である学校司書の仕事をはじめて今年で9年目となりました。
学校図書館には、読書センター(読書活動の拠点)、
学習センター(授業に役立つ資料提供と学習支援)、
情報センター(情報活用能力の育成)として、大きく3つの役割があります。

そして、もう1つ、「心の居場所」としての役割も担っています。

学校の中で、落ち着く場所、ほっとできる場所、
だれでも来館しやすい図書室であるよう、日々、心がけています。

学校図書室で働くようになって感じたこと。

それは図書室には読書や本を借りに来るだけでなく、それと同じくらい、
もしくはそれ以上に「話」をしに来る生徒が多いということです。
他愛のない世間話から友だちや恋の悩み、先生の愚痴など…。
そして1番多かったのが「家庭」の悩みです。

人はだれでも「居場所」が必要です。家庭に居場所のない生徒は
家の外、多くは学校に居場所をつくります。それは友人だったり、
恋人だったり、先生だったり、時に危険な場所だったり…。

その中で図書室を「居場所」にしている生徒がとても多かったということ。
いつも忙しくたくさんの生徒に囲まれている先生に比べ、
図書室でいつも1人暇そうにしている(笑)司書は生徒にとって、
恰好の話し相手なのでしょうね。

すべての事例をお話するのは難しいので、今回はその中でも印象に
残っている生徒の話を例に挙げてお話したいと思います。

これは前任校(中学校)での出来事です。
そうですね、中学3年生の女子Aさんとしましょう。
Aさんは運動部に所属する、大柄で姉御タイプ、
物おじしない性格といいますか、はっきりものを言うタイプの女子でした。

たまたま、Aさんを含む女子数人と話をしていたときのこと、
「この前、カルボナーラ作ったんだ!今日はハンバーグを作る予定!」
とAさん。
「すごいね、料理するの?」「うん!先生、何かおすすめある?」なんて
会話をしたのをきっかけに、Aさんと話すようになりました。

その後も、「昨日は○○作ったよ!」「○○が簡単で美味しいよ!」
「○○のスーパーが安いよ!」なんて、会うと主婦の井戸端会議のような
会話をしていました。
Aさんの家庭は母子家庭で、下にまだ小さい保育園の妹と弟がいました。
その子たちの世話もよく手伝っているとのこと。それだけ聞くと、
シングルマザーで働くお母さんを助けてなんて立派な…と思うのですが、
それは上辺の話で、(Aさんが立派なのは事実ですが)
実際はとても過酷な家庭環境だったのです。

ある日、遅刻してきたAさん。
授業の途中で教室に入りづらいと図書室にやってきたのですが、
明らかに表情が暗く、元気がない。「大丈夫?」「疲れてる?」と
声をかけると、そのとたん、しゃがみ込んで、顔を覆い、
押し殺すような声で「もう無理……」と泣きはじめたのです。

突然のことに私も驚き、しばらくは背中をさすることしかできませんでした。
そして、落ち着くのを待って話を聞きました。
すると、家のこと、妹と弟の世話、全て、Aさんがやっていて、
勉強する時間もなく、子守のため、友だちの誘いも断っている、
もう疲れた、もういやだ、というのです。
お母さんは仕事で帰りが遅い日が多いとのこと。
(後々、彼氏と会っているということが分かったのですがAさんは
仕事だと信じていました。もちろん、Aさんには伝えていません。)

私は聞いた話を担任の先生とSSW(スクールソーシャルワーカー)の先生に
相談しました。すると、妹弟の通う保育園からも相談があり、
ネグレクト(育児放棄)を疑われているとのことでした。
そして、その負担がすべてAさんにのしかかっていたのです。

それからは、Aさんも家庭のことを話してくれるようになったのですが、
Aさんがお母さんのことを悪く言うことは一度もありませんでした。
ただ、今の環境がつらい、でもお母さんは仕事だから仕方ないと…。

遅刻や無断欠席が増え、保護者とも連絡が取れず、担任の先生が
家庭訪問されても会えず(居留守を使っていたようです)、
やっとのことで面談の約束を取り付けてもドタキャンの繰り返しでした。
Aさんは学校に来ると必ず図書室に立ち寄るようになりました。
私は話を聞き、担任の先生やSSWの先生に情報を共有することしか
できませんでした。
そんな時、SSWの先生に「何もしてあげられなくてもどかしいです…」
と話したら、「話をきいてあげる、それだけでじゅうぶんです。
今、Aさんの心の拠り所は先生だけです。」と言ってくださったのです。

Aさんに限らず、多くの生徒が家庭や人間関係の悩みを抱え、
それを話してくれました。
もちろん、聞いていて楽しい話ばかりではありませんし、
耳をふさぎたくなるような話もたくさんありました。
また、聞いたところで何もしてあげられないし、的確なアドバイスも
してあげられない、それでも相手の気持ちに寄り添い話を聞くことを
心がけました。
話を聞くことで、少しでも心が軽くなれば、その子の心の拠り所、
居場所になれたら…と。

卒業式の日に「図書室が1番好きな場所でした」と手紙をくれた生徒が
いました。離任する時に泣いて別れを惜しんでくれた生徒、
わざわざ会いに来てくれた卒業生もいました。
少しでも生徒の力になりたいと思っていましたが、
逆に私の方がたくさんのパワーをもらっていたことに気づかされました。

何が言いたいかというと、人はだれでも「心の居場所」が必要で、
学校という閉鎖された空間の中で、図書室はその「居場所」として、
とても大切な場所だということです。
家にも学校にも居場所がない子どもたちがたくさんいます。
そんな子どもの「心の居場所」になれる図書室でありたいと、
この本を読んで改めて強く思いました。

ということで、今日は、家や学校、職場とは隔離された
第3の居場所「サード・プレイス」としての図書館について書いてみました。

皆さんも疲れた時は図書館に足を運んでみてはいかがでしょう?
本に囲まれた静かな空間はきっと心を癒してくれるはずです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
                        ~Snow Drop~ 華

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