【使い捨てマスクの再利用】Ⅱ. 使い捨てマスクの洗い方

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コラム

1. はじめに

 前稿「使い捨てマスクは洗って再利用できます!」がSNSで紹介いただいたこと、そしてそれによって多数の方に読んでいただいたことに感謝申し上げます。洗い方について具体的な説明をしていなかったのでここで紹介させていただきます。また、洗った後のアイロンがけについてのご意見やご質問も複数いただいていますので、これについても触れたいと思います。

2. 長く使うための洗い方

 家庭用の使い捨てマスクをなるべく傷まないように洗うには、洗濯機より手洗いが適しています。
 まず、手を洗うのに使う液体石鹸や中性洗剤、または固形石鹸を水に溶かしたものをマスクの全面からしみ込ませてください。3層になっていることが多いので、中までしみ込ませるようにしてください。次にマスク全体を握るようにしてしみ込んだものを外に出します。これは、洗剤をしみ込ませてスポンジを洗う要領です。
 揉み洗いをする必要はありません。使い捨てマスクの場合は、布マスクに使われている天然繊維とは異なり、繊維上にウイルスが付着していても特にこすらずに水の移動による水流だけで除去できるはずです。
 強く揉んだり表面をこすったりすると、不織布を構成している繊維が切れたり、繊維同士が交差・融着している部分が外れたりするおそれがあります。そうなると、表面が毛羽立って使いづらくなります。洗濯機で他の洗濯物と一緒に洗うのも同様の懸念があります。ネットに入れれば洗濯機を使ってもよいかもしれませんが、それよりも手で握ってポンピングをする方が中のものを追い出す効果があるように思います。
 マスクを握ってしみ込んだものを出す作業は流れる水の中で行ない、出てきたものを除去します。その次にまた石鹸水などをしみ込ませ、同じことを数回繰り返します。最後に水洗いをして、タオルなどにはさんで水を吸い取りましょう。強くねじると不織布の繊維がバラバラになって毛羽立ちます。洗濯機の脱水機能を使うのもよいでしょう。

3. 正しい乾燥方法

 洗った後は吊るして乾かします。使い捨てマスクに使われている不織布は吸水性のない繊維でできていますから、速乾性があります。
 さらに速く乾かそうとしてドライヤーの熱風を当てたりアイロンがけをしたりするのは失敗の元です。アイロンは効果的な場合もありますが、ドライヤーと同様に繊維を融かしてしまう恐れがあります。詳しくは後述します。
 もうひとつ、熱を使うことの問題点には「加水分解」が関係します。これは、樹脂材料が水と反応して劣化する現象で、合成繊維として使われる樹脂材料には加水分解しやすいものが多くあります。使い捨てマスクに使われることの多い繊維で加水分解しやすいものにはナイロン(ポリアミド)、PET(ポリエステル)、ポリウレタンがあります。また、ポリプロピレンとポリエチレンは使い捨てマスクのフィルター部によく使われますが、これらは加水分解しにくい繊維です。
 加水分解しやすい繊維は、室温程度で水に触れるのはほとんど問題ありませんが、濡れた状態で高温にすると急激に加水分解します。たとえば、マスクの耳ひも部にはポリウレタンが使われていることが多くあり、これを高温で速く乾燥させようとすると劣化して切れやすくなります。1回くらいなら問題ないかもしれませんが、どこまで耐えられるかは分かりません。
 ところで、水洗いできる運動靴は陰干しすることが推奨されていますが、これもポリウレタンが加水分解するのを防ぐためです。また、歯科治療に使われるアクリル系レジンに半永久的な耐久性がないのも、常に濡れた状態であり、高温というほどではないものの体温に保たれていることによる加水分解に起因します。余談ですが、菌が存在すると口の中が酸性となって加水分解を速めるので、レジンを守るためにも歯磨きは必要なのです。

4. アイロン使用の可否

 結論から言うと、使い捨てマスクのフィルター部にポリエチレンなどの耐熱性が低い繊維が使われていないなら、多くの場合その部分に手早くアイロンがけをして表面の毛羽立ちを平滑にしたりプリーツの形を整えたりすることができます。その場合には高い殺菌の効果も得られるといえます。
 一方、ポリエチレンなどが使われている場合は、アイロンの温度に耐えられず不織布がつぶれてしまう可能性があります。
 フィルター部に使われている不織布はポリエチレンとポリプロピレンのものが圧倒的に多いのですが、このうち、ポリプロピレン繊維は衣類にも使われることがあります。ポリプロピレンは衣料用繊維の中で最も耐熱温度が低い部類に入るので、多くのアイロンは一番低い設定温度がポリプロピレンに適するように作られています。
 一方、ポリエチレンは耐熱温度がポリプロピレンより20℃前後低く、一般のアイロンでは設定温度を最低にしたとしても、ポリエチレンの不織布をつぶして目詰まりさせてしまいます。そのため、ポリエチレンのようなポリプロピレンより耐熱温度が低い素材が使われていないことが明らかでない限り、使い捨てマスクにアイロンがけをすることは避けるべきです。
 また、ポリエチレンにはアイロンのように荷重をかけない場合でも100℃ほどで液状になるものがあります。調理器具を使って使い捨てマスクを110℃で殺菌して再利用する方法があり、ポリプロピレンならこの温度に耐えられるのですが、マスクにポリエチレンが使われている場合、この方法には無理があります。
 なお、フィルター部の材料として「ポリオレフィン」と表示されていることがありますが、ポリエチレンとポリプロピレンはどちらもポリオレフィンの一種ですので、この表示の場合はポリエチレンが使用されていないかを簡単には知ることができません。
 使い捨てマスクにアイロンがけをする目的の多くは、毛羽立った表面を復活させることのようですが、前述のとおり洗い方に注意すればこのような毛羽立ちは防止できると思われ、アイロンがけの必要性は低くなるのではないでしょうか。

5. おわりに

 以上、家庭用使い捨てマスクを再利用のために洗う場合の注意点を紹介しました。前稿でも述べた通り、使い捨てマスクは使い捨てるのが本来の使い方です。洗って再利用することは、新規の入手が困難である現状において、手持ちのマスクを使い果たすのを防ぐこと、および医療用マスクの生産を圧迫するのを防ぐことを目的とするものとご理解のうえ、適用は自己責任のもとでお願いします。

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