【使い捨てマスクの再利用】Ⅲ. 参考情報

記事
コラム

1. はじめに

 世の中には善意の誤情報や偽科学に基づく情報があふれています。それだけでなく、情報を伝える過程において、本来はまずその情報が正しいことが大前提として確認されるべきであるのに、人は、情報の正しさと話題性とを総合的に見て伝えるべきかを判断してしまう傾向があるようです。
 残念なことに、発言したことに重い責任があることで高い信頼を得ている報道機関や政府からでさえも、時として誤情報が流れることがあります。これらの多くは、情報源である専門家から正確に情報が伝えられなかったことにも問題があると考えられ、この使い捨てマスクの再利用に関しては、少なからず生命に関わるものであるだけに一層の慎重さが求められます。
 そのことからも、筆者はマスクに関する一連の記事を執筆するにあたり、材料技術者として自信をもって伝えられることだけに限定して書いてきました。しかしながら筆者はマスクや不織布自体の専門家ではないという点、また実験データによる裏付けも示していないという点で、客観的に見て信ぴょう性がやや劣ると言えます。
 そこで本稿では、これらの2点を補う情報を紹介しますので参考にされてください。

2. 不織布について

 4月19日、ネット上のニュースに不織布の専門家の見解として使い捨てマスクを洗って使えるという記事が掲載されました。
 この専門家は「奥恭行」さんという方です。ネット上のニュースがいつまで掲載されているのか不明ですが、この方の名前で検索すると、ニュースだけでなく関連の情報も見つかると思います。
 内容はここで紹介してきたものとほぼ同じで、筆者も自分の見解が裏付けされたという安心感と自信を得ることができました。
 少し違うのは、筆者はアイロンの使用が効果的な場合もあるとしているのに対して、この専門家はアイロンは使えないとしている点であり、これは、ポリプロピレンの耐熱性に対する見方の違いによるものと考えられます。ポリプロピレンの種類やアイロンの温度の機種による違いなどを考慮すると、ポリエチレンのような耐熱性が低い素材が使われていなくてもアイロンが使えない場合があると考えたのでしょう。これはプロフェッショナルな見解だと言えます。

3. 加熱温度について

 これに関連して、前稿で少し言及した、調理器具を使って使い捨てマスクを110℃で殺菌し再利用する方法についてもう一度考えてみましょう。この方法は台湾の衛生福利部(保健省)が検証を経て問題ないと結論したとして使い捨てマスクの節約のために呼びかけているものですが、SNS上では日本の炊飯器も使えるなど拡大解釈した情報が流れています。前稿で述べた通りこの方法はマスクにポリエチレンが使われている場合には適用できませんし、アイロンと同様、機種によって実際の温度に違いがありポリプロピレンの不織布にさえダメージを与える可能性があります。
 また、温度設定ができるとしても実際には常にその温度になるわけではありませんし、置き場所によって温度は違います。このことを実験によって具体的に確認した結果を、熱分析機器の専門メーカー「ネッチ・ジャパン」がそのホームページで「マスクを電鍋で洗浄してみた!その③ 電鍋の温度を調べてみた」と称して紹介しています。
 実験の方法は簡単なものですが、非常に興味深い結果が示されています。たとえば、説明書に記載されている目安の温度が100~130℃という設定でも、実測の結果150℃以上になることがあると分かりました。

4. おわりに

 実際のところ、筆者の家にあるアイロンを「低:ポリプロピレン・アクリル」の温度設定にしてポリプロピレンの不織布マスクに使用しましたが、問題はありませんでした。
 ただし、同じポリプロピレンでも不織布の場合は衣類で使われるポリプロピレンの織布と比較すると実際の耐熱温度が低いと思われます。これは、衣類の場合、ポリプロピレンは他の繊維と混紡するなどにより結果的に耐熱性も補強されていると考えられるからです。
 このことから、アイロンのポリプロピレン向けの温度設定は、ポリプロピレン製不織布に対しては耐熱性ぎりぎりであると思われ、今回紹介した情報を踏まえて考えると、アイロンの機種やアイロンがけするタイミング、ポリプロピレンの種類などによってはダメージを与えることもあると言えます。
 いずれにせよ、これまでお伝えしてきたとおり、コロナウイルスは各種のウイルスの中でも洗剤で無力化できる種類であること、不織布の素材は吸湿性のない繊維であることから、正しい方法で洗えば毛羽立ちもなく十分に再利用に耐えられるのであり、アイロンがけの必要はないと思われます。

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す