【使い捨てマスクの再利用】Ⅰ. 使い捨てマスクは洗って再利用できます!

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コラム

1. はじめに

 少なくとも日本国内の4月12日の現状を見る限り、SARS-CoV-2の感染拡大が深刻なのは、医療施設や介護施設などの濃厚接触が避けられない場所のようです。マスクなどの資材が不足する中で職員が感染の恐怖に怯えながらも業務に従事し、そして実際に院内感染などが発生しています。学校や商業施設は休業することができますが、これらの施設の機能は維持しなければならず、院内感染などが止まらないのが実状です。そして、そのために病院などの機能が低下してさえいるのです。
 一方、WHOは「健康な人が一般向けのマスクをつけても感染を予防できる根拠はない」としたうえで、医療用マスクを医療従事者に行き渡らせるために、一般の人が医療用マスクを使うのを控えるよう呼びかけています。

2. 本稿の目的

 家庭用の使い捨てマスクは医療用ほどの高機能ではありません。しかし、自分が感染していると認識せずに他の人にうつさないために、また近くに感染している人がいるかも知れない場合に、そして単に周囲の人を不安にさせないためにマスクの必要性を感じることは多いと思います。
 ところが、圧倒的に多数である一般の人が使い捨てマスクを大量消費すると、医療用マスクの生産を圧迫することになり、院内感染などの対策を遅らせてしまいます。それに、電機メーカーや自動車メーカーまでもが参入してマスクを増産しているのは主に医療支援のためであるので、当分は一般の人がマスクを手に入れられない状態が続くと思われます。
 そこで本稿では、感染が強く危惧される医療現場などではなく、通勤や事務所などで使用する場合に、使い捨てマスクを毎日1枚使っては廃棄し、使い尽くした後は入手できずにマスクなしで過ごすという事態を防ぐため、洗って再利用することで節約するという考え方を紹介します。
 既に医療系の専門家などの意見としての、洗って再利用する場合の注意点はネット上に見られますが、材料技術者の見解は見あたりません。筆者は材料技術者の立場から、使い捨てマスクを洗うことの妥当性と布製マスクを洗う場合との比較について述べさせていただきたいと思います。

3. 感染防止の効果

 未感染者にとって、使い捨てマスク、ガーゼなどの布製マスクとも、飛沫が吸気に入るリスクを軽減するという点で、ウイルス感染経路のひとつである飛沫感染に対しての効果がある場合があります。同時に、自分が感染者であることを認識していない場合にも、呼気中の飛沫を食い止める効果が期待できます。
 目の細かい使い捨てマスクでさえその目はウイルスより大きいのですが、飛沫はウイルスを取り込んだ水滴なので、それを捕捉することができます。捕捉後に水が蒸発するとウイルスが露出しますが、ウイルスは繊維に付着するので直ちに吸気や呼気によってマスクをすり抜けるわけではありません。
 布製マスクは使い捨てマスクよりはるかに目が粗いですが、上述の使い捨てマスクとほぼ同じ状況です。布製マスクに使われている天然繊維は、使い捨てマスクに使用される多くの合成繊維と比較して、水が蒸発して露出したウイルスを付着させる力が強いので、ウイルスが離脱する心配がより少ないといえます。

4. 使い捨てマスクの特徴と再利用の方法

 使い捨てマスクが紙でできていると誤解し、洗うとボロボロになると思っている人がいるようですが、そうではありません。ほとんどの使い捨てマスクは合成繊維からなる不織布です。不織布というのは、たて糸・よこ糸で編むのではなく繊維をランダムに熱融着した布のことです。
 熱融着できる合成繊維は熱で融解し細い穴から突出させて作りますので、表面はつるつるしています。そのうえ、不織布の使い捨てマスクの多くはポリプロピレンやポリエチレンなど水をはじく素材でできていますので、飛沫を球状のまま捕捉します。
 合成繊維の表面がつるつるしているという電子顕微鏡写真は「合成繊維 SEM」というキーワードでネット検索(画像)して見付けることができます。「天然繊維 SEM」で同様に天然繊維のものが見られるので比較してください。合成繊維には断面が星形などのものがありますが、不織布に使われるのは断面が円形のものです。
 使い捨てマスクを洗うとどうなるかというと、不織布の目に引っ掛かっていた、言い換えるとつるつるの繊維に付着していたウイルスが洗い流されます。水だけでも洗えますが、洗剤を使えば効果的です。特に今回のコロナウイルスSARS-CoV-2は表面が脂質のエンベロープでおおわれており、洗剤はこれを破壊してダメージを与える可能性があります。
 ウイルスが付着していなくても、使用していると雑菌が増えるでしょうから、毎日洗うべきです。
 洗った後は絞って水を切ってください。この時、水をはじく素材であれば水滴が玉になることでわかります。繊維自体が水を吸っていないので、乾くのは速いです。
 洗うと目が粗くなるから効果が落ちるという意見もありますが、布製マスクよりはるかに細かい目であることに変わりはありません。むしろ実際にはだんだん縮むためなのか呼吸が通りにくくなる気がします。強くもみ洗いする場合、4~5回ほどで使用感が変わり始めるようです。
 最近はキッチンペーパーなどでマスクを自作することもあるようですが、これは紙なので本稿の案は該当しません。そのほかに紙製の商品もあるかもしれませんが、この品薄の現状なので残念ながら十分に確認できていません。紙ではない水をはじく素材であれば水滴をたらすと玉状になるので簡単に判別できます。

5. 布製マスクの特徴と再利用の方法

 布製マスクも使い捨てマスクと同じく飛沫を捕捉します。目が粗いので飛沫が通り抜けると思いそうですが、厚みがあるためどこかで繊維に付着し捕捉されます。捕捉の効率は使い捨てマスクほど高くありません。次に、天然繊維は水を吸収するので、すぐにウイルスが露出します。また、表面がつるつるではないので、水の吸収に伴なって多くのウイルスが繊維表面のうろこ状の形やねじれなどに引っ掛かるはずです。これらのウイルスの一部は、物理的には簡単に除去できない可能性があります。
 ウイルスの除去が難しい以上、再利用するには、洗剤を使って洗うことに加えて消毒剤などでさらにエンベロープを破壊するのが有効です。また、煮沸により不活化するのも効果的です。

6. 使い捨てマスクは本当に再利用してよいのか

 上述のように、多くの家庭用使い捨てマスクは材料の観点から洗って再利用できるといえます。ただし、使い捨てマスクの中には帯電コーティングなどの加工をしてあるものもあり、洗うことによって出荷時の製品と同じ性能ではなくなる場合もあります。
 また、使い捨てマスクは使い捨てることで衛生を保つものであり、ユーザーの洗い方が悪く問題が生じてもメーカーは責任を持てません。そもそも使い捨てることが前提の製品なので、メーカーとしては再利用するとどうなるかという見解を示す立場ではありません。
 3月の始めに、経済産業省は使い捨てマスクが再利用できることを業界団体から周知してもらおうとしましたが、実現していません。これは、このようなメーカーの立場によるものと思われます。
 しかしながら、たいていの使い捨てマスクは洗って再利用できます。メーカーは推奨しませんが、不織布製の使い捨てマスクを正しく洗う方が、布製マスクを洗うだけで消毒剤を使ったり煮沸したりしないよりも安全だと思います。

7. おわりに

 繰り返しになりますが、ここで紹介したことは、一般の人が使い捨てマスクを使い尽くしてマスクがない生活をすることを防ぐために、洗って再利用することを提案するものです。医療機関のように感染のリスクが高い場所や状況に対して推奨するものではありません。また、国外では事情が異なる可能性があるので、確認が必要です。
 一方、日本で深刻な感染が起きているのは「3密(密閉、密集、密接)」と呼ばれる状況に集中しているのであり、外出をすると常に等しく危険というものではありません。公園での散歩や住宅街を歩くという状況で無意味にマスクを使用してその寿命を縮めることは、医療現場等への資材の供給を遅らせることにつながりかねません。再利用を含め、マスクを節約することを考えましょう。
 アップル社とグーグル社は、スマートフォンのブルートゥースの機能を活用して2週間以内に感染者に近づいた可能性を知らせる技術の開発をすると発表しました。持ち前の技術をウイルス感染の防止に役立てようという姿勢に感銘を受けました。微力ですが、筆者も自分のスキルをマスクの問題の緩和に役立てたいと願い投稿するものです。

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