【小説サンプル】生まれ変わった変わり者/壱

記事
小説
 ふと、気付いた。
 私と言う存在が、いったいどういうものであったのかを。
 ふと、思い出した。
 思い出して、しまった。
「私は」
 私は――
「っ!」
 言葉を紡ぎかけた唇を、両手で覆って音を閉じ込める。
今は駄目だ。今だけは、駄目だ。だって、今は。
「――レナ? どうしたんだい?」
「!」
 お父様の声。俯けていた顔をぱっと上げれば、心配そうに私の目を覗き込む父と、その後ろで同じように見つめてくる母と、――その腕に抱かれた、生まれたばかりの弟の姿があって。
「な、なんでもないの、ごめんなさい、お父様、お母様」
 普段と同じ笑顔を作れていたかは判らない。それでも二人を誤魔化すことはできたようで、両親は「それなら良いのだけれど」と矛を引っ込めた。
 安堵して、そうと知られぬように息をつく私。伏せた視界の端、脳裏に浮かぶ景色は、この世界には存在しない街並み。私が、この世界に生を受ける前――要するに、前世の記憶と言うべき映像だった。
(どうして今思い出してしまったの……!)
 自分を責めるように、私は拳を強く握って唇を噛み締める。
(よりにもよって、あの子の誕生祭のその日に……)
 否、そもそも前世の記憶など、普通は思いし得ないものだ。人間の人生は一度きり。そうあることが当然で、故に同じ魂でも「前」を思い出す確率など限りなくゼロに近いもので、私だってその例に当てはまるはずだった。
 それなのに。
(どうして、何故)
 私の中に、今、前の生の記憶が蘇ってしまったのか。
(っ、せめて、せめてパーティーの間だけでも、平常を装わなくては)
 私は、セレーナ=ウーゴ。世界に名立たる我が祖国、アルビオンの一端を統べる、ウーゴ家の長子であり、世界を支える神官候補生。
(この肩書に恥じぬ振る舞いを)
 背筋を伸ばし、まっすぐに前を見つめ、そうして私は足を踏み出す。弟――家督を継ぐ嫡男であるあの子の誕生を祝う宴を、つつがなく終えるために。
(細かいことは後で考えなさい。今は、目の前のことだけを見ていれば良い)
 それが、それこそが、今の「私」の役割だと信じて、私は凛と歩みを進めた。


―続―
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら