【小説サンプル】同じ屋根の下【二次創作】
ぽつり。灰色の雲に覆われた上空から落ちた雫が地面を濡らす。一粒ずつ、少しずつ描かれた水玉は次第に増えていき、あっという間に地面の色が濃くなった。
「真、何しとるん。はよ行くで」
「んー……おう」
呼ばれた声に反応し、窓の外へと向けていた視線を室内に戻す。向けた目の先には、喪服に身を包んだ(認めたくはないが)実の兄。
今日は、昔世話になった夫妻の葬式に参列するべく、この屋敷に足を踏み入れたのだった。
何度も訪れ、よく遊ばせてもらった廊下を進む。小さい俺と鬼ごっこをしてくれた旦那さんの姿を思い出し、俺は立ち止まって目を伏せた。
そして、前を行く兄貴の背中に、少しの間逡巡してから声をかける。
「なぁ」
「ん?」
兄貴の足が止まる。半身で振り向いた眼鏡の奥、細い目をじっと見つめ、俺は。
「……本当に、死んだのか」
低く低く、抑えた声で呟くように問うた俺に、兄貴はやはり少しの間を置いてから「せやね」と感情の窺えない声で肯定した。
「何かの間違いとか」
「んなわけないやろ。それよりも、はようせい」
静かな言葉に、俺は腹の上の方を抑えるように手を添える。考えたくもない現実。少しだけ、心臓が痛い。
あの人たちは、本当に優しい人だった。大人たちのごたごたに巻き込まれた俺たちを、関係も義理も義務も、本当に何もないのに救ってくれた。ここ数年はお互いにタイミングが合わなくて会えていなかったけれど、まさか再会がこんなものになるだなんて、欠片も思っていなかったし思いたくもなかった。
「……なんで、なんで死んじまったんだよ……っ」
「そないなこと言うなや。あの人らかて、生きたかったに決まっ
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