読み切り超短編小説 「夢の扉」
「しっかり掴まってろよ!」ボクがそう言うとバイクの後部座席からボクの背中をヘルメットで2回頭突きしてきた。1983年5月 北海道 たった今コンサートを見終えたボクたちは彼女の家路に向かうところだった。彼女を家に送り届けると、彼女はボクにヘルメットを返しながら少し寂しそうに言った。「先生、短い間だったけどありがとう!…」3週間前ボクは帯広の高校に教育実習に来た。担当したクラスに不登校の生徒がいると聞いて家庭訪問をした。最初は拒絶されたが毎日彼女の家に通っているうちに、少しずつ話をしてくれるようになった。 彼女が一緒にコンサートに行ってほしいとボクに言ったのは教育実習が残り1週間になったとき、日にちは教育実習の最終日の夜だった。「やっぱり、ムリだよね!」彼女が言った。「一応先生と生徒だからなぁ…」ボクがそう言い終わる前に彼女は食い気味に言った。「大丈夫、カレシと一緒にコンサート行くのが夢だったんだけど…」夢…?! 教育実習の最終日、ボクたちは30分前にコンサート会場に着いた。彼女はボクをコンサートに誘っておきながらチケットは持っていないという。今人気絶頂の女性アーチストだ、当然チケットはソールドアウトしている。それでもボクたちは会場に向かった。会場の入口から、少し離れたところでボクは大声を出した。「チケット余っていませんか!」…席に座りながら彼女は言った。「やるじゃん!」「夢は諦めたらそこで終わる。」ボクは答えた。都合でコンサートが見れなくなった人から正規料金でチケットを譲り受けた。結構いい席だった。コンサートの途中で彼女は何回か涙を流した。 彼女は、ボクにヘルメットを返しながら言
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