コーチング、特にライフコーチングでは
「教えない」「導かない」「アドバイスしない」
とよく言われます。これは、教えたりアドバイスしたりすること、つまり具体的な知識やスキルを提供するティーチングや、コーチ自身の価値観・実績・経験に基づいて一定の方向に誘導するメンタリングと、コーチングとを意識的に区別する文脈でしばしば強調されます。
なぜ、そこまでして一線を引くのでしょうか。
理由の一つは、ライフコーチングが扱うテーマの広さにあります。ライフコーチングは特定の分野や課題に限定されず、人生全般——仕事、選択、人間関係、生き方、迷い——を扱います。そのため、コーチ自身がクライアントの取り組んでいる課題について、十分な実績や経験を持っていないことが少なくありません。
もちろん、コーチがその分野について知識や経験を持っている場合もあります。しかしそのようなときであっても、ライフコーチングでは、できる限り直接的で具体的なアドバイスを控え、クライアント自身がすでに持っている経験や知識、資源から答えを見いだすことを支援しようとします。
クライアントが「どうしたらいいですか?」とアドバイスを求めている場合でも同じです。コーチが「こうするといいですよ」と答えるよりも、クライアント自身が発見した答えのほうが、行動に移しやすく、結果として使い勝手が良いことが多いのです。
百歩譲って、コーチが「これは役に立つかもしれない」と思うアドバイスがある場合でも、それをそのまま差し出すのではなく、
「ひとつ提案がありますが、お話ししてもいいですか?」
と許可を求め、了解を得てから提供する。これも、クライアントの主体性を守るための大切な配慮です。
私自身、コーチングを始めた当初には特に自分が得意な分野の課題について扱っている時についうっかり「うんちく語り」に陥ってしまったことがあります。そのような時には決まってクライアントさんから厳しめのご評価をいただきました。そうなりそうな気配を感じた時には、「今、自分は役に立とうとしているのか、それとも自慢をしようとているのか」と自問するようにしています。
では、アドバイスや導きに入ってしまいそうな時に、それに代わってコーチはどうすれば良いのでしょうか。
答えはシンプルで、問いを使うのです。
アドバイスの代わりに用いられる「問い」の例
ここからは、実際のセッションやセルフコーチングでよく使われる問いを、いくつかの観点ごとに紹介します。
① 状況を整理して言語化する問い
アドバイスをしたくなるとき、クライアント自身がまだ課題や目標、その前提となる状況を十分に言語化できていないことがあります。このような時にはそれを具体的にイメージして言葉で表現することが有効です。
「どういう時に、そのように感じますか?」
「その代わりにどうありたいですか、何がしたいですか?」
「それが実現したことを私はどうやって知りますか?」
これらの問いは、もやもやを解消し、全体像を見える形にします。
② 行動の成果(アウトカム)や障害についての問い
行き詰まりの多くの原因は、「何を大切にしたいのか」が曖昧なまま判断しようとしていることにあります。
「この選択で、その両方が得られる別の選択肢は?」
「それがうまくいったとしたら、何が得られますか?」
「その行動の妨げになっているものは何ですか?」
成果や障害についての問いは、正解探しから本当はどうしたいかの選択へと視点を戻します。
③ 行動につながる問い
アドバイスをせずとも、問いが行動を生みます。
「今のあなたができる一番小さな初めの一歩は何でしょう?」
「それをやるとしたら、いつ・どこで・どのくらい?」
「それが得意な人はその状況でどのようにふるまいますか?」
行動を具体化する問いは、意志よりも現実に目を向けます。
④ セルフコーチングに使える問い
自分自身に向ける場合も同じです。視点を外に置くことは簡単ではありませんが今の自分以外の目で見た景色を想像することは可能です。
「もし親しい友人が今の自分と同じ状況だったら、私は何と言うだろう?」
「半年後の自分は、今の私に何を伝えたいだろう?」
「本当は、私はもう何を知っているだろう?」
これらの問いは、「答えは中にある」という前提を思い出させてくれます。
「教えない」というのは、突き放すことではない
「教えない」「導かない」「アドバイスしない」からといってそれは決して冷たかったり無責任だったりするわけではありません。むしろそれは、クライアントの中にある力を信頼し、その力が立ち上がるのを待つという、積極的な関わり方なのです。
コーチングとは、答えを渡すものではなく、答えが生まれる条件を整えるこものです。
問いはそのための、最もシンプルで、深みのある方法なのです。
(参考ブログ)