■ 有給だけ、締めが全員バラバラになる
勤怠も経費も、月末で締められます。締めた時点で全員ぶんが揃うので、確認するタイミングを月に一度に固定できます。
年次有給休暇だけは、そうなりません。条文がそういう作りになっているからです。
労働基準法 第三十九条第一項(原文)
「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」
同 第二項(本文・抜粋)
「使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。」
起点が「雇入れの日」なので、二十人いれば起点も二十通りになります。管理の単位が「会社の年度」ではなく「その人の起点から一年」になる、ということです。
つまり、月末にまとめて見る運用にしても、期限のほうは月末と関係なくやってきます。担当者が忘れているというより、見るタイミングと期限が噛み合っていない。有給の管理が崩れやすいのは、意識の問題より先に、この構造の問題だと考えられます。
■ 年5日の期限も、会社の期末ではありません
労働基準法 第三十九条第七項(原文・本文)
「使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が十労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち五日については、基準日(継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。」
条文が書いているのは二つです。対象は「十労働日以上」与えられた人であること。期限は「基準日から一年以内」であること。どちらも会社の期末とは無関係に決まります。
社内で「今年度中に五日」と言い換えた瞬間に、基準日が期首と違う人の期限がずれます。言い換えたこと自体が原因なので、あとから気づきにくい種類のずれです。
■ 崩れる場所は、だいたい三つに集まる
(1)基準日が散らばったままになっている
入社日ごとの基準日で運用するのか、全社で揃えて前倒しで与えるのか。前倒しで与える場合について、労働基準法施行規則 第二十四条の五は「第一基準日」「第二基準日」という言葉を置いています。
同 第二十四条の五第一項(原文)
「使用者は、法第三十九条第七項ただし書の規定により同条第一項から第三項までの規定による十労働日以上の有給休暇を与えることとしたときは、当該有給休暇の日数のうち五日については、基準日(同条第七項の基準日をいう。以下この条において同じ。)より前の日であつて、十労働日以上の有給休暇を与えることとした日(以下この条及び第二十四条の七において「第一基準日」という。)から一年以内の期間に、その時季を定めることにより与えなければならない。」
どちらの方式を採るかは自社の判断ですが、決めたこと自体を記録に残していないと、担当が代わった時点で「この人の基準日がなぜこの日なのか」を説明できなくなります。どちらを採るべきかの判断は、社会保険労務士など専門家にご確認ください。
(2)付与日数が「表」で決まることが共有されていない
週の所定労働日数が少ない人の日数は、別に定めがあります。
労働基準法施行規則 第二十四条の三第一項(原文)
「法第三十九条第三項の厚生労働省令で定める時間は、三十時間とする。」
同 第二項(原文)
「法第三十九条第三項の通常の労働者の一週間の所定労働日数として厚生労働省令で定める日数は、五・二日とする。」
同 第三項の表が、週所定労働日数(または一年間の所定労働日数)と継続勤務期間の組み合わせで日数を定めています。表の数字は、たとえば週所定四日(一年間の所定労働日数が百六十九日から二百十六日まで)の人であれば、六箇月=七日、一年六箇月=八日、二年六箇月=九日、三年六箇月=十日、四年六箇月=十二日、五年六箇月=十三日、六年六箇月以上=十五日です。週三日、週二日、週一日にも、それぞれ別の行があります。
全員を一律十日で回していると、ここで実態と食い違います。逆に言えば、週の所定日数と入社日さえ台帳に入っていれば、日数は表を引くだけで決まる、ということでもあります。
(3)記録に「三つ」が揃っていない
労働基準法施行規則 第二十四条の七(原文)
「使用者は、法第三十九条第五項から第七項までの規定により有給休暇を与えたときは、時季、日数及び基準日(第一基準日及び第二基準日を含む。)を労働者ごとに明らかにした書類(第五十五条の二及び第五十六条第三項において「年次有給休暇管理簿」という。)を作成し、当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後五年間保存しなければならない。」
条文が挙げているのは、時季・日数・基準日の三つです。出勤簿に「有」と書いてあるだけだと、時季と日数は残っても、基準日が残りません。基準日が残っていないと、年五日の期限をあとから確かめられません。
保存の期間については、上の第二十四条の七が「五年間」としている一方で、同施行規則の附則 第七十一条が次のように定めています。
「第十七条第二項、(中略)第二十四条の七及び第三十四条の二第十五項第四号の規定の適用については、当分の間、これらの規定中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。」
条文上は、本則が五年間、附則により当分の間は三年間と読める書きぶりです。自社の運用としてどちらに合わせるかは、社会保険労務士など専門家にご確認ください。
(ここまでの条文は、e-Gov法令検索(デジタル庁)で原文を確認できます。法令名は「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」「労働基準法施行規則(昭和二十二年厚生省令第二十三号)」です。)
■ 期限が近い人は、判断ではなく引き算で出る
「そろそろ取らせたほうがいい人」を人が思い出す形にすると、思い出せなかった月に抜けます。次の四つは、日付と日数だけで機械的に出せます。
・年五日の対象かどうか … 当年度の付与日数が十日以上かどうか(第三十九条第七項の「十労働日以上」)
・その人の期限 … 基準日の一年後の前日
・あと何日か … 五 −(基準日から今日までに取った日数)。マイナスにはせず、〇で止める
・残日数 … 前年度からの繰越 + 当年度の付与 − その期間内に取った日数
人の心証が入らないので、「この人は入れるべきか」という相談が減ります。表計算でも紙でも、この四つが同じ場所に並んでいれば、期限が近い人は上から順に見つかります。
なお、前提として自社で先に決めておいたほうがよいことが三つあります。半日取得を〇.五日として数えるか。時間単位の年次有給休暇(第三十九条第四項)を使っている場合、それを日数の集計にどう反映するか。繰越を何日まで認めるか。どれも「台帳のこの欄はこういう意味です」と一行書き添えておくだけで、担当が代わったときの読み違いが減ります。取扱いそのものの妥当性は、専門家にご確認ください。
■ 決めていないことを洗い出すためのプロンプト
そのままコピーして使えるプロンプトを二本置いておきます。【】の中を自分の会社の内容に置き換えるだけで動きます。外部のサービスに入力する内容なので、社員の氏名や個人が特定できる情報は伏せて使ってください(例:正社員A、パートB)。
【プロンプト1】年休の運用で「決まっていないこと」を洗い出す
あなたは総務・人事の実務担当者を補助する役割です。以下の会社について、年次有給休暇の管理を続けるうえで、先に決めておかないと後で困ることを洗い出してください。
・会社の概要:【例:従業員18名。3月決算。事務所と現場がある】
・雇用形態の種類:【例:正社員、週3日のパート、月ごとに勤務日数が変わるパート】
・いま記録しているもの:【例:出勤簿に「有」と書いている。残日数は担当者が手元の表で数えている】
・いま困っていること:【例:誰があと何日残っているか、聞かれるまで分からない】
出力条件:
1. 決めるべき論点を「記録の形」「基準日の扱い」「日数の数え方」「運用の担当と頻度」の4つに分けて並べる
2. 各論点について、決めないまま進めた場合に後から起きる手戻りを1行で書く
3. 法令の解釈が関わる論点は「専門家に確認する論点」として別枠にまとめ、そちらでの結論は書かない
4. 社内で決めれば済む論点は、決め方の選択肢を2つずつ出し、それぞれの長所と短所を書く
5. 条文番号・日数・期限を、こちらが提示していないのに書かない
6. こちらが書いていない前提を推測で補わない。足りない情報は最後に質問としてまとめる
【プロンプト2】期限が近い人に出す案内文を作る
以下の条件で、年次有給休暇の取得をお願いする社内向けの案内文を作ってください。
・宛先:【例:本人に個別に送る/部署の全員に送る】
・伝える内容:【例:期限は◯月◯日で、残りは3日】
・こちらで用意できるもの:【例:比較的休みやすい時期の候補、代わりに対応できる担当】
・避けたい言い方:【例:責める調子。「義務だから」だけの説明】
出力条件:
1. 本文は300字以内。件名も付ける
2. 冒頭2行で「いつまでに、何日」が分かるようにする
3. 相手が返信だけで決められる形にする。日付の候補を挙げてもらうか、こちらの候補から選んでもらうか、どちらかに寄せる
4. 申請の手続き(誰にどう出すか)を最後に1行入れる。手続きが空欄なら「要記入」と書く
5. 制度の説明を長く書かない。条文の引用も入れない
6. 同じ内容を口頭で伝える場合の短い言い方も、別に添える
出てきた文章は、そのまま送らずに一度削ってください。一般論として並ぶので、自社にない項目が混ざります。白紙から書くより、並んだものを削るほうが早く進みます。
なお、AIに法令の解釈や労務の判断をさせないでください。基準日の設定、出勤率の算定、繰越の取扱いなどは、社会保険労務士など専門家にご確認ください。上のプロンプトを「結論を書かせない」形にしてあるのは、そのためです。
■ まとめ
・有給の締めは、会社の年度ではなく人ごとの基準日で決まる。月末に見る運用と期限は噛み合わない
・年五日の対象は「十労働日以上」与えられた人。期限は基準日から一年以内(第三十九条第七項)
・付与日数は表で決まる。週の所定日数が少ない人には別の行がある(施行規則第二十四条の三第三項)
・記録に残すのは時季・日数・基準日の三つ(施行規則第二十四条の七)
・期限が近い人は、日付と日数の引き算で出せる。人の記憶に置かない
条文は、担当者を縛るために読むものというより、何を記録しておけば後から確かめられるかを教えてくれるものだと思います。三つ揃っていれば、担当が代わっても同じ答えが出せます。
(この記事は条文の記載を整理したものです。個別の判断については、社会保険労務士など専門家にご確認ください。)
参考までに、時季・日数・基準日を一人ずつ記録して、基準日から一年間の取得日数と、年五日まであと何日かを自動で出す形にしたExcelを出品しています。マクロは使っていません。