■ 予実表は、差異が出た瞬間から「説明の道具」になる
予算と実績を並べれば、差異は出ます。ぴたりと合うほうが珍しい。問題はその後です。
会議で、差異の出た科目をひとつずつ「なぜ違うのか」と聞いていく形にすると、説明することが仕事になります。説明が仕事になると、翌月からは数字のほうが説明しやすい形に寄っていきます。予算を低めに置く。費用の計上を翌月に回せないか考える。誰かが数字を歪めようとしなくても、そちらに傾く力がかかります。
予実管理が続かなくなるのは、集計が面倒だからだけではないと考えられます。差異が出たあとの扱い方が決まっていないからです。差異は出るものだという前提に立って、どの差異を追い、どれを追わないかを先に決めていないと、毎月ぜんぶを説明することになります。
■ 続かなくなる構造は、四つに分かれる
(1)実績が確定するのが遅い
月次が締まるのが翌月の二十日なら、会議で見ているのは一か月半前の話です。そこから手を打っても、効果が数字に出るのはさらに先になります。見ても間に合わない表は、そのうち見られなくなります。
分け方としては、確定を待つ科目と、速報で先に見る科目を分ける方法があります。売上と、金額の大きい変動費だけは、締めを待たずに社内にある数字(受注の一覧、出面、発注書の控え)で先に置いておく。確定したら差し替える。速報だと分かる形にしてあれば、精度の話に引きずられずに済みます。
(2)予算に目標が混ざっている
届かせたい数字をそのまま予算に入れると、未達が最初から織り込まれます。毎月赤字表示が出る表は、二か月で見なくなります。差異が毎月同じ向きに出るなら、その差異はもう情報を持っていません。
目標(届かせたい水準)と、予算(このまま行けばこうなるはずという見込み)は、別の数字として持っておくほうが、差異が意味を持ちます。両方を持つ余裕がないなら、予実管理に置くのは後者のほうです。目標は目標として、別の場所で追えます。
(3)追う差異の線引きがない
全部の差異を追う運用は続きません。線引きは、金額と率の両方で決めるほうが安定します。
金額だけで決めると、金額の大きい科目ばかりが並びます。率だけで決めると、もともと小さい科目が毎月上位に来ます。予算三万円の科目が四万五千円になれば、超過額は一万五千円、予算に対して五割の超過です。率は大きく出ますが、追う価値があるかは別の話です。金額と率の両方を満たしたものだけを追う、と決めると、毎月見る科目が数個に落ち着きます。
(4)科目に「その他」がある
「経費」「雑費」「その他」で差異が出ても、原因は追えません。追えない科目は、翌月も同じ差異を出します。
分けるかどうかの目安は、金額の大きい順に並べて、上から数科目です。それ以外は、分ける手間に見合わないので、まとめたうえで「ここは追わない」と決めてしまう。決めておけば、会議で聞かれたときに「追わないと決めた科目です」と答えられます。
■ 予算は、置き方が三種類に分かれる
科目を「置き方」で仕分けると、追う差異の数がさらに減ります。
・固定費(家賃、リース料、保険料、通信費など)
十二等分で置きます。ずれたとしたら、理由は契約が変わったか、計上の月がずれたかのどちらかに近い。原因の候補が最初から絞れている科目です。
・変動費(材料、仕入、外注、荷造運賃など)
金額ではなく、売上に対する率で置いておきます。理由は、売上が予算を下回れば、材料費も下回るからです。金額だけを見ると「費用は予算内」となり、良いことのように見えます。実際には売上が減っただけということが起こります。率で置いておけば、率そのものが上がったときにだけ、意味のある変化として拾えます。
・段差費用(人件費、増床した家賃、追加したリースなど)
金額で置きますが、段差が起きる月を先に書き添えておきます。人がひとり増える月、契約が切り替わる月は、なだらかには動かず階段状に上がります。その月が分かっていれば、その差異は最初から説明済みになります。
この仕分けを一度やっておくと、毎月の差異のうち「そもそも見なくていいもの」がはっきりします。
■ 差異は、三つの問いを順に通す
追うと決めた科目に対しては、順番を固定しておくと早く終わります。
① 数字の作り方が変わっただけではないか
計上した月のずれ、締め日の違い、振替、二重計上。ここを先に潰します。
② タイミングのずれか、水準のずれか
来月には戻るのか、これから毎月続くのか。三か月ぶんの推移を並べると、たいてい見分けがつきます。
③ 水準のずれなら、期末までにいくらになるか
残りの月数 × 一か月あたりの差。ここまで来て初めて、人と時間を使う価値のある金額かどうかが判断できます。
順番が大事です。①を飛ばして打ち手を考えると、集計のずれに対して対策を立てることになります。②を飛ばすと、翌月には戻るだけの話に会議の時間を使います。③を出さないと、金額の小さい差異と大きい差異が同じ重さで議論されます。
■ 予実の設計に使えるプロンプト
そのままコピーして使えるプロンプトを二本置いておきます。【】の中を自分の会社の内容に置き換えるだけで動きます。外部のサービスに入力する内容なので、取引先名や個人名は伏せて使ってください(例:得意先A、担当B)。
【プロンプト1】科目を「予算の置き方」で仕分ける
あなたは中小企業の管理会計を補助する役割です。以下の科目を、予算の置き方で仕分けてください。
・会社の概要:【例:従業員15名の内装工事会社。3月決算】
・科目の一覧:【いま予実で見ている科目名を並べる】
・直近12か月の売上:【分かれば月別に並べる。分からなければ「不明」】
・各科目の直近12か月の金額:【分かるものだけ貼る。無い科目は「不明」でよい】
出力条件:
1. 各科目を「固定(毎月ほぼ一定)」「変動(売上に連動)」「段差(人や契約が増減した月に階段状に動く)」の3つに仕分け、その理由を1行ずつ書く
2. 「変動」に仕分けた科目は、直近12か月から売上に対する率を計算し、いちばん高い月と低い月の率も示す。数字が「不明」の科目は率を出さず「要確認」と書く
3. どの型にも当てはまらない科目は「保留」に分け、判断するために必要な情報を書く
4. 「段差」に仕分けた科目については、来期に段差が起きそうな月を確認する質問を挙げる
5. 提示していない数字を推測で作らない。計算に使った数字をそのまま示す
6. 勘定科目の選び方や計上の時期など、会計・税務の判断は書かない。判断が要る点は「税理士に確認」と書く
【プロンプト2】追う差異の線引きを、自社の数字から決める
以下の予実の実績をもとに、毎月「原因を追う差異」と「追わない差異」を分ける基準の案を出してください。
・月別の予算と実績:【科目ごとに貼る。数か月分でよい】
・予実会議に使える時間:【例:30分】
・原因を調べられる人と時間:【例:経理1名、月に2時間まで】
出力条件:
1. 金額の基準と、率の基準の両方を提案する。両方を満たしたものだけを追う前提で組む
2. 提案した基準を、貼った数字に当てはめる。各月で何科目が「追う」に入るかを実際に数えて示す
3. 会議の時間と調べられる時間に収まる件数(目安として毎月3〜5科目)になるまで基準を調整し、案を3通り出す
4. 基準を上げた場合に見逃すことになる差異の種類を書く
5. 金額が小さくても基準と関係なく毎月見るべき科目があれば挙げ、その理由を書く
6. 貼った数字だけを使う。他社の相場や一般的な基準を持ち出さない
出てきた内容は、そのまま採用せずに一度削ってください。一般論として並ぶので、自社にない科目や事情が混ざります。白紙から考えるより、並んだものを削るほうが早く進みます。
なお、AIに会計・税務の判断をさせないでください。勘定科目の選び方、費用の計上時期、税務上の取扱いなどは、税理士など専門家にご確認ください。上のプロンプトで「会計・税務の判断は書かない」と条件に入れてあるのは、そのためです。
■ 最初の三か月は、簡略版で回す
最初から科目を三十個並べると、初月で止まります。売上を二つか三つ、金額の大きい費用を三つか四つ。それだけで三か月回してみて、毎月同じ手順で締められることを確かめてから増やすほうが、手戻りが少なくなります。
三か月続けられなかった場合、原因は科目の数か、実績が届くタイミングのどちらかにあることが多いと考えられます。ファイルの作りを直す前に、この二つを見たほうが早く進みます。
■ まとめ
・差異は出る。問題は、差異が出たあとに何をするかが決まっていないこと
・実績が届くのが遅い科目は、速報で先に置き、確定したら差し替える
・目標と予算は別に持つ。予実に置くのは見込みのほう
・追う差異は、金額と率の両方で線を引く。片方だけだと偏る
・科目は「固定・変動(率で置く)・段差」に仕分ける
・追うと決めた差異は、集計のずれ → タイミングか水準か → 期末までの金額、の順に見る
予実管理でいちばん時間を取られるのは、実は入力ではなく、出てきた差異をどう扱うかを毎月その場で考えることのほうだと思います。扱い方を先に決めてしまえば、毎月やることは同じになります。同じになったものは、続きます。
(この記事は管理会計の実務上の考え方を整理したものです。会計・税務の個別の判断については、税理士など専門家にご確認ください。)
参考までに、予算と実績を月ごとに入れると差異(実績−予算)と達成率(実績÷予算)が自動で出て、色分けのしきい値を自分で変えられる形にしたExcelを出品しています。マクロは使っていません。