■ 工程表は、受け取った日から少しずつずれていく
工程表を誰かに作ってもらう。あるいは社内の誰かが組む。そこまでは進みます。つまずきやすいのは、そのあとです。受け取った直後は正確です。日程も担当も並び順も、その時点の合意そのものだからです。ところが一週間、二週間と経つうちに実態とずれていき、「これ、いつの版ですか」と聞かれるようになり、やがて誰も開かなくなる。会議では結局、口頭で「あれ、どうなってます?」と確認し合うことになります。
ファイルは残っているのに、判断の材料にはなっていない。この状態は、表の作りよりも渡し方と受け取り方で決まる部分が大きいと考えられます。依頼する側は「どんな工程表がほしいか」を考えますが、「誰がどうやって更新し続けるか」までは依頼内容に入れないことが多いからです。
■ 更新が止まる場所は、だいたい三つに集まる
(1)更新するたびに手作業が発生する作り
セルに色を塗って線を引いたガントチャートは、日程が一日ずれるたびに塗り直しが必要になります。一本ずらせば、その後ろに並んだ作業も全部ずれる。ずらし忘れれば表と実態が食い違い、食い違ったものは信用されなくなります。
手作業が挟まる仕組みは、忙しい週から順に飛ばされます。忙しい週は、たいてい工程が動いた週です。
(2)持ち主が決まっていない
「気づいた人が直してください」は、運用の取り決めとしては成立しにくい言い方です。実際には、誰も直さない状態に近づきます。また、複数の人が思い思いに直せる状態だと、行の挿入やセルの結合で書式が崩れます。崩れたことに気づいた人が、直すのをあきらめる。ここから更新は止まりやすくなります。
(3)触っていい場所が決まっていない
どこを触ってよくて、どこを触ってはいけないのか。これが書かれていないと、担当者は触ること自体をためらいます。壊したら自分の責任になる、と思えば手は止まります。
■ 頼む前に決めておきたい五つのこと
依頼の前に決まっているほど、作る側も見積もりを出しやすくなります。
1.更新の頻度と、更新する人
「週一回」だけでは、決めたことになりにくいです。曜日・時間帯・担当者まで決めておきます。たとえば「毎週金曜の十五時に、担当Aが更新する」という形です。ここまで決めると、更新が「思い出したときにやること」から「金曜にやること」に変わります。
2.更新のときに入力する項目
開始日・終了日・進捗率の三つに絞る、というように、触る場所をあらかじめ決めておきます。バーの長さや色は、その三つから自動で決まる作りにしてもらう。触る場所が三つだと決まっていれば、担当が交代しても引き継ぎやすくなります。
3.遅れの判定を、人の判断に委ねない
「遅れているかどうか」を毎回人が考える形は続きにくいので、条件にしてしまいます。
・進捗率が100%なら完了
・今日が終了日を過ぎていて、100%でないなら遅延
・進捗率が0なら未着手
・それ以外は進行中
この四つは、今日の日付と終了日・進捗率だけで、上から順に判定できます。判定が機械的だと、「これは遅延に入れるべきか」という相談が減ります。遅れている行だけが色で浮かび上がる表は、開く理由のある表になります。
4.行の粒度
大分類を三〜六個、その下にぶら下げる作業は数日から一週間で終わる粒度にします。半日で終わる作業まで一行にすると、行数が増えて全体像が見えなくなります。判断の目安はひとつ、「これが遅れたときに、他の人の予定が動くか」。動かないなら、工程表ではなく担当者のToDoに置いたほうが、表は見やすく保てます。
5.引き渡しの形
納品物がファイルだけだと、作った人の頭の中にある前提が残りません。更新手順を書いた一枚と、触ってはいけない箇所の指定を一緒にもらうよう、依頼の時点で伝えておきます。
■ 依頼内容を固めるためのプロンプト
そのままコピーして使えるプロンプトを二本置いておきます。【】の中を自分の案件に置き換えるだけで動きます。外部のサービスに入力する内容なので、取引先名や個人名は伏せて使ってください(例:株式会社サンプル商事、担当A)。
【プロンプト1】工程表を依頼するための要件整理
あなたは工程管理の実務担当者です。工程表の作成を外部に依頼したいので、依頼内容を整理してください。
・案件の内容:【例:事務所の移転/社内システムの入れ替え/展示会への出展】
・期間:【着手予定日】から【完了希望日】まで
・関わる人:【例:社内二名、外部一社。名前は伏せて役割だけ書く】
・すでに決まっていること:【あれば書く。なければ「特になし」】
・更新する人と頻度:【例:毎週金曜の十五時に担当Aが更新】
出力条件:
1. 依頼文にそのまま貼れる形で「作ってほしいもの」を箇条書きにする
2. 更新するときに入力する項目を三つ以内に絞る案を出し、それ以外は自動で決まる形にする前提で書く
3. 納品時に一緒に受け取っておきたいもの(更新手順、触ってはいけない箇所の指定など)を列挙する
4. 決めていないと後から手戻りになりそうな点を、質問形式で最後にまとめる
5. こちらが伝えていない条件を推測で埋めない。不明な点は「要確認」と書く
【プロンプト2】更新ルールを一枚の取り決めメモにする
以下の条件で、工程表の更新ルールを関係者に配る一枚のメモにまとめてください。
・更新する人:【担当者の役割。例:進行管理の担当A】
・更新のタイミング:【例:毎週金曜の十五時】
・入力する項目:【例:開始日、終了日、進捗率】
・触ってはいけない箇所:【例:色の設定、行の並び順、計算式の入った列】
・遅れの判定ルール:【上の四条件を貼る、または自分たちのルールを書く】
・共有場所:【例:社内の共有フォルダ】
出力条件:
1. A4一枚に収まる分量で、見出しと箇条書きだけで構成する
2. 「やること」と「やらないこと」を分けて書く
3. 更新を忘れたときに誰がどう気づくかを一行入れる
4. 担当が交代したときに引き継ぐ手順を三行以内で書く
5. 専門用語を使わず、初めて見た人が読んで動ける言葉にする
出てきた内容は、そのまま使わずに一度削ってください。一般論として並ぶので、自分の現場にない項目が混ざります。白紙から書くより、並んだものを削るほうが早く進みます。
■ 受け取ったあとの最初の二週間
納品されたら、決めた曜日で二週続けて更新してみます。触る場所が決めた三つで済んでいるか、塗り直しや行の入れ替えが出ていないかを見る。二回続けて同じ手順で更新できたなら、その形は続く可能性が高いと考えられます。二回目で「どこを触るんだっけ」となるなら、直すのはファイルではなく手順書のほうです。
■ まとめ
工程表が使われなくなるのは、多くの場合、作りではなく運用のところでつまずいています。
・更新を、曜日と時間と担当者まで決めておく
・入力するのは日付と進捗率だけにして、残りは自動で決まる形にする
・遅れの判定はルールに任せて、人の判断を挟まない
・行は「遅れたら他の人の予定が動くか」で選ぶ
・ファイルだけでなく、更新手順と触ってはいけない箇所も一緒に受け取る
この五つを依頼の前に決めておくと、受け取ったあとの工程表が「更新するもの」として残りやすくなります。逆に、どれだけ見た目の整った表でも、更新の手順が決まっていなければ、作った日が最新版のまま止まります。頼んでいるのは表そのものではなく、更新され続ける状態のほうなのだと思います。