私を否定する私

私を否定する私

記事
コラム
カウンセリングで出会ったA子さんは、
恋愛が苦手だと言った。

40代ですらっとした高身長の女性だ。
外見は年齢よりも若々しく、
穏やかで柔らかい雰囲気を持つ女性だった。

だけど彼女はこれまで男性と付き合うことがほとんどなく、
今も独身だ。
人並みに恋心を持ったことはもちろんある。
でも彼女は、好きな人の前にいると、
自分が他人に比べて劣って惨めな人間だという妄想にとらわれ
自分のことを深く知られることに恐怖を感じて
一刻も早く目の前から消えたい、
と顔をこわばらせて去ってしまうのだ。
相手からするとA子さんのその行動は、
自分が避けられているようにも受け取られかねない。

A子さんは、相手から遠ざかる行動をとることによって
自分の好意を相手に伝える機会を失ってきてしまった。

なぜ彼女はこのような心理状態になってしまうのか。

A子さんは、子どもの頃から器用なタイプではなく、
ワンテンポ周りから遅れてしまうことが多い子どもだった。
A子さんの母親はストレスが溜まって余裕が無くなると
子どもに辛辣な言葉を使ってしまうことがあり、
その対象がA子さんになることが多かった。
A子さんが他の人と同じように動けなかった時、母親は
「バカだねぇ」「どんくさい」「何してるの、もう」
と失望感をストレートにA子さんに伝えるのだった。

普段は心優しい母親から発せられたこれらの言葉は、
自分は出来損ないで、周りからがっかりされる平均点以下の人間なんだ
というメッセージとしてA子さんの心に突き刺さった。
相手に愛されたい、と思えば思うほど、
私は恥ずかしい人間なのだ」と言う声が自分の中に響き、
がっかりされる前に存在を消したいと思ってしまうのだ。

もちろん母親も人間なので、
感情のままに言葉が出てしまうことは当然ある。
すべての人がA子さんのように親の感情的な言葉を内面化して
傷付きを抱えるとは限らない。
不幸にもA子さんの持つ繊細さや傷つきやすさ
A子さんの心の真ん中に消えない深い傷を刻んでしまったのだ。

その後、A子さんはカウンセリングのなかで、
自分を苦しめていたのは「今の自分」ではなく、
幼い頃に傷ついた心が今も
「私は愛されない」「きっとがっかりされる」
とささやき続けていたからなのだと気付いた。
その瞬間、
そういう自分も自分なのだ」と受け止めることができた。

傷ついた過去が消えたわけではない。
好きな人を前にすると心が揺れることは今でもある。
それでも、
「私はダメな人間だから逃げたくなる」のではなく、
「傷ついてきた私だから、そう感じるのだ」
と理解できるようになると、
自分を責める時間は少しずつ短くなっていった。

私たちは、子どもの頃に受け取った言葉を、
いつの間にか「自分自身の声」だと思い込んでしまうことがある。
「私はできそこない」
「私なんて価値がない」
でも、その声は必ずしも真実ではない。
それは外から埋め込まれた異物なのだ。

A子さんが教えてくれたのは、
「自分を変えること」よりも、
傷ついてきた自分を理解し、いたわること」の大切さだった。

自分のものではない、自分の中から聞こえてくる声を
少しずつ受け入れられるようになったとしても、
人はすぐに別人になるわけではない。
しかしそれでも、
生きづらさは少しずつ和らぎ、
自分とともに生きていく道を見つけられるようになる。

もし今、自分には価値がない、自分は愛されないと
思い込んで苦しんでいる人がいるなら、
ここまでなんとか踏ん張っている今の自分をねぎらい、
あの時欲しかった優しい言葉を自分にかけてあげる
それを少しずつ始めてみてほしい。

何かが変わりはじめるきっかけになるかもしれない。

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す