前回(【第1回】3,000億円市場を阻む「実績の壁」——官公庁とスタートアップ、文化のズレを紐解く)では、3,000億円規模と言われる公共調達市場に立ちはだかる「実績の壁」と、官公庁とスタートアップの間にある文化のズレについて紐解きました。
「壁の存在は理解できたが、結局のところ過去の実績がないと官公庁の案件は取れないのではないか」
そのように感じた方も少なくないはずです。
しかし今回は、その分厚い壁を官公庁がどのように壊そうとしているのか、現在進行形で起きている「ルール変更」の裏側をお伝えします。
結論から言えば、今、官公庁はスタートアップ向けに「飛び級」とも呼べる特例を本格的に用意しています。
実績の壁を越える「飛び級」の特例
これまでの公共調達(官公庁が民間からモノやサービスを購入すること)では、企業の資本金や過去の販売実績によって、厳格に「A〜D」のランク付けがなされてきました。大型案件には、必然的に実績豊富な大企業(Aランク)しか参加できない仕組みだったのです。
私が現役の発注担当者だった頃にも、「このランク制度が参入障壁になっているのでは」と率直に感じる場面が多々ありました。実際に、この競争参加資格のランクを意識せずに入札書類を提出される営業担当者の方は意外と多く、発注側として『要件不備』で機械的に弾かざるを得ず、心苦しく思うこともあったのです。
しかし新しいルールでは、この前提が覆りつつあります。
「客観的に高い技術力が証明された特定のスタートアップ」であれば、本来はCランクの企業であっても、いきなりAランクの大型案件に入札(最も有利な条件を出した企業と契約する仕組み)できる特例が設けられました。
これは、これまでの官公庁の常識からすれば、極めて異例の転換と言えます。
官公庁が自ら「最初の顧客」となるSBIR制度
さらにスタートアップの追い風となっているのが、「SBIR(スモール・ビジネス・イノベーション・リサーチ)制度」の大幅な拡充です。
(※SBIR制度とは、スタートアップなどが持つ新技術や研究開発を官公庁が支援する仕組みです)
新しい技術やサービスを生み出しても、「実績がないから採用されない、採用されないから実績が作れない」という悪循環は、スタートアップが直面する最大の課題です。
この状況を打破するため、SBIR制度において官公庁は年間数百億円規模の予算を組み、「まだ誰も使ったことがない最新技術」を自らリスクを取って買い上げる枠組みを整えました。
つまり、官公庁自らが「最初の顧客(ファーストカスタマー)」となってくれるのです。
「官公庁が導入した」という事実は、その後の民間市場を開拓するうえで、この上ない客観的な評価と信頼につながります。
次回予告:調達期間を劇的に縮める「DMP」の衝撃
このように制度が整い、スタートアップに対する公共調達の扉は着実に開かれつつあります。「自分たちにも参入のチャンスがある」と、具体的な道筋が見えてきたのではないでしょうか。
しかし、制度の存在を知るだけでは、実際の競争を勝ち抜くことはできません。
次回(第3回)は、官公庁のシステム導入にかかる時間を「数ヶ月から数週間」へと劇的に短縮し、SaaS(インターネット経由で利用できるソフトウェア)導入の概念を根底から変える新たな調達手法「DMP(デジタルマーケットプレイス)」の衝撃について解説します。
あわせて、元・発注側の視点だからこそ見えてくる「実績ゼロから勝ち上がるための具体的な立ち回り方」をお伝えしますので、ぜひご期待ください。