個人的には、中小企業やスタートアップにはぜひとも公共調達へ果敢にチャレンジしていただきたいのですが、両者にはある種の食い合わせの悪さが存在していると思います。
これは今までの記事をご覧いただいた方ならば少しご理解いただける部分もあると思いますが、今回(全3回予定)はどのような点がボトルネックになっているのか、官公庁側がそれを改善するために今現在どのような施策を講じているのか、もう少し深堀したいと思います。
「画期的な技術はあるが、官公庁の入札なんてうちのようなスタートアップには縁がない」——そう諦めている企業は少なくないのではないでしょうか。
しかし現在、政府は創業10年未満の中小企業やスタートアップから年間約3,000億円規模の調達を行おうとしています。これは単なる助成金や補助金ではなく、国がスタートアップ等の技術やサービスを直接「買い上げる」という、極めて大きなビジネスチャンスです。
立ちはだかる「実績の壁」
ところが、いざ売り込み先の部署へ赴くと話は聞いてもらえるものの次のような言葉で門前払いされるのが多いと思われます。
「素晴らしい技術ですね。ところで、過去5年間の公共事業での導入実績はありますか?」
私が現役時代にも調達部門へ直接売り込みをされる営業の方がいらっしゃったのですが、調達担当者は組織内のルールに則り独立した立場での発注権は有するものの、その調達自体を欲している立場(要求部署)ではないので、(事情を説明したうえで)結果として門前払いのような対応をとらざるを得ませんでした・・・。
創業したばかりの企業に過去の実績などあるはずがありません。これが、これまで多くのイノベーションを阻んできた「実績の壁」の正体です。
実は、こうした実績不足による行き詰まりは、産学官連携の分野でも頻繁に見られます。スタートアップが直面する、いわゆる「死の谷」の問題です。
どれほど優れた技術があっても、市場の真のニーズを捉えて製品を適合させられなければ、やがて資金は枯渇してしまいます。企業がこの谷を越えて生き残るためには、初期段階でいかに「実績」を作れるかが極めて重要な意味を持ちます。
しかし、いざ最初のステップを踏み出そうにも、外部には官公庁の分厚い壁が立ちはだかっています。同時に、自社の技術や当初の計画に固執するあまり、市場の変化へ柔軟に適応できずに行き詰まるという、スタートアップ自身が抱えるシビアな現実も存在しているのです。つまり、ある種の「柔軟性」も必要なのですね。
官公庁とスタートアップに潜む「文化の違い」
なぜ、長年このような「実績の壁」が立ちはだかってきたのでしょうか。元・発注側の視点から言えば、そこには「官公庁」と「スタートアップ」における根本的な文化の違いが存在します。
これは音楽のジャンルに例えると分かりやすいかもしれません。
◆官公庁は「クラシックのオーケストラ」
税金を扱う以上、官公庁にはミスが許されません。事前に完璧な「楽譜(仕様書)」を用意し、寸分違わず演奏することが求められます。こうした絶対に間違いを起こさない前提を、官公庁の世界では「無謬性(むびゅうせい)」と呼びます。
◆スタートアップは「ジャズバンド」
一方のスタートアップは、『ジャズのジャムセッション』です。未知の課題に対し、失敗を繰り返しながら高速で軌道修正していく「アジャイル」な姿勢が強みです。演奏中に誰かが予定外のフレーズを弾いても、それを即座に拾って新しいハーモニーに変えて突き進むようなプレースタイルと言えます。
※私個人で言えばどちらも味があって好きです(笑)
交わらない2つの音楽と、変わり始めた国の姿勢
完璧な楽譜通りに演奏したいオーケストラのステージに即興セッションを得意とするジャズバンドが乱入すれば、当然ながら不協和音が生まれます。官公庁が失敗を避けるために「過去の実績」という分厚い壁を作り、新規参入に慎重にならざるを得なかったのは、ある種、必然でした。
しかし、気候変動や少子高齢化、巧妙なサイバー攻撃など、未知の課題が次々と押し寄せる現代において、既存のオーケストラによる予定調和な演奏だけでは対応しきれなくなっています。
そこで国はついに、自らこの壁を自ら壊し始めました・・・。
次回は、実績ゼロのスタートアップが大企業と同じ土俵に上がるための「特例措置(飛び級制度)」について解説します。ぜひアカウントをフォローして、次回の更新をお待ちください。