前回は、自治体とスタートアップの間にある「広さ」と「深さ」の違い、そして公共調達のある種残酷な現実についてお話ししました。
今回は、公共調達に挑む際に立ちはだかる、もうひとつの巨大な壁についてお伝えします。それは「時間の感覚」です。
この大前提を知らないまま飛び込んでしまうと、どんなに素晴らしいサービスも、単なる「いいお話」で終わってしまいます。
「1ヶ月」と「1年」。致命的な時間軸のズレ
スタートアップと官公庁では、そもそも流れている時間が根本的に違います。
スタートアップの世界は「今すぐ」が当たり前。日単位、月単位で状況が変わり、スピードこそが命です。
一方、官公庁の時間軸は「1年に1回だけ動く巨大な歯車」をイメージしてみてください。
たとえば、あなたが11月に「画期的なサービスができました。来月から市役所で導入しましょう」と意気込んで持ち込んだとします。しかし市役所側からすると、「来年4月からの予算は、もう10月の時点で締め切ってしまったんです……」というのがリアルな現実なのです。
タイミングを少しでも間違えると、次の導入チャンスは最長で「1年半待ち」になる可能性があります。体力の限られたスタートアップにとって、この1年半のタイムラグは資金ショートにも直結しかねない、本当に恐ろしいリスクですよね。
「うちの技術はすごい!」は響かない。必要なのは「翻訳」
時間軸のズレに加えて、もうひとつ忘れてはならないのが「翻訳」というステップです。
自社のサービスに自信があるほど、つい「私たちの開発した最新のAI技術はここが優れています!」と、スペックを熱く語りたくなります。
しかし、官公庁で働く職員の方々は技術の専門家ではありません。熱意をぶつけても、「なるほど。それで、結局うちの『どの課題』が解決するんですか?」と戸惑わせてしまうだけなのです。
官公庁には、「誰がどう困っていて、それをどう解決するのか」を整理するための特有の論理フォーマットが存在します。
だからこそ、技術のすごさをそのまま語るのではなく、相手に伝わる言葉へ「翻訳」してあげる必要があります。
「あなたの部署が抱えるこの課題を、私たちのサービスならこういう形で解決できますよ」と、官公庁が納得しやすいロジックに変換して提案するのです。
歩み寄りが、巨大組織を動かす第一歩
相手のロジックに「言葉」を翻訳し、予算取りのスケジュールに「時間」を合わせる。
これらを意識するだけで、近寄りがたいと思っていた官公庁という巨大な組織が、少しずつ現実的なパートナーとして見えてきませんか?
さて、最終回となる次回(第3回)は、いよいよ実践編です。
第1回でお話しした「大成功の実証実験が、最悪の結末(タダ働きやアイデアの流用)を招く」という最大の悲劇。これを防ぎ、公共調達で確実に勝ちにいくための「具体的な攻め方」をお伝えします。