学会発表や研修資料を作っていて、
「結構きれいにできた」
と思うことがあります。
文字の大きさも揃えた。
色も使いすぎていない。
図やグラフも入れた。
余白も取った。
でも実際に発表してみると、
なんとなく伝わりにくい。
聞いている人がスライドのどこを見ているのか分からない。
こちらが説明しているところとは違う場所を見ている気がする。
そんなことがあります。
スライドは、
「きれいに作る」だけで十分なのでしょうか。
今回は、発表用スライドを作るときの
「視線の誘導」
について考えてみます。
スライドを出した瞬間、聞き手はどこを見る?
例えば、こんなスライドがあったとします。
タイトル。
本文。
グラフ。
グラフの横に説明。
下に注釈。
右上に強調した数字。
作った本人は、
どこに何があるのか分かっています。
でも、
そのスライドを初めて見る人は違います。
スライドが表示された瞬間、
「どこを見ればいい?」
から始まります。
そして発表者は、その間にも話し続けています。
聞き手は、
話を聞く
と同時に、
スライドを見る
必要があります。
だからこそ、
見る場所を分かりやすくしてあげることが大切です。
「見やすい」と「伝わる」は少し違う
文字を揃える。
余白を取る。
配色を整える。
これらは見やすいスライドを作るために大切です。
でも、
見やすければ必ず伝わる
とは限りません。
例えば、
きれいなグラフを大きく配置したとします。
ただ、
そのグラフの中で、
どの部分を見てほしいのか
が分からなければ、
聞き手はグラフ全体を見ます。
発表者は、
「ここに注目してほしい」
と思っている。
聞き手は、
別の場所を見ている。
これでは、
せっかくのグラフが十分に働きません。
「こちらをご覧ください」だけでは分からないこともあります
発表で、
「こちらをご覧ください」
と言うことがあります。
でも、
スライドに情報がたくさんある場合、
「こちら」がどこなのか分からないことがあります。
例えば、
「右側のグラフをご覧ください」
「赤枠で示した部分をご覧ください」
「特に中央の〇〇に注目してください」
と少し具体的にする。
これだけでも、
聞き手が見る場所を探す時間を減らせます。
矢印や囲みは「飾り」ではありません
スライドで使う、
矢印
囲み
色
太字
などは、
単にスライドを華やかにするためのものではありません。
本来は、
「ここを見てください」
と伝えるための道具です。
例えばグラフで、
A群とB群に差があったことを説明したい。
それなら、
その部分だけを囲む。
矢印を付ける。
該当する数値を強調する。
こうすると、
発表者が説明している場所と、
聞き手が見ている場所を合わせやすくなります。
ただし、全部を強調すると意味がなくなります
ここで注意したいのが、
強調しすぎること
です。
赤文字。
黄色のマーカー。
太字。
囲み。
矢印。
色付きの図形。
全部使ってしまう。
すると、
どれが一番大切なのか分からなくなります。
強調は、
少ないから目立ちます。
1枚のスライドで、
「ここだけは見てほしい」
という場所を考えてみます。
色をたくさん使う必要もありません
視線を誘導するために、
たくさんの色を使う必要はありません。
むしろ、
基本となる色をある程度揃えて、
本当に注目してほしいところだけ違う色にする
方が分かりやすいことがあります。
例えば、
ほとんどの文字は黒。
見出しは紺。
今回注目してほしい数字だけ赤。
これなら、
赤い数字に自然と目が向きます。
反対に、
赤、青、緑、黄色、紫……
と最初からたくさん使っていると、
新しく色を付けても目立ちにくくなります。
発表する順番と、スライドを見る順番を合わせる
これも大切です。
例えば発表では、
①研究背景
↓
②対象者
↓
③結果
の順番で説明する。
ところがスライドでは、
結果が左上。
研究背景が右下。
対象者が左下。
となっていたら、
聞き手の視線が行ったり来たりします。
できるだけ、
話す順番と見る順番を合わせる。
これだけでも、
スライドを追いやすくなります。
左から右、上から下を意識してみる
必ずそうしなければならないわけではありませんが、
スライドの情報を配置するとき、
左から右
上から下
という自然な流れを意識すると整理しやすくなります。
例えば、
研究目的
→
方法
→
結果
の3つを横に並べる。
あるいは、
問題
↓
原因
↓
対策
と縦に並べる。
情報の関係そのものを、
配置で見せるイメージです。
図を入れただけで安心していませんか?
文章ばかりのスライドより、
図やグラフを入れた方が分かりやすいことがあります。
でも、
図を入れれば自動的に分かりやすくなる
わけではありません。
特に研究発表では、
グラフに、
軸。
凡例。
複数の色。
エラーバー。
数値。
有意差。
など、たくさんの情報が入ることがあります。
聞き手は、
数秒でそれを理解しなければなりません。
だから、
「このグラフから何を見てほしいのか」
を発表者側で決めておく必要があります。
表はさらに視線が迷いやすい
研究発表では表を使うこともあります。
でも、
行と列がたくさんある表をそのまま出すと、
聞き手は、
「どの数字を見ればいい?」
となります。
発表で使う表なら、
今回説明しない情報を減らす。
注目する行だけ強調する。
重要な数値を囲む。
場合によっては、
表ではなくグラフにする。
なども考えられます。
論文に掲載する表と、
発表で見せる表は同じでなくてもよい
と思います。
1枚のスライドで全部説明しようとしない
視線が迷う大きな原因の一つが、
情報の詰め込みすぎ
です。
「せっかく調べたから入れたい」
「この結果も大切」
「この説明がないと心配」
と追加していくと、
1枚の中に、
見てほしい場所が何か所もできます。
そんなときは、
スライドを分ける
という方法もあります。
1枚増えることより、
1枚の中で何を伝えたいのか分からなくなる方が問題になることがあります。
「1枚1メッセージ」で考えてみる
スライドを作るとき、
私は、
「この1枚で一番伝えたいことは何?」
と考える方法が分かりやすいと思います。
例えば、
「A群の方がB群より高かった」
これが一番伝えたいことなら、
その結果が自然と目に入るようにする。
他の情報は、
そのメッセージを理解するために必要な範囲にします。
これだけでも、
スライドの構成がかなり変わります。
タイトルも視線誘導に使えます
タイトルを、
「結果①」
だけにすることがあります。
もちろん間違いではありません。
でも、
例えば、
「経験年数が長い群ほど〇〇得点が高かった」
とすれば、
スライドを見た瞬間に、
何を伝えたいのか分かります。
発表の内容や学会のルールにもよりますが、
タイトルそのものにメッセージを持たせる方法もあります。
アニメーションは使った方がいい?
視線誘導というと、
PowerPointのアニメーションを思い浮かべるかもしれません。
確かに、
説明する順番に一つずつ表示する方法は、
視線誘導として有効な場合があります。
ただ、
何でも動かせばよいわけではありません。
文字が飛んでくる。
図が回転する。
グラフが大きくなる。
こうした動きは、
内容よりアニメーションそのものに目が向くことがあります。
使うなら、
「今説明している情報だけを見せるため」
くらいのシンプルな使い方で十分だと思います。
発表者自身も視線誘導の一部です
スライドだけではありません。
発表者が、
スクリーンを見る。
該当部分を指す。
レーザーポインターを使う。
そして、
聞き手へ視線を戻す。
こうした動きも、
「今ここを見てください」
というサインになります。
ただし、
レーザーポインターをずっと動かし続けると、
逆にどこを見ればよいのか分からなくなることがあります。
必要なところで、
必要な時間だけ示す。
これで十分です。
自分のスライドは「初見」で見るのが難しい
スライドを作った本人は、
内容を全部知っています。
だから、
多少情報が多くても、
「普通に分かる」
と感じます。
これが難しいところです。
自分にとって分かりやすいことと、
初めて見る人にとって分かりやすいことは、
同じではありません。
一度スライドショーで見てみる
完成したら、
編集画面だけで確認せず、
実際にスライドショーで見る
ことをおすすめします。
そして、
スライドが切り替わった瞬間、
自分の目がどこへ行くか確認してみます。
一番大切なところへ自然に目が行く。
↓
比較的うまく視線誘導できています。
どこを見ればよいか迷う。
↓
情報量や配置、強調方法を見直せるかもしれません。
可能なら誰かに数秒だけ見てもらう
さらに分かりやすい方法があります。
内容を詳しく知らない人に、
スライドを数秒だけ見せて、
「何が一番目に入りました?」
と聞いてみる。
自分が見てほしかったところと、
相手が最初に見たところが同じなら、
かなり良い状態です。
違っていたら、
なぜ別のところが目立ったのか考えます。
意外なところが大きかったり、
色が強すぎたりすることがあります。
「きれいなスライド」を目標にしすぎない
PowerPointを作っていると、
つい、
「もっときれいにしたい」
と思います。
もちろん、
整ったデザインは大切です。
でも発表資料の目的は、
作品としてきれいに見せることだけではありません。
発表内容を伝えること
です。
少しくらい地味でも、
聞き手が迷わず、
発表者の話についてこられる。
その方が、
発表資料としては役割を果たしていることがあります。
私なら最後に3つ確認します
スライドが完成したら、
私は次の3つを確認します。
① このスライドで一番伝えたいことは何?
すぐ答えられるでしょうか。
② スライドを見た瞬間、そこに目が行く?
別のところが目立っていないでしょうか。
③ 話す順番と見る順番が合っている?
発表者の説明についていける配置になっているでしょうか。
この3つだけでも、
かなり見直しやすくなります。
まとめ
学会発表や研修資料では、
文字を揃える。
色を整える。
余白を取る。
図やグラフを使う。
こうした「見やすさ」は大切です。
でも、
もう一歩考えてみると、
「聞き手に、どこを見てもらうか」
も重要です。
矢印。
囲み。
色。
配置。
タイトル。
アニメーション。
発表者の説明。
これらを使って、
聞き手の視線を、
今説明している場所へ自然に誘導する。
目指したいのは、
「きれいなスライド」だけではなく、「迷わず見られるスライド」
です。
次にスライドを作るとき、
完成した画面を見ながら、
「このスライドを初めて見た人は、最初にどこを見るだろう?」
と考えてみてください。
少し視点を変えるだけで、
同じ内容でも、
伝わり方が変わるかもしれません。
関連記事