ダークファンタジー小説『黒魔術師の少女と薔薇園』

ダークファンタジー小説『黒魔術師の少女と薔薇園』

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コラム
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 リオンは黒魔術の勉強を熱心にしていた。
 彼女は誰も使わない古城を買い取って、古城の塔の上を書斎にして熱心に研究に没頭していた。闇の魔術師に必要なものは幾つかあるが、その一つが薔薇だった。赤い薔薇、黄色い薔薇、黒い薔薇、青い薔薇、緑の薔薇。薔薇園には様々な色の薔薇を育てていた。
 リオン一人では薔薇の世話も、他の雑事も何も出来ないので、彼女は使用人を何名も雇っていた。
 薔薇を育てる使用人の中には、何百年も生きているという魔女がいた。
 魔女の名前はイズゥ。
 少女の姿をしていた。
「イズゥ。今日も薔薇はよう育っている?」
 リオンは薔薇園に辿り着くと、イズゥに訊ねる。
「はい。リオン様。様々な品種改良を施しております。今度は凄いのですよ」
「どんな風に」
「はい。村人を沢山さらってきて、野生の灰色熊に食べさせました。その熊を殺して堆肥にしております。これで真っ黒な薔薇が綺麗に咲きました」
「素敵ね」
「紫の薔薇からは良い紅茶が作れます。お飲みしますか」
「飲むわ。黒い薔薇を愛でながら」
 リオンは黒い薔薇に触れると、うっとりと口付けする。
 ある日。薔薇の堆肥として一人の少年が送られてきた。
 市場でイズゥが買ったのだという。
 赤茶けた肌の少年だった。
 顔はそばかすが目立つ。
 茶色の髪が癖っ毛を帯びている。
 美少年とは言い難いが、いかにも男の子らしい。
 イズゥは試しに少年の生き血を飲んで美味しいと言った。
 少年は古城の地下牢に入れられる事となる。
 リオンは少年に興味を持って、地下牢の少年に話し掛けた。
「貴方の名前は?」
 リオンは訊ねる。
 少年は渡されたスープを飲みながら、しどろもどろに話す。

「僕の名前はトゥール。焼けた村の生き残り…………」
 彼は哀しそうに言った。
 少年の住んでいた村は戦争で焼けてしまった。
 騎士団がこぞって、村々を襲い略奪を行ったのだと言う。

 少年は王国を憎んでいたが、あっさりと騎士達の一人に捕まり市場に売られてしまったのだという。 
「なあ。協力してくれないか?」
 トゥールは、リオンに懇願する。

「残念だけど、貴方は私の手によって実験材料にされる運命。貴方は私の闇の魔術の踏み台になるの」
 リオンはトゥールに残酷に言い放つ。
 少年は牢獄の中であらん限りの罵声を言う。
 リオンは石段を登り、研究室の塔へと向かった。
 トゥールの悲痛の声が、しばらくの間、リオンの耳にこびり付いて離れそうになかった。
 塔の上には、天体望遠鏡があった。
 望遠鏡を覗き見ると、遥か遠くを眺める事が出来る。
 トゥールの村を襲った騎士団の住まう王国が見えた。
 黒魔術の研究をしている事がバレたら、きっと、リオンも被害の対象になるだろう。
 それだけは避けなければならない。
 リオンはイズゥに命ずる。
「毒の薔薇を売りましょう」
「はい。毒の薔薇は緑色の薔薇ですね」
「イズゥ、私は王国に毒の薔薇を売りに行くわ。留守番、頼んだわよ」
「かしこまりました。リオン様」
イズゥはうやうやしく頷く。
「あの少年を牢から出しなさい。彼を王国に向かわせて、望む事をさせましょう」
 リオンの瞳には新たなる残酷なアイデアが好奇心と共に浮かんでいた。
 そして、リオンと少年トゥールは王国に向かう事となった。
 薔薇を売る為に。
 騎士達は王国の各地にいた。
 フードとマントで顔を隠した二人は騎士達に薔薇の入った籠を見せる。
「薔薇はいかがですか? 一輪でパンと同じ値段ですよ」
 騎士達の何名かは最初は煙たがっていたが、やがて興味を示した。
 薔薇が緑色な事。
 極めて珍しい事。
 騎士達の何名かは薔薇を買った。
「食事の香辛料に使えます。スープに入れると美味しいんですよ」
 騎士達はそれを聞いて頷いた。
 女房に渡したら珍しがって喜ぶだろうと言った。
 二人は騎士達を見かけると、次々に薔薇を売っていく。
「さて。緑の薔薇が毒である噂はすぐに広まるでしょうから。私達はすぐに王国を出るわよ」
 リオンが少年に言う。
 リオンの言った通り、夕方には回覧板が出回った。
 薔薇を売る二人組の人物を見つけろと。すでに薔薇を食して死んだ者達は数多くいるのだと。
 王国の外でリオンは少年の頭を撫でる。
「さて。どうする? 沢山、死人は出たみたいだけど、貴方はまだ満足していない、って顔をしているわ」
少年は頷く。
「そう。ねえ、トゥール。私とイズゥは薔薇の毒の耐性が付いているの。貴方にも耐性を付けるわ。毎日、赤い薔薇をすり潰した紅茶と料理を食べなさいね」
 古城に帰ると、イズゥはメイド姿で薔薇を入れた肉料理を作っていた。
 三名は肉料理を食べる。
「これは何の肉ですか?」
トゥールはイズゥに訊ねる。
「ドゥアル・ランスという二つの頭を持つヤギの魔物の肉ですよ」
イズゥは答える。
「美味しいわ、イズゥ。腕をあげたわね」
「ありがとう御座います。リオン様」
 やがて、薔薇料理を食べていったトゥールは毒の耐性を付ける。
 ある日の夜。
 大風が吹き荒れる秋の夜。
 リオンは荒れ狂う風に向かってすり潰した緑の薔薇を撒いていった。
「やがて、これは風にのって王国に届くわ。そうすれば、王国には病気が蔓延るでしょう」
 リオンは笑っていた。
 翌年。王国は未知の病気を患ったが多く出たと聞いた。
 死者数は膨大な数になり、王国の貴族達の間にも病は流行っているのだという。
 三名は静かに、古城の塔の上で実験が成功した事を祝って、甘い桃色の薔薇の紅茶を飲んでいた。

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