前回、SEKAI NO OWARIの『最高到達点』になぞらえて、かむっくが目指したい“最高到達点”を書き残しました。
それは、障害がある方の「働く×生きる」を起点とした、ユニバーサルな共同体の設計です。
障害がある方たちが過ごしやすい共同体ならば、他の世代や境遇の方たちにとっても過ごしやすい共同体であるはずだ――そんな推論に基づくものです。
人と人をかける。
人と地域をむすぶ。
そして、誰もが過ごしやすい場をつくる。
それが、かむっくの目指す最高到達点でした。
ですが、かむっくには、その共同体設計のほかにも、目指したい第二の頂きがあります。
それが、
かむっくの極致② “きねづか”という第二の頂き
「きねづか」とは、諺の“昔とった杵柄(きねづか)”から名付けたものです。
これまで私は、かむっくの“支援領域”で説明してきたように、就労機会の拡大を図るため、
地域と人、
人と制度、
地域と資源を
「かけて、むすんで」、
色々なところに“働く場”をつくっていくという話をしてきました。
それは、“障害がある”と一口に言っても、様々な状態の人が、自分に合う“働く”に出会える可能性を高め、機会を増やすためです。
しかし、この考え方には一つの特徴があります。
それは、
「仕事に人を合わせる」
という発想です。
まず仕事がある。
その仕事に対して、
向いている人、
向いていない人を考える。
そして、
「あなたはこちら」
「あなたはあちら」
と当てはめていく。
現行の障害福祉サービスの枠組みも、多くの場合、この“仕事に人を合わせる”流れで運用されています。
ですが、果たしてそれが全てでしょうか? 私は、かねてよりここに違和感を抱き続けていました。
まず「人」があり、「人の中から仕事を生み出す」ベクトルに変えられないか――。
そんな思いで、書き留めたのが、この“きねづか”になります。
その人の前職、大切にしてきた趣味、生活習慣、日々の日常……。生きてきた地層をかけて、むすぶことで、その人のなかに固有の仕事をつくりだす――。それこそが「きねづか」というアプローチです。
この「きねづか」は、その人が歩んできた人生の歴史に溶け込み、「固有の仕事」を生み出すことを目指しているため、どのような環境にいる方にも寄り添うことができると思います。
ですが、障害がある方のなかでも、このアプローチが最も必要とされていると思うのは、主に「施設に入所している障害のある方々」です。
入所施設でも、日中は「生活介護」、夜間は「施設入所支援」という枠組みで支援が行われています。生活介護のなかにも作業活動や就労的な機会はあります。しかし、それらは利用者本人が選んだ仕事というよりも、”施設側が用意し、想定した活動”であることが少なくありません。
また、現在の障害者雇用施策は、企業で働くことを前提にした制度であり、在宅で生活し通勤できる人を主な対象として設計されています。 そのため、施設入所者は制度が想定していないわけではないものの、既存の就労支援のレールに乗りにくい構造になっています。
もちろん、”施設側が用意し、想定した活動”が本人に合えば良いのですが、内容が合わなかったり、興味や得意なことと結びつかなかったりすると、「参加しない」という選択になりがちです。
実際、私が勤めていた施設でも、生活介護の活動内容が合わず、参加していない利用者さんは少なくありませんでした。
もちろん、自分のペースを乱したくない、一人で過ごしている方が気楽、他の方と過ごすことが性に合わないなどの理由で参加しない方もいました。しかし一方で、「やりたいことがない」のではなく、「用意された活動が自分に合わない」という方も確かにいたのです。
さらに、施設の職員の方々は、日々ぎりぎりの人数で介助を行っています。入居者の方々の日常生活がより良いものになるよう、余暇活動やQOL(生活の質)の向上に必死に取り組んでいますが、日々の介助に追われ、彼らのための「就労機会」を外から探してきてあてはめるような十分な時間を割くことが難しい現実があります。
「仕事に人を合わせる」レールが最初から存在せず、誰かが仕事を持ってきてくれることも期待できない場所。
だからこそ、既存の仕事を外から持ってくるのではなく、その人の内側、その人らしさの中に、「就労」を新しく掘り起こして、つくっていくことができないかと思いました。
では、どのような「生きた地層」から、どのような仕事や役割を見出していくのか。
私が長年勤務していた施設で実際に支援していた利用者さんをモデルケースとして、ご紹介したいと思います。
【想定する内容・モデル・発想の起点】
Aさん:学校行事専門フォトグラファー
プロフィール
右半身麻痺
車椅子利用
カメラマンとして働いていた経験あり
活動内容
近隣の小・中学校、幼稚園・保育園へ出向く
遠足や運動会などの学校行事を撮影
撮影補助者が同行
撮影料金は相場の半額程度を想定
障害やブランクがあるため、一定の訓練は必要
発想の起点 私が小学生から中学生の頃は、運動会や修学旅行、校外学習などに同行するカメラマンがおり、撮影した写真を販売していました。現在も同様のサービスはあると思いますが、「障害のある方が撮影活動を行う」という点に大きな意義があると考えています。
障害のある方と接する機会が比較的少ない小・中学校や保育園の子どもたちにとって、自然な形で障害理解を深める教育・啓発の機会になるのではないでしょうか。
また、公立施設や義務教育課程の現場であれば、そのような教育的価値を持つ取り組みとして積極的に受け入れられる可能性があるのではないか、という発想があります。
Bさん:まち歩きガイドブック編集者
プロフィール
軽度脳性麻痺
知的レベルは高い
車椅子利用
四肢麻痺あり
ヘルパーとほぼ毎日散歩に出かけている
活動内容
施設周辺のおすすめスポットを紹介するガイドブックを制作・販売
飲食店や地域のお店の紹介
コンビニの新商品情報
季節の移ろいや地域の風景の紹介
俳句・詩・写真なども掲載
発想の起点 「散歩を就労の切り口にできないか」という発想から生まれたモデルです。
ほぼ毎日散歩に出かけるのであれば、日々の変化を感じ取りやすく、新商品の紹介もしやすくなります。また、おすすめのお店や新たな発見、地域の困り事にも気づきやすくなります。
さらに、「障害のある方の視点で捉えた街の風景や困り事」は、異なる環境で暮らす人々にとって新たな気づきにつながるのではないかと考えました。
Cさん:ものづくり工房プロデューサー
プロフィール
頚椎損傷による全身麻痺
元大工
OT(作業療法士)へ口頭で指示を出しながら設計図を作成
自分が使いやすい道具を考案・製作している
これまでの製作品
ドリンクホルダー
痰受け
オーバーテーブル
指示棒付き帽子
壁掛け装飾
活動内容
支援員が実際の製作を担当
本人は大工として培った知識やアイデアを提供
「ものづくり工房」として受注生産を行う
発想の起点 一人の人にとって使いやすいものは、他の人にとっても使いやすい可能性があります。
大工としての知識やアイデアはあっても、実際に作業するのは別の人になるため、工程が比較的単純で高度な技能を必要としないものが中心になるでしょう。
しかし、それでもその人がこれまで積み重ねてきた経験や技術、いわば「生きた地層」を活かす取り組みになるのではないかと考えました。
Dさん:映画コンシェルジュ
プロフィール
頚椎損傷による全身麻痺
映画やドラマ鑑賞が趣味
パソコンやDVDで録画作品を楽しんでいる
数百本規模の映画コレクションを保有
活動内容
「映画コンシェルジュ」として活動
今週・今月のおすすめ作品を紹介
シチュエーションや年代に応じた作品提案
映画選びの相談対応
DVDのダビング対応
発想の起点 実際に、土日などの余暇活動の際、職員から「ちょうどいい長さの映画はないかな」「おすすめの作品はないかな」と相談されることがありました。
また、「この映画のこういうところが面白いよ」と勧められた作品が実際に面白かった経験もあります。
利用者それぞれの好みやおすすめ作品を、ラジオの「ヒットチャート」や書店員の「おすすめコーナー」のような形で紹介することで、多くの人の関心を集められるのではないかと考えました。
※その他、意思疎通が難しい方や、障害の重さから一般的な就労に結び付けることが難しい方については、その人の状態や暮らしそのものを社会に知ってもらう役割を担う。地域の小・中学校や保育園に出向き、「障害とは何か」「支援にはどのような工夫や苦労があるのか」を伝える講演会を実施し、講演会スタッフとして登録する。
【生きている、働いている 障害者の就労を地域で支える】
生産性を上げることだけが、労働ではない。生きていることが、働くということ。
働くこと、労働とは、人間が何かに働きかけ、その結果が人間生活に役立つこと。 働く人間と働きかけられた対象との相互作用によって、今までになかった何かが生み出され、それが人間社会の役に立つ時、それは「有用な労働」とみなされる。 (『障害者の労働・雇用支援』目黒輝美、佐々木哲二郎、泉浩徳 著/大学教育出版)
私は、この考え方に強く共感しています。
施設に入所している方々のなかには、企業で働くことや一般的な就労支援の枠組みに乗ることが難しい方もいます。しかし、それは「働けない」ということではありません。
その人が生きてきた歴史。
積み重ねてきた経験。
好きなこと。
得意なこと。
日々の暮らしのなかで培われた知恵。
そうしたものを丁寧に掘り起こし、地域とかけて、むすぶことで、その人にしかできない仕事が生まれるかもしれません。
私は、その可能性を信じています。
そして、その人の人生そのものを仕事へと変えていくアプローチ――それが、かむっくの第二の頂きである「きねづか」です。
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