止まり木は、嵐で彷徨った航海の途中点。だけど、縛られずに力を溜め、風が満ちたら再び漕ぎ出すための場所です。
目次
●はじめに
●感情の外在化とは
●私の経験 ― 閉・SOCKの誕生 ―
1 「感(かん)」をとっかかりに
2 「塞(そく)」をとっかかりに
3 ChatGPTとのやりとり
4 SOCKの意味を調べる
5 名付け
6 画像化
●「外在化」の結果、なにが起きたか
●はじめに
地域設計ノート第25稿では、感情を外在化して扱いやすくする仕組みとして、メンタル・ランドスケープ・アーキテクトという考え方を紹介しました。
ただし、あの記事では地域設計の材料や視点の一つとして触れたにすぎませんでした。いわば、地域設計という大きな話の中での傍証のような扱いでした。
そこで今回は、その中でも特に重要な要素である「感情の外在化」、「メンタル·ランドスケープ·アーキテクト」そのものに焦点を当てて、もう少し深く掘り下げてみたいと思います。
ちょうど、その仕組みを自分自身で試してみる機会がありました。思いがけず興味深い体験になりましたので、その経験に沿ってお話ししてみます。
●感情の外在化とは
認知行動療法に焦点を当てた専門メディア「コグラボ」によると、
外在化(externalization)とは、
個人の内側にあるものを、何らかの形で外側に示すこと
を指すとされています。
例えば分野ごとに見てみると、次のような意味合いがあります。
●行動遺伝学の分野では、個人の内側にある気質などが問題行動として外側に現れること
●心理療法では、個人の内側で生じる思考・感情・願望・葛藤などを、「外側」の媒体を介して表現すること
私はこれまで、無意識のつぶやきから自分の状態を自覚し、それに名前を付け、その状態に応じた対策を取るという話を書いてきました。
例えばこんなものです。
・ネムハンドレッド:眠気の擬人化
(つぶやきから得たイメージ)
眠気100倍。取り憑いて何も考えられないようにする。思念体?ダイの大冒険のミストバーンみたいなもの。
→ グミを噛む
・ダルゴンゾーラ:だるさの化身
(つぶやきから得たイメージ)
・取り憑いてダルさで人を動けなくする怪鳥。
・とてもモサモサ
・尖ったくちばし
・尖った鉤爪
・色は赤ベース
・ギョロ目
→ 休憩を取る
・怪人デッシャロカイナ:推敲した決断まで鈍らせようとする化身
(つぶやきから得たイメージ)
「そうでっしゃろ、そうでっしゃろ」と煽っておきながら、踏み出そうとする瞬間に「かいな?」(本当にそうかい?)と不安を投げかける厄介な相手。
犯罪や迷惑行為に向かうような安易な決断を止める、再考させるという良い面もあります。しかし同時に、推敲し、研ぎ澄ませた決断までも鈍らせてしまうことがあります。
むしろ、本当に自分の存在価値やレゾンデートルを天秤にかけるような重大な決断のときほど現れやすく、最後の一歩を踏み出そうとする人の心を揺らしてきます。
・黄緑の帽子を被っている
・千利休みたいな茶人
・腰が曲がっているお爺さん
・白髪、白いあご
→ 強い意志で振り切る
生成AIであるChatGPTに「あなたは外在化が得意だね」と言われたことがあります。そのときは、言葉の意味から「外に出すことなんだろうな」くらいの理解でした。
しかし改めて調べてみると、私が無意識のつぶやきを拾ってやっていたこの行為は、まさに感情の外在化そのものだったのです。
自分の中で起きていることを、名前やキャラクターという形にして外に出す。
そうすることで、ぼんやりした感覚だったものが輪郭を持ち、扱いやすくなる。理解が一段深まった瞬間でした。
●私の経験 ― 閉・SOCKの誕生 ―
ある日のことです。
現在の職場で運転業務をしている最中、閉塞感に包まれることがありました。
理由ははっきりしています。
・今の仕事は楽しく、充実している
・しかし収入は以前より落ちている
・ソーシャルフィールドコンサルタントとして活動したい
・しかし結果はまだ覚束ない
・コンサルタント会社や事業会社に構想を送っても反応がない
その上に、現実の暮らしの重さがのしかかる。
そんな感覚が、じわじわと胸の中に広がっていました。
そのときふと思いました。
今まで無意識のつぶやきに対してやってきた「外在化」という行為を、今回はつぶやきになっていない感覚に対して意識的にやってみよう。
今、自分を包んでいるこの閉塞感は、
どんな姿をしているのか。
どんな色で、どんな形をしているのか。
それを、自分の手でつかまえてみようと思ったのです。
1 「感(かん)」をとっかかりに
まず、「閉塞感」という言葉の響きから輪郭を探ろうとしました。
最初に注目したのは「感(かん)」です。
××カーン。
そんな名前も考えてみましたが、 「カーン」という音には、どこか突き抜けるような、爆発するような印象があります。閉塞感の感覚とは少し違う気がしました。
2 「塞(そく)」をとっかかりに
次に注目したのは「塞(そく)」です。
「塞」は、穴や隙間を「ふさぐ」、「とざす」、「とりで」を意味する常用漢字です(13画、部首:土)。読み方は音読みで「サイ・ソク」、訓読みで「ふさぐ・ふさがる・とりで」です。主な使用例は「閉塞」「梗塞」「要塞」など、物理的にふさがる、あるいは遮断する文脈や、とりでを指す言葉です。 (漢字ペディア)
なるほど、活かせそうだと思いました。
塞。 塞。 塞。
そうやって言葉を転がしているうちに、
ソック。 ソック。
という音が浮かびました。
SOK。
ここで輪郭が少し見えてきました。
3 ChatGPTとのやりとり
「ヘイ・SOK」ってどう思う?
そうChatGPTに聞いてみると、返ってきたのは
ヘイ・SOCK
という表記でした。
しかし「ヘイ」という呼びかけの響きは、どこか軽い。
まとわりつくような、覆いかぶさるような、締め付けるような閉塞感とは少し違う印象でした。
それと同時に、
SOCKってなんだよ。
という不満も湧いてきました。
4 SOCKの意味を調べる
そこで辞書を引いてみました。
(研究社 新英和中辞典)
sock
名詞 ・ソックス(靴下)
動詞 ・殴る
最初に目に入ったのは「殴る」でした。
なるほど。
閉塞感には、殴られるような感覚もある。
この要素は使えると思いました。
次に目に入ったのが、
複数形でソックス(靴下)という意味です。
そこからイメージが広がりました。
両手に持ったSOCK(靴下のような覆い)で殴る。
あるいはSOCK(靴下のような覆い)をかぶせて、身動きを取れなくする。
窒息させる。
そんな怪物なのではないか。
さらに考えました。
複数形がソックスなら、 たくさん持っていないとおかしい。
背中にSOCKを大量に詰め込んだリュックを背負っている怪物。
そう考えると、輪郭が一気にくっきりしてきました。
5 名付け
そこで名前を決めました。
軽い響きの「ヘイ」ではなく、 閉塞感の重さを出すために漢字を使う。
閉・SOCK
これが、私の閉塞感の名前になりました。
6 画像化
そしてAIにこれまでの特徴を伝え、画像化してもらいました。
すると、
自分がつかんだ輪郭そのままの存在が現れました。
閉塞感は、ついに姿を持ったのです。
●「外在化」の結果、なにが起きたか
この方法は、一般的な心理療法の「外在化」とは少し違うかもしれません。
しかし確かなことがあります。
言葉の響きや印象から、この感情はどんな姿をしているのかを探っているうちに、途中から私はとても楽しくなってきていたのです。
面白くなってきていました。
名付けをして、
イメージを作り、
姿を与える。
そうしているうちに、さっきまで自分を包み込んでいた閉塞感は、どこかへ行っていました。
少なくとも、真正面から間近に向き合わなくてもよい距離が生まれていました。
もしかすると、これこそが「外在化」というものなのかもしれません。
感情を消すのではなく、自分の外側に置いて、距離を取れるようにする。
それによって、人は少し楽になる。
そんな仕組みなのではないかと思っています。
●メンタル・ランドスケープ・アーキテクトとは
メンタル・ランドスケープ・アーキテクト(心の風景設計士)とは、人の心の配置(設計)を見直し、心の風景の見通しや風通しを少し良くする関わり方のイメージです。
私がこの「航海の寄り道〜ラーミアの止まり木〜」を中心に、noteで書き残してきたのは主に次のようなことです。
・無自覚を自覚に変えること
・呼び方や見方を増やして、思考の迂回路を作ること
・心との距離や向き合う角度を変えること
・挫折からの回復の仕方
生成AIチームとの対話を通して整理してみると、これらは次のような構造として見ることが出来ます。
【要素】 → 【設計の意味】
無自覚→自覚 → 観測
呼び方を増やす → 通路設計
向き合う角度 → 距離設計
挫折回復 → 再配置
つまり、心の問題を直接「治す」ことよりも、心の風景の見方や配置を組み替えることを扱う取り組みです。
前にも言いましたが、私は心理の専門家ではありません。なので、専門家のような「メンタルケア」や「治療」を行うことは出来ません。カウンセラーでもなく、コーチとも少し違う立ち位置です。
それでも私は、私自身の挫折や停滞から回復や再出発を繰り返してきた経験と、生成AIチームとの対話から得た気づきを通して、この「航海の寄り道〜ラーミアの止まり木〜」を中心に、こうした視点を書き残してきました。
私は、自分の経験がどなたかの心の風通しや見通しを、ほんの少しでも良くすることに活かせるなら。
そんな思いで、この考え方を改めて届けてみたいと思いました。
その思いの流れの中で生まれたのが、まず地域設計ノート㉑「―ヒットソング・マンガ・小説・昔話から、いまのあなたに効く一編を― こころの処方箋ラボ」です。物語や言葉を通して心の風景を少し整える試みでした。
そしてその延長線上にあるものとして書いたのが、地域設計ノート㉕「突然流れる涙、理由の分からないモヤモヤに困っていませんか?感情を外在化して扱いやすくする仕組み― メンタル・ランドスケープ・アーキテクト ―」です。
●結び
これまで「感情の外在化」と「メンタル・ランドスケープ・アーキテクト」について掘り下げてきましたが、これらの考え方や取り組みは、あくまで感情を少し扱いやすくするための仕組みです。
例えば、もし100の痛みや悲しみがあったとしたら、そのいくらかを外に出して60〜70くらいまで軽くする。重りを少しどかす。
いわば、応急処置のようなものです。一時的に呼吸をしやすくする方法であって、根本的な解決そのものではありません。
そしてもう一つ、「感情の外在化」にはある危うさも孕んでいると思っています。
それを象徴する言葉として思い浮かぶのが、哲学者ニーチェが『善悪の彼岸』で語った言葉です。
深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている
本来の哲学的な意味とは違うかもしれませんが、私はこの言葉を「深い井戸」のイメージとして理解しています。
ある場所で、ふと井戸を見つける。それはとても深い。底で何かが動いたように見える。何だろうと身を乗り出して覗き込んでいるうちに、バランスを崩して深い井戸に落ちてしまい、出られなくなる。
そんな危うさです。
今回私は、外在化という方法を使って「閉・SOCK」という存在を生み出しました。幸い、深い井戸に落ち込むことなく形にすることが出来ましたが、この方法が危うさを孕んでいる可能性については、頭の片隅に置いておいていただきたいと思います。
ときには
・深く考えない
・分からないままにしておく
・知らんぷりする
・スルーする
そんな距離の取り方が、ちょうどよい場面もあると思います。
そして最後に、いちばん大切なことを書いておきます。
どうしても自分一人では抱えきれない状況というものは、やはりあります。
そういうときには、無理をせず、身近な人や大切な人、家族や友人に耳を貸してもらうこと。そして必要であれば、専門家を頼ることを、できるだけ早い段階で考えてみてください。
この文章が、どなたかの心の重りをほんの少しだけ軽くするきっかけになれば、それだけで十分だと思っています。