第10話「本当の距離」

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蒼が地元に戻ってから、一週間が過ぎた。

時間は同じように流れているのに、
澪の生活の中には小さな空白ができていた。

朝起きて、
スマホを見る。

「おはよう」

その短い言葉がある日もあれば、
ない日もある。

以前の澪なら、
ない日だけを数えていた。

でも今は違う。

澪は「ある日」を見るようにしていた。

恋は、
不足を見ると苦しくなる。

でも、
存在を見ると続いていく。

それを、澪は少しずつ理解し始めていた。

その日の夜。

蒼から電話が来た。

久しぶりだった。

「もしもし」

澪が出ると、
少し疲れた声が聞こえた。

「澪、今大丈夫?」

「うん」

澪は窓際に座った。

外は静かな夜。
遠くで車の音が流れている。

蒼は少し間を置いてから言った。

「父の検査結果、出た」

澪の胸が静かに緊張する。

「うん」

「大きな病気じゃなかった」

澪はゆっくり息を吐いた。

胸の奥に溜まっていたものが
少しだけほどける。

「よかったね」

蒼は小さく笑った。

「うん」

でも、その笑いの奥に
まだ何かが残っているのが分かった。

蒼は続けた。

「ただ、しばらくは地元に残ることになりそう」

澪は黙った。

転勤。
家族。
距離。

それは、
予想していた未来だった。

蒼が言った。

「仕事も、
こっちの部署に完全に移るかもしれない」

澪は静かに聞く。

心のどこかで、
分かっていた。

この距離は、
一時的なものじゃない。

沈黙が流れる。

蒼がぽつりと言った。

「澪」

「うん」

「俺たち、どうする?」

その言葉は、
別れの言葉じゃない。

でも、
答えを求める言葉だった。

澪は窓の外を見た。

夜の街。
遠くの灯り。

蒼がいない街。

澪はゆっくり言った。

「距離ってさ」

蒼は黙って聞く。

「別れる理由になる人もいるよね」

「うん」

「でも、
距離ってただの距離だと思う」

蒼は何も言わない。

澪は続けた。

「大事なのは、
距離より“沈黙”だと思う」

蒼の呼吸が止まったような気がした。

「遠くても話せる人は続く」

「近くても黙る人は終わる」

澪は少し笑った。

「それだけだと思う」

電話の向こうで、
蒼が長く息を吐いた。

「澪」

「うん」

「俺、
ちゃんと会いに行くよ」

澪の胸が少し揺れる。

蒼は続けた。

「毎週じゃなくても」

「毎月でもいい」

「電車でも飛行機でもいい」

「会いに行く」

その言葉は、
派手な約束じゃない。

でも、
逃げない人の言葉だった。

澪は少しだけ目を閉じた。

恋は、
未来を保証する契約じゃない。

でも、
未来に向かう意思は必要だ。

澪は言った。

「じゃあ、ひとつ約束しよう」

蒼が答える。

「なに?」

澪は少し考えてから言った。

「距離を理由にしない」

蒼は笑った。

「いいね」

澪は続けた。

「あともう一つ」

「うん」

「沈黙が三日続いたら、
どっちかが必ず連絡する」

蒼が少し驚いた声を出した。

「ルール増えた」

澪は笑った。

「恋は運用だから」

蒼はしばらく笑っていた。

その笑いは、
久しぶりに軽かった。

電話を切ったあと、
澪は窓を開けた。

夜風が部屋に入る。

不思議と、
寂しさは少なかった。

距離があることは
変わらない。

でも、
距離の意味は変わった。

遠いから終わる恋もある。

でも、
遠いから本当になる恋もある。

澪はノートを開いた。

「距離は敵じゃない」

「沈黙が敵」

そして最後に書いた。

「私はこの恋を
遠距離にしない」

ペンを置いたとき、
澪はふと気づいた。

恋が始まった頃、
澪は「追う恋」をしていた。

でも今は違う。

澪は歩いている。

蒼も歩いている。

同じ方向に。

ただ、
少しだけ離れた場所で。

でも、
この物語はまだ終わらない。

次に起きるのは、
二人にとって大きな再会になる。

距離ができてから
初めて会う日。

その再会は、
二人の関係を大きく変えることになる。

第10話 おわり。
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