夜、髪を乾かしながら、ふと手元のドライヤーを見つめた。風の強さを調整するスイッチが三段階あって、なぜだかいつも「中」を選んでしまう。
早く乾かしたいはずなのに、なぜ最大にしないんだろう。何気なくそのことを考えていたら、頭の中でシステム設計の話に繋がっていった。
強風モードは確かに速い。けれど、音がうるさいし、熱風で髪が痛む。弱すぎると時間がかかる。
「中」がちょうどいいのは、スピードと負担のバランスが取れているからだ。
それはまるで、開発プロジェクトの“負荷設計”みたいだと思った。
クライアントの期待が高い案件ほど、スピードを上げたくなる。
「早く仕上げたい」「すぐリリースしたい」
そんな圧を感じると、開発側もつい風量を最大にしてしまう。だけど、無理をすると熱がこもる。
チームも疲弊し、コードの品質も落ちてしまう。
ドライヤーでいうと、乾かすことに夢中になって焦がしてしまう状態だ。
逆に、慎重に進めすぎると、いつまでも髪は乾かない。
スピードを恐れて小さくまとまると、チャンスを逃す。
エンジニアとしての経験を積む中で、この“風量の調整”こそが設計の本質だと気づいた。
「どのくらいの速度で進めると、チームもプロジェクトも気持ちよく回るか」
それを見極めるのは、技術よりも人を見る力だと思う。
フリーランスになってから、特にこの感覚を大事にしている。
新しいクライアントと仕事を始めるとき、まず確認するのはツールでも仕様でもなく、“相手の呼吸”だ。
メールのテンポ、言葉の選び方、打ち合わせの沈黙の長さ。
それらを感じ取って、適切な風量を探る。
急ぎすぎず、でも止まらない。流れを生むことを意識して動く。
ドライヤーを手に持ちながら思った。
「この風の感じ、ちょうどいいな」
そう感じたとき、自分の中でひとつの答えが出た。
設計とは、“ちょうどいい”を探す仕事なのだと。
世の中には、最速・最強・最安といった言葉があふれている。けれど、本当に信頼されるシステムは、使う人にとって「ちょうどいい」ものだ。
派手ではないけれど、心地よく続く。
そんな仕組みを作ることが、僕の仕事だと思っている。
作業を終えて、ドライヤーを机の上に置く。
静かになった部屋の中で、ひとつだけ残った風の余韻。
それが、今日の設計にも少し吹き込まれた気がした。